建築業界では、労働者の高齢化にともなう大量退職という「2025年問題」が目前に迫っています。業界だけでなく社会や経済にも大きな影響を与える2025年問題に対し、業界全体で取り組める解決策を説明します。
2025年問題とは
2025年問題とは、日本全体の人口構成変化による社会的課題、具体的には「労働者の大量退職による労働力不足」を指す言葉です。
2025年にはいわゆる「団塊の世代」(第一次ベビーブームが起きた時期に生まれた世代)がすべて75歳以上の後期高齢者となり、75歳以上の人口が全人口の約18%に達します。
参考:厚生労働省「我が国の人口について」
一方で、出生数は減る一方です。厚生労働省の「令和4年(2022)人口動態統計月報年計(概数)の概況」によると出生数は7年連続で減少しており、2022年には初めて80万人台を割り込みました。合計特殊出生率も過去最低の1.26となっています。
人口を維持するために必要な合計特殊出生率は2.07以上とされており、現在の状況がいかに危機的かがおわかりいただけるでしょう。
建築業界は2025年問題の影響を受けやすい業界のひとつと考えられており、労働者の確保が緊急の課題となっています。
2025年問題の原因
2025年問題の原因はひとつではありません。ここではいくつかのポイントを紹介します。
労働者の高齢化
一番の大きな原因と考えられるのは、建設業界における労働者の高齢化です。
すでに説明したとおり、2025年には団塊の世代が全員「後期高齢者(75歳以上)」になります。これに対し、現時点で新たに入ってくる若手の数は極めて少なく、業界全体の平均年齢は上がる一方です。
若手の流入が少ない理由としては、建築業界に共通する「労働時間の問題」「給与条件の問題」「労働環境の問題」などが挙げられます。それらの課題について、以下に紹介していきます。
労働時間の問題
建築業界は伝統的に長時間労働が常態化し、年間出勤日数の多さも顕著な特徴となっています。特にプロジェクトがピークを迎える期間には深夜まで働くこともあり、休日出勤も珍しくありません。
健康管理や体調管理が難しいこと、仕事とプライベートとの両立の難しさなどから、建築業界は若者にとって魅力の低い業界となっています。
給与条件の問題
給与条件の面でもいくつかの問題が存在します。
まず挙げられるのが「賃金上昇のピークが早い」という特徴です。経験年数が浅い段階では他業種と比べて比較的高い給与が支払われますが、その後の賃金上昇率は伸び悩みます。
また建築業界では日給制を採用している企業が多いため、天候やプロジェクトの都合により仕事がない日が連続すると、その期間の収入が不安定になります。
労働環境の問題
建築業界の労働環境には、伝統的な職人文化が強く残っています。これは多様な価値観や働き方を求める現代の若い世代にとって、大きな障壁のひとつです。
また安全面でも課題があります。多くの建築現場では重機や道具を使う仕事が多く、どれだけ安全対策を徹底しても、他の業種と比較して事故リスクが高いのが現実です。
さらに、業界全体でデジタル化が送れているという問題もあります。最新のテクノロジーを活用した作業効率化や情報共有が不十分で、これも若手の参入を阻んでいます。
建設需要の高まり
問題を一層深刻化させているのが「建設需要の高まり」です。日本では2020年(当初)の東京オリンピックにともなう施設整備をはじめ、都市再開発やインフラ老朽化対策などの建設需要が続いています。
しかし上で説明したとおり、労働者の高齢化や労働者数の減少、デジタル化の遅れなどにより、建築業界は十分な余裕をもって需要に応えることができていません。このことがさらなる長時間労働などを誘発し、業界全体が悪循環に陥っているのです。
2025年問題を解消するには
この状況を改善するためには、若手が入職しやすい環境の整備が欠かせません。ここでは政府が主導する「働き方改革」や「DX(デジタルトランスフォーメーション)」などの取り組みを中心に紹介します。
労働時間の短縮
常態化する長時間労働や休日の返上などを解消することは、労働者の生活や健康を保護するだけでなく業界全体のイメージアップにつながります。
政府は「働き方改革」として、罰則付きの「時間外労働の上限規制」を設け、建設業界でも2024年4月から適用されることになりました。また建設業界全体で週休2日制を導入しやすくするため、週休2日対象の公共工事の拡大にも取り組んでいます。
関連記事:働き方改革で訪れる「建設業の2024年問題」とは?事業者が注意すべきポイントを解説
適正な工期の設定
「減少する労働者」と「増える需要」により、建築業界では短い工期設定が状態化しています。しかし過度な短納期は質の低下を招くだけでなく、長時間労働を助長します。
業界全体が陥っている悪循環を絶つためにも、発注者・受注者双方が協力して、余裕を持った工期(適切な工期)を設定することが重要です。
なお国は「建設工事における適正な工期設定等のためのガイドライン」を制定するなどして、この取り組みを後押ししています。
参考:建設工事における適正な工期設定等のためのガイドラインについて(平成30年7月2日 改訂) – 国土交通省
給与制度の改善
給与制度の改善も重要なポイントです。まず「賃金上昇のピークが早い」という問題に対して、業界全体として取り組む必要があるでしょう。
また天候などの影響を受けやすいという業界の弱点を補うため、日給制を見直して安定した給与を提供したり、収入減に対する補填制度を設けるなどの工夫が必要です。
DXの推進
デジタル技術の導入は業務の効率化につながります。すでに成果を挙げている取り組みには以下のようなものがあります。
- ICT機器を装着した重機による遠隔作業
- ドローンを活用した測量
- 3次元モデルデータの活用
- AIによる情報分析
- クラウドサービスによる情報共有
より具体的な最新事例は、国土交通省の「インフラDX大賞(i-Construction大賞)」でも紹介されています。ぜひ確認してみてください。
参考:インフラDX に関する優れた取組を行った25 団体を発表!~令和4年度 インフラDX 大賞の受賞者を発表します~ – 国土交通省
参考:i-Construction推進コンソーシアム | 2021年 i-Construction大賞
建築業界の働き方改革で2025年問題を乗り越えましょう
2025年問題は建築業界にとって避けて通れない大きな課題です。しかし、それは同時に、業界が自分たちの体質を改革して、新たな価値を創出するチャンスでもあります。
週休2日制の確立、適正な工期設定、給与制度の見直し、そしてデジタル化など、さまざまな施策を実行することで業界はより健全な形に進化し、次世代の若者にとって魅力的な業界へと進化することができるでしょう。