建築工事の発注方式のひとつである「コストオン方式」は、建築工事の一部や特定の資材について発注者側が施工業者や納入先を指定するものです。本記事ではコストオン方式によるメリットとデメリット、他の発注方式との違いについてわかりやすく説明します。
コストオン契約方式とは?
コストオン契約方式とは、建築・土木工事において採用される発注方式のひとつです。
その特徴としては、一部の工事について発注者側が施工業者(専門工事会社)を指定することが挙げられます。
また特定の資材について発注者が納材業者と価格取り決めを行うケースもあります。
CM(コンストラクション・マネジメント:Construction Management)方式とも呼ばれ、米国では主流となっている発注方式です。
コストオン契約方式の発注の流れ
①専門工事会社や納材業者との直接交渉
まずは、実施設計が完了した後に発注者側が指定業者(専門工事会社)や納材業者と直接交渉を行い、発注金額を決定します。
②元請建設業者の決定
そして、コストオン契約方式であることを条件に、相見積や入札などによって全体工事を発注する元請建設業者を決定します。
①と②の順序は逆になることもあります。その場合は、コストオン契約対象分の価格交渉が完了した後に工事請負契約を締結します。
コストオン契約方式を採用した工事区分については、管理費用として工事発注金額に対して一定の手数料を上乗せする(3~10%程度)ことを事前に取り決めておきます。この上乗せ分の費用を「コストオンフィー」と言います。
③建設会社から指定業者への発注
元請の建設会社が、発注者と事前に取り決めた金額で指定業者(専門工事会社)や納材業者に発注し、全体の工事施工体制に組み入れます。
④元請建設会社の管理のもとで工事の施工
工事の工程管理、品質管理、安全衛生管理を元請建設会社の責任で実施します。仮囲いや現場事務所などの共通仮設物も元請建設会社が用意します。
なお指定業者(専門工事会社)の施工範囲に関しては、元請建設会社ではなく指定業者(専門工事会社)が発注者に対して瑕疵担保責任を負います。
一括発注方式との違い
従来は、各専門工事会社の選定を含めて、元請建設会社に一括発注するのが一般的な方式でした。
これに対しコストオン契約方式を採用すると、発注者が一部工事の施工業者の選定や、使用する資材のメーカー、品番を指定することが可能になります。
コストオン契約方式は発注者の意向を、より反映しやすくする手法と言えるでしょう。
分離発注方式との違い
一部の工事や資材を施主が直接発注し支給する「分離発注方式」も、従来より多く採用されてきた発注方式です。
コストオン契約方式の場合は、発注者が一部の工事や納材の業者を指定しますが、あくまで発注するのは元請建設業者であることがポイントです。
コストオン契約方式のメリット
コストオン契約方式のメリットについて、下記に整理してみました。
発注者の意向を反映しやすくなる
一括発注方式ではコスト・仕様・品質の決定が元請建設会社の判断に委ねられてしまいますが、コストオン契約方式を採用することで、発注者の意向や希望する施工品質を指定業者(専門工事会社)を通して反映しやすくなります。
コストの透明性を担保する
一括発注方式の場合にありがちな、「一式いくら~」という価格で計上されている工事項目の明細を明らかにすることができ、コストの透明性を確保できます。
大量発注によるスケールメリット
元請建設会社が違う複数の工事が同時に進行するような場合は、一部の工事や資材をコストオン契約方式の対象として、大量発注によるスケールメリットが得られる可能性があります。
工事管理体制の維持
分離発注方式では、工程調整・品質管理・安全衛生管理などを各専門工事ごとに発注者の責任で実施しますが、コストオン契約方式の場合は統括管理業務を元請建設会社が一元管理できるので、発注者にとっては非常に安心できます。
コストオン契約方式のデメリット
コストオン契約方式は良いことづくめに見えますが、安易に採用すると本来の目的を達成できないばかりか逆効果になることもあり得ます。
発注者側の負担がアップする
コストオン契約方式のメリットを受けるためには、発注者側にも一定以上の知識と経験が求められます。
指定業者(専門工事会社)との打合せや発注に要する時間が増加し、発注者側の負担が増すことになります。
元請建設会社の受注意欲が下がる傾向
コストオン契約方式を採用する工事区分については、元請建設会社が直接交渉ができず管理経費のみの形状となるため、工事全体の利益率が下がる傾向があります。
そのため、元請建設会社がコストオン契約方式の採用に難色を示すことが往々にしてあります。
相見積や競争入札が不調に終わる危険性
元請建設会社の選定にあたって相見積や競争入札をする場合は、各社とも利益を確保するために慎重な値入にならざるを得ません。
そのため、競争原理が働かずかえってコストアップする危険性もあります。
アフターメンテナンス時の責任区分が曖昧になる
引渡し後に重大な不具合が発生した場合、コストオン契約方式を適用した部分は指定業者(専門工事会社)が発注者に対して直接瑕疵担保責任を負います。
発生した不具合事象の工事区分が明らかな場合は問題ありませんが、複数の工事区分にまたがる場合の原因追求と責任負担の調整は発注者がしなければならないケースがあり、非常に労力を要します。
コストオン契約方式が向いている工事や発注者
以下のようなケースでは、コストオン契約方式での発注に取り組むと大きな効果が出る可能性があります。
コストオン契約方式の導入を積極的に検討してみましょう。
チェーンストア等大量出店を計画している事業者
複数の類似案件をまとめて発注できるため、コストオン契約方式を導入するとスケールメリットが得られやすいでしょう。
自社の業務内容が建築工事に関わりがある事業者
自社施工および自社の協力業者を全体の工事体制の中に組み入れて、コストダウンを図ることが可能になります。
設備のメーカー・保守業者が決まっている事業者
自社と長年の取引があり、信頼関係が構築できている業者を指定できます。
引き渡し後のメンテナンスに関しても従来と同じ対応が期待でき、施設管理の担当者にとって安心できるでしょう。
コストオン契約方式の注意点
コストオン契約方式を導入することが決定した場合には、下記の二点に注意して進めましょう。
対象範囲を広げ過ぎない
一般流通資材や特殊な施工が必要のない工事区分をコストオン契約方式の対象にすると、元請建設会社の意欲を削ぐだけの結果になりがちです。
相見積や入札の不調を招く原因になりうるため、コストオン契約方式の対象範囲は、よく検討して最小限に絞ったほうが良いでしょう。
事前に書面でコストオン協定書や覚書を交わすこと
コストオン契約方式を採用することによるトラブルを避けるために、協定書や覚書を書面で交わすことをおすすめします。
書面に記載する項目例
- コストオン契約方式を採用することにより元請会社に支払う手数料(コストオンフィー)
- 元請会社が実施する統括管理業務の内容
- 元請会社が提供する共通仮設工事の内容
- コストオン契約方式を採用して発注した各専門工事の瑕疵担保責任区分
コストオン契約方式の導入で品質確保しつつコストダウンを実現しよう
ここまで、ココストオン契約方式での建築工事の発注について、その手法とメリット・デメリットなどについて解説してきました。
コストオン契約方式では発注者が指定業者と直接交渉することが必要になりますが、施工の品質やコストをコントロールしやすくなり、発注者側に工事の主導権を取り戻す試みとも言えます。
その反面、従来の一括発注よりも発注者側に知識と経験が求められ、負担も大きくなります。
コストオン契約方式のメリットを最大限に発揮するためには、コンストラクションマネジメント会社や建築コンサルタントの起用も視野に入れて検討すべきでしょう。