地球環境に大きな影響を与えている産業とされている「建築」。日本では、地球温暖化の原因となっているCO2のうち、約3分の1が建物のライフサイクルを通じて排出されていると言われています。この記事では、建築がどのように環境に負荷をかけているのかをはじめ、環境に配慮した建築をご紹介します。
建築が環境に与える影響
「建築」は、地球環境に大きな影響を与えている産業だとされています。特に日本では、地球温暖化の原因となっているCO2のうち、約3分の1が建物のライフサイクルを通じて排出されているそうです。
2050年までに「カーボンニュートラル」、つまりCO2排出を実質ゼロにすることを目指す日本にとって、建築の分野で環境問題に配慮することは非常に大きな意味を持つことといえるでしょう。
では実際にどのような場面で建築が環境に負荷をかけているのか、「資材の生産」「施工」「運用」「解体」という段階に沿って説明していきます。
資材生産段階
まず「資材」の生産段階について見てみましょう。ここでいう資材とは、建築に使われる材料全般を指しています。特に「木(木材)」や「鉄」「コンクリート」は資材の典型です。
木材の調達には森林の伐採が伴います。植物はCO2を吸収するため、森林の伐採は結果として、大気中のCO2の量を増やすことにつながりかねません。植樹を行えば数十年〜数百年後には森林が再生するものの、急速な近代化や建築ラッシュにより「森林破壊」と呼ばれるほどの急速な伐採が世界中で行われています。
一方、鉄やコンクリート、ガラスといった資材を生産するには膨大な熱エネルギーが必要です。これらの熱エネルギーは化石燃料(石油、石炭、天然ガスなど)を燃やして作られるのが一般的ですが、この際に大量のCO2が発生します。
建築資材の生産段階では上記のようなCO2排出に加え、土壌汚染や海洋汚染などが発生することも少なくありません。
施工段階
施工段階では、建築現場に資材を運搬する際にCO2が発生します(トラック、船舶、飛行機による排気ガスなど)し、建築現場で使用する重機も排気ガスを発生させます。
また工事に伴って周辺地域の環境にダメージを与えたり、残土や建築の副産物といった廃棄物が発生することも少なくありません。廃棄物の中には有害物質を含むものも多く、土壌汚染や海洋汚染などの原因になります。
運用段階
建物の運用段階では、空調や証明、給湯、また建物に付帯する設備(たとえばエレベーターやエスカレーターなど)の駆動にエネルギーを消費します。化石燃料を燃焼させるにせよ、電力を使うにせよ、こうしたエネルギーを発生させる際にはCO2が発生します。
もちろん建物を運用する際には改修が必要なこともあるため、その際には資材生産段階や施工段階と同様の環境負荷が発生するでしょう。
解体段階
寿命を迎えた建物は解体されますが、ここでも環境問題が発生します。解体するための重機から出る廃棄ガスはもちろん、大量の廃棄物を焼却処分する際にCO2が発生します。
焼却できない廃棄物は埋め立てなどの方法で処理されますが、この場合も土壌汚染や海洋汚染のリスクを無視できません。
環境に配慮した建築とは
上で説明したように、建築と環境問題の関係は密接です。大規模な開発工事ではそれだけ環境への負荷は大きくなりますし、規模の小さな工事でも、大量に行えばトータルの環境負荷はやはり大きくなります。
環境保全という世界共通の問題に対処するには、環境に配慮した建築、いわゆる「サステナブル建築」が必要です。
ちなみにサステナブル建築は、「地球環境に配慮した取り組み」と「地域環境に配慮した取り組み」に分けられます。また「省エネと快適性の両立」も、サステナブル建築の重要なテーマです。ここではそれぞれの内容について簡単に紹介します。
地球環境に配慮した取り組み
地球環境に配慮した取り組みとしては、主にCO2の排出削減につながるものが挙げられます。
たとえば建物の運用段階でCO2の排出を極力抑えるために「省エネルギー設計」で化石燃料の消費を減らしたり、太陽光発電や風力発電といった「再生可能エネルギー」の活用を推進することがその典型です。
他にも、優れた機能を持ちながら少ない環境負荷で製造できる「エコマテリアル」を活用して資材生産段階の環境負荷を減らす、「高寿命」な建物設計や「ライフサイクルマネジメント」によって建物を長く維持し、施工や解体による環境負荷を減らすことも含まれます。
国際的な環境基準に対応するため、LEEDやEnergy Starといった「環境性能評価認証システム」に準拠することも重要な取り組みといえるでしょう。
地域環境に配慮した取り組み
地域環境に配慮した取り組みは、自然環境の保全や、地域全体の持続可能な開発の実現が中心です。
一例として挙げられるのが、屋上緑化やグリーンカーテンなどによる「ヒートアイランド抑制」、ビオトープの設置などによる「生態系の保全」などです。
また歴史的建造物が連なる街並みで、景観に配慮した建物を設計・施工することも地域環境への配慮といえます。
もちろんエコマテリアルの活用や高寿命設計、ライフサイクルマネジメントなどにより、地域の自然環境に与えるインパクトを最小限に抑えることも重要です。建物を運用する際には騒音や光害を発生させないための配慮や、防災面への備えも必要でしょう。
省エネルギーと快適性の両立への取り組み
省エネルギーは地球環境に配慮した取り組みにおいて重要な要素でしたが、結果として建物利用者の快適性が大きく損なわれるようでは、建築の意義そのものが問われるでしょう。このため省エネルギー(およびその他の取り組み)と快適性の両立も重要です。
ただしひとくちに「快適性」といっても、その内容は多岐に渡ります。ここでは6つのポイントを紹介します。
- 安全:安全には、平常時に建物を安全・安心に使用できることに加え、地震や台風といった非常時への対策も含まれます。
- 健康:健康とは、人体に与える影響への配慮のこと。これにはCO2や一酸化炭素といった有害なガスや化学汚染物質の発生抑制、感染症対策、不快にさせる臭いの抑制などが含まれます。
- 快適:建物を快適に利用するには、室内温度の管理や照明、騒音対策などに配慮した設計が必要です。
- 便利:建物の利便性を高めるポイントとしては、効率的な導線設計やエレベーターの待ち時間への配慮、通信ネットワークの整備などが挙げられます。
- 空間:建物空間については、眺望や室内の広さ、色彩、さらには建物を利用するコミュニティ(共同体)への配慮が欠かせません。
- 更新:更新とは、建物を利用し続けるための可変性や拡張性、収納性などのことです。
省エネルギーと快適性の両立への取り組みにおいては、これらの6項目を考慮して、バランスのよい設計を行うことが大切です。
環境性能評価システムCASBEE®(キャスビー)について
最後に、建物の環境性能を客観的に評価する仕組みとして「CASBEE」を紹介します。
CASBEEは2001年に産官学共同プロジェクトとして誕生した「環境性能評価認証システム」のひとつで、環境負荷の少ない資材の使用や省エネルギー設計、快適性や景観への配慮などを総合的に評価するものです。
CASBEEは国内の建築事業者や設計事務所、不動産投資機関などが多く利用されているほか、地方自治体の一部も届出制度に利用しています。
CASBEEの目的は「建築物の環境に対する様々な側面を客観的に評価する」ことです。具体的には、
- 建築物のライフサイクルを通じた評価
- 建築物の環境品質と環境負荷の両側面からの評価
- BEE(建築物の環境性能効率)に基づいた評価
という3つの面から5段階(S・A・B+・B−・C)で評価を行います。
環境問題を意識した建築を目指しましょう
地球環境や地域環境にとって、建築は重要なポイントのひとつです。環境に配慮した建築を行うことは、地域はもちろん国にとっても、世界全体にとっても非常に大きな意味を持ちます。すべての建築業者は、規模の大小にかかわりなく、環境問題を意識した建築を目指していきましょう。