建物の構造は大地震に耐えられることを基準として設計されています。建築基準法に則り構造計算する耐震構造に加えて、制振構造や免震構造などの大地震時の被害を最小限に抑える構造方法もあります。この記事では3つの構造を比較して分かりやすく解説します。
耐震構造とは
耐震構造とは、大きな地震が発生した時に建物が受ける被害を最小限に留めて人命を守るための建築構造のこと。ここではまず、耐震構造の基本的な考え方について見ていきましょう。
建物の構造で検討すべき要素
建築物の構造設計をするにあたっては、常時作用する「長期荷重」と、特定の条件下で作用する「短期荷重」の両方の影響を考慮する必要があります。
長期荷重 | 固定荷重 | 建物の自らの重さ |
積載荷重 | 建物の床や屋根に載る人間や備品・設備機械等の重さ | |
短期荷重 | 地震荷重 | 地震発生時に建物が横向きに揺さぶられる力 |
風荷重 | 強風時に建物が横に押される力 | |
積雪荷重 | 屋根や屋上に積もった雪の重さ ※多雪地域では長期荷重に分類 |
このうち耐震構造の設計検討に影響するのは「地震荷重」になり、地震の多い日本ではこの地震荷重の検討によって建物構造の大勢が決まると言っても差支えありません。
建物に作用する地震力と耐震構造の考え方
耐震構造を設計するにあたって考慮すべき地震の大きさには、「レベル1地震動」と「レベル2地震動」があります。
レベル1地震動 | 極めて稀に(数百年に一度程度)発生する地震力 | 東京を想定した場合震度6強から7 |
レベル2地震動 | 稀に(数十年に一度程度)発生する地震力 | 東京を想定した場合震度5強 |
震度5強を想定した「レベル2地震動」はその建物の耐用期間中に一度以上は受ける可能性が高いものです。そのため、このレベルの地震力では建物が損傷しないことが構造設計の原則になります。
問題となるのが、震度6強から7を想定した「レベル1地震動」です。このレベルの建物が倒壊せず、人命を守ることを目標とするのが耐震構造設計の基本的な考え方です。
レベル1地震動を受けても、建物が損傷せずに継続して使用できて資産価値も損なわないことを目標とするのが、さらに耐震性能を高めた「制振構造」や「免震構造」の考え方になります。
関連記事:建築工事の構造設計とは?「構造適判」制度についても解説します
耐震構造と建築基準法
耐震構造をより深く理解するために、建築基準法等の法規上で耐震基準がどのように規定されているかを押さえておきましょう。
建築基準法の耐震基準
日本国内で建築される建物の最低限度の仕様と性能は「建築基準法」で規定されています。
建築基準法では、幾度もの大地震で建物被害が報告されるたびに、構造仕様基準の改正が繰り返されてきました。
特に大きな転換点となったのが1978年(昭和53年)の宮城県沖地震(M7.4・宮城県仙台市で震度5)です。この地震による被害調査を受けて、1981年(昭和56年)に建築基準法が改正されこれまでの基準が改正されて、いわゆる「新耐震基準」となりました。
新耐震基準では、耐震性能の評価に「保有水平耐力」という考え方が導入され、建物が損傷しても倒壊は免れて人命を守るシェルターとしての役割は果たすという考え方が採用されるようになっています。
新耐震基準では、次の考え方により構造強度基準が定められていることを覚えておきましょう。
- 「レベル1地震動」に対して「倒壊・崩壊しないこと」
- 「レベル2地震動」に対して「損傷しないこと」
住宅性能評価と耐震等級
2000年(平成12年)に「住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)」が施行され、その大きな柱として「住宅性能表示制度」が設けられました。
これは、住宅の建物性能を第三者機関が認証するもので、任意の制度です。その中で、建物の構造強度に関する性能は次に掲げる「構造の安定」という項目で評価されています。
(1-1)耐震等級(構造躯体の倒壊等防止)
(1-2)耐震等級(構造躯体の損傷防止)
(1-3)その他(地震に対する構造躯体の倒壊等防止及び損傷防止)※免震建築物の評価
一般社団法人住宅性能評価・表示協会 地震などに対する強さ(構造の安定)
「品確法」では、建築基準法を満たす耐震性能を「耐震等級1」と規定して、等級2は1の1.25倍の力に耐えられ、等級3は1の1.5倍に耐えられることを示します。
住宅の購入にあたっては、耐震等級の確認をすることが重要です。
耐震等級 | 構造躯体が倒壊・崩壊しない震度限界(1-1) | 構造躯体が損傷しない震度限界(1-2) |
---|---|---|
耐震等級1 (建築基準法レベル) | 震度6強から7 (レベル1地震動) | 震度5強 (レベル2地震動) |
耐震等級2 | 等級1の1.25倍の地震力 | 等級1の1.25倍の地震力 |
耐震等級3 | 等級1の1.5倍の地震力 | 等級1の1.5倍の地震力 |
※「構造の安定」(1-3)で免震建築物であることが確認された場合、耐震等級評価は行いません。
※「認定長期優良住宅」では耐震等級3が必須となります。
制振構造とは
耐震構造設計の手法のひとつとして「制振構造」があります。
これは、地震による横揺れの力である水平力をゴムやオイルダンパー等の「制振装置」に吸収させる工法です。制振装置が建物上屋の横揺れによるしなりを上手く受け流す働きをし、建物の損傷を最小限に食い止めることが期待できます。
制振装置には「筋交い型」「壁型」「間柱型」があり、耐震補強として既存建物に後付けで設置することも可能です。
免震構造とは
「免震構造」は、基礎と建物上屋をボールベアリングや免振ゴム等の「免震装置」で絶縁して地震による水平力を軽減する工法です。免震装置には「積層ゴム支承」「すべり支承」「転がり支承」など、各種の装置が開発されています。
免震装置によって地盤と建物上屋が切り離されるため、横揺れを建物に伝わりにくくする効果があり、大地震への対策としては現状で最上の技術と言えます。
反面、導入コストが大きいことや、制振装置によって建物が動くために敷地に余裕が必要であるなどのデメリットもあります。
免震構造は高層ビルや保安上極めて重要な建物で採用されることが中心でしたが、南海トラフ地震などの近い将来に発生する危険がある巨大地震への備えとして、近年では一般住宅への導入事例も増加しています。
それぞれの構造の比較と設計グレードの考え方
ここまで挙げた各種の耐震構法を比較してまとめてみました。
構造方法 | 耐震構造 | 制振構造 | 免震構造 |
---|---|---|---|
耐震の考え方 | 柱や梁・壁などの構造躯体の強度で地震の横揺れに耐える | 構造躯体に取り付けた制振装置に地震の横揺れエネルギーを吸収させる | 地盤と建物基礎の間に免震装置を取り付け、揺れが直接建物に伝わらないようにする |
大地震時の状況 | レベル1地震動を受けると建物の再使用が難しくなる可能性があり、余震で倒壊する危険性もある | 耐震構造よりも揺れ幅を小さくでき、構造躯体の損傷も最小限に抑えられる | 地盤と縁が切れているため建物に直接地震力は伝わらない |
建築コスト | 小 | 中 | 大 |
安心安全な建物に最適な耐震構造を検討しましょう
ここまで、耐震構造について様々な角度から解説してきました。
現在の建築基準法に則って建築される建物は、震度6強から震度7の大地震にも十分に対応できるように設計されているため、「建築基準法レベル=耐震性能が劣る」ということにはなりません。
そのことに留意して、耐震構法の選定にあたっては建物の立地や用途に応じて費用対効果のバランスを十分に検討するべきでしょう。