建設業界では、慢性的な人手不足と働き方改革の推進により経営はさらに厳しさを増しています。多くの問題を解決する切り札として期待されているのが建設業のDXです。この記事では建設業にDXを取り入れて生産性を向上する方法と実例について解説しています。
建設DXとは?
「建設DX」という言葉を頻繁に耳にするようになりました。まずはその言葉の意味から説明します。
DX(デジタル・トランスフォーメーション)
「DX」とは「Digital Transformation」の略語で、デジタル技術の発達によって人々の生活をより良くしていく取り組みのことです。IT(情報技術)の普及によって、ただ便利になるだけではなく生活をあらゆる面で良い方向に変化(トランスフォーメーション)させることを指します。
建設業におけるDXの可能性
デジタル技術を導入して業務の効率化や人材不足などの課題を解決しようとする取り組みを「建設DX」と呼びます。建設DXの例としては、ICT機器の導入や設計のBIM化、AIの活用などが積極的に研究されており、すでに多くの現場に建設DXが導入されています。
建設業を取り巻く課題
建設DXが必要とされる前提として、現状の建設業を取り巻く課題について整理してみましょう。
人手不足
国土交通省の調査によると、建設業の就業者数は492万人(令和2年度)で、ピークの685万(平成9年度)と比較して3割近くも減少しています。
加えて建設業界では全体の約36%を55歳以上が占めており、29歳以下の就業者は約12%しかいません。高齢化が進行し、新規就労者も少なくなっている状況です。
今後は団塊世代の技術者・技能者の大量引退の時代を控えており、次世代への技術承継が大きな課題となっています。
建設業における人手不足については、こちらの記事でも詳しく解説しています。
関連記事:建設業における人手不足とは?人手不足の原因から解決策まで徹底解説
働き方改革
建設業界では、これまで猶予期間とされてきた「働き方改革関連法」の完全適用を2024年度に控えています。働き方改革関連法の適用により、時間外労働は原則として月45時間以内かつ年360時間以内に制限され、今までのようなマンパワーに任せた労働はできなくなるでしょう。
工事現場においても、公共工事を中心に週休2日制(4週8休)の導入が進んでおり、2024年度からは民間工事においても導入が加速するとみられています。
また、これまで日給月給制だった労働者が固定給に移行するケースが増えることで、人件費は必然的に上昇すると予想されます。
生産性の低さ
中小企業庁の調査によると、建設業の労働生産性(従業員一人当たりの付加価値額)は他の産業と比較して決して高いとはいえません。
生産性の向上は、人手不足への対応と働き方改革および週休2日制への完全移行のために必須の課題です。
業種 | 労働生産性(万円) ※中小企業の場合 |
宿泊業, 飲食サービス業 | 149.9 |
生活関連サービス業,娯楽業 | 163.4 |
小売業 | 252.5 |
医療,福祉 | 307.6 |
その他サービス業 | 361.6 |
製造業 | 374.8 |
建設業 | 399.1 |
不動産, 物品賃貸業 | 430.8 |
運輸業,郵便業 | 456.7 |
学術研究,専門・技術サービス業 | 486.1 |
情報通信業 | 522.5 |
卸売業 | 545.9 |
現地屋外生産
建設業の効率化が難しい理由のひとつとして、「現場で一点ものの建築資材を屋外生産するケースが多い」ことが挙げられます。このため、工場で量産品を大量製造ような効率化が期待できません。
また屋外での作業になるため、台風や大雨といった気象条件によってスケジュールが影響を受けやすいことも課題となっています。
建設DXの取り組みと効果
最近では、建設業を取り巻く様々な課題を建設DXの取り組みによって解決しようとする動きが活発です。
国土交通省の取り組み
国土交通省では「i-Construction」を推進し、建設現場の生産性を2025年度までに2割向上することを目指しています。i-Constructionとは、調査・測量から設計・施工・検査・維持管理・更新までの全ての建設生産プロセスでICT等を活用する取り組みのことです。
i-Constructionでは、従来の3K(きつい・汚い・危険)のイメージを払拭して、全国の建設現場を新3K(給与が良い・休暇がとれる・希望がもてる)の魅力ある現場に劇的に改善することを目標としています。
環境の改善によって多様な人材を呼び込むことができれば、人手不足の解消につながるでしょう。
ICT技術の導入
土木の分野では、ドローン等を用いた3次元測量や「ICT建設機械」による省人施工への取り組みも活発に進められています。
ドローンを活用して撮影した航空画像から、地形の3次元データを作成する技術が実用化されています。この技術によって測量図を自動作成すると、測量調査に掛かる日数を大幅に削減することが可能です。
また、3次元測量のデータと設計図面を比較して、掘削する深さや施工範囲を算出して自動運転が可能なICT建設機械を導入すると、施工日数も劇的に短縮できるでしょう。
それに加えて、調査や施工で使用された3次元データをパソコンで確認することによって施工のチェックおよび検査が可能になり、現場管理者の労務量の削減にもつながります。
AIによる設計や施工計画の自動化
AIによる設計や施工計画の自動作成の取り組みも進められています。
AIによる設計では、過去の建築実例のデータベースをもとに要求される建築条件に合致する仕様やデザイン、構造を自動生成します。これにより、設計時間の大幅な短縮が期待されています。
施工計画の検討にもAIを導入する動きがあります。これは、プロジェクトの計画工程と実施工程の差異を管理して、さまざまな条件に合わせて最適な工程や仮設計画を自動作成するものです。
建築分野におけるAIの活用についてはこちらの記事でより詳細に解説しています。
関連記事:建築AI活用の取り組みとは?AIの導入で建築業界に起こる変化について解説!
BIM/CIMの活用
BIMとは「BuildingInformation Modeling」の略称で、コンピューター上で3Dの建築モデルを作成し「企画・設計・施工・建築・維持管理」に関する情報を、簡単に管理・活用できる仕組みのことです。
土木ではCIM(Construction Information Modeling)の名称が用いられます。国土交通省は「2023年までに小規模を除く全ての公共事業にBIM/CIMを原則適用」することを決定しており、建設DXを進めるうえで必須の技術となっていくでしょう。
BIMについてはこちらの記事でより詳細に解説しています。
関連記事:BIMとは?導入のメリット・デメリットや3D CADとの違いを解説
建設DXの取り組み事例
企業が建設DXに取り組む事例が増えています。その事例についてご紹介します。
清水建設の事例
清水建設では、設計の企画段階でのコンピュテーショナルデザイン「Shimz DDE」を推進しています。
竣工時まで設計のBIMデータを連携する「Shimz One BIM」と、工事現場においてロボットや3Dプリンターを活用する「Shimz Smart Site」と組み合わせた建設DXの統合システムの研究と導入が進められています。
参照:清水建設HP
鹿島建設の事例
鹿島建設では、建物情報のデジタル化を進めています。
具体的には仮想空間上に実際の建物を再現する「デジタルツイン」を作成し、設計者や監理者が実際に工事現場に出向かなくても、バーチャルでの検証結果に基づいて正確な指示を出せる仕組みを実現しています。
デジタルツインで作成されたバーチャル建物のBIMデータは、その後のファシリティマネジメント(※)でも活用が可能です。修繕や設備更新、最終的には解体まで建物のライフサイクルすべてにおいて正確なコストマネジメントが可能になるでしょう。
※ファシリティマネジメント…建物の資産価値を高めるために、経営的観点から修繕・改修・ランニングコストの削減を計画し実施すること。
参照:鹿島建設HP
建設DXを推進して生産性を向上させましょう!
建設DXは、建設業界の課題である生産性の低さを改善して人手不足を解決する大きな可能性を秘めています。
ただし、多くのことを同時に導入すると社内に離脱者を出してしまい、逆効果になる可能性もあります。まずは自社の業務の問題点を分析して、DXによって解決可能なターゲットを見つけてみましょう。