建築工事を希望の予算内に収めるためには、適切なタイミングで概算見積を取得することがおすすめです。この記事では概算見積の種類と取得のタイミングについてプロジェクトの進捗ごとに解説するとともに、概算見積もりがどの程度信頼できるかについても説明します。
概算見積とは?
建築工事の概算見積とは、発注者が希望する内容に対しての工事金額を、建設会社や設計事務所/建築コンサルタントが大まかに算出したものです。
本見積(正式見積)の前段階で、プロジェクト予算の策定・管理のために用いられます。
概算見積は、プロジェクトの進行に応じて設計が詳細になるにつれて精度が高くなっていきます。
建築工事の計画時によく用いられる概算見積は、以下の3種類です。
- 坪単価概算
- 大項目概算
- 概算見積書
次章では、この3つの概算見積の内容と本見積までの流れについて詳しく解説していきます。
概算見積から本見積までの流れ
プロジェクトの進行に合わせて概算見積から本見積へと移る流れについて、段階ごとに解説します。
概算見積①坪単価概算
設計進捗 | ラフプラン |
目的 | プロジェクト予算の策定 |
取得方法 | 自社実績や同業他社事例を参照・設計事務所や建築コンサルタントに依頼 |
見積制度 | ±30% |
坪単価概算は、プロジェクトの初期段階で費用を大まかに把握しておくために簡易的に用いられます。
計算式は次の通りです。
坪単価概算見積=施工面積(坪・㎡)×面積単価(坪あたり・㎡あたり)
ここで用いる面積単価は、発注者が自社の過去発注実績や同業他社の事例情報を取集して算出します。
企画段階から設計事務所や建築コンサルタントが参画する場合には、概算設計見積を作成します。
取引のある建設会社から最新の情報を入手できれば、より精度が高まるでしょう。
プロジェクトに掛けられる予算総額が決まっている場合は、坪単価から逆算して施工規模を算出することも可能です。
概算見積②大項目概算
設計進捗 | 企画設計 |
目的 | プロジェクト予算管理 |
取得方法 | 取引先建設会社・設計事務所や建築コンサルタントに依頼 |
見積制度 | ±20% |
プロジェクトの方向性が決まり企画設計が進んだ段階で現実的な予算を把握しておくと、その後の手戻りが少なくなります。
企画設計では建物の配置と平面計画、想定の立面図やパースがある程度作成できていますので、坪単価より一歩進んだ見積精度が期待出来ます。
この段階での概算見積は取引のある建設会社か、設計事務所や建築コンサルタントから取得します。
この段階での概算見積は、下記のような大項目ごとに一式で想定工事金額が査定されます。
- 共通仮設工事
- 建築工事
- 電気設備工事
- 給排水機械設備工事
- 外構工事
- 諸経費
出てきた金額によっては、建物の平面計画やボリュームの見直しを行う必要があります。
概算見積③概算見積書
設計進捗 | 基本設計 |
目的 | プロジェクト予算管理・候補業者の絞り込み |
取得方法 | 建設会社に依頼 |
見積制度 | ±15% |
基本設計が完了した段階で、複数の建設会社から概算見積を取得する方法もあります。
見積の対応スピードやNET金額(※1)の提示などから各業者の受注意欲を計り、本見積へ進む建設会社を絞り込むことが目的になります。
また、この段階で予算超過が判明すれば、設計変更により着地金額をコントロールすることも可能になります。
※1 NET金額・・・建築工事においては、見積書で提出した正規の額面とは別に、実際の工事契約希望額・請求金額として提示される金額。企業努力による単純値引き(出精値引き)を含んだ金額。
本見積
設計進捗 | 実施設計 |
目的 | 施工会社の選定 |
取得方法 | 建設会社に依頼・業界紙等で公募 |
見積制度 | 確定 |
実施設計が完了したら、いよいよ本見積です。
コストダウンのためには、見積を取得するのは一社だけでなく、相見積もしくは入札により施工会社を選定しましょう。
更なる競争を促すために、概算見積に参加していない建設会社を加えるのも効果的です。
各社の見積を比較し候補となる建設会社を一社選定したら、工期や仕様などの細部を確認し、工事発注金額を確定します。
希望金額に至らなかった場合は、仕様の見直し(VE※2)や一部工事の削減(CD※3)を含めて交渉し、希望金額に近づける努力をしてもよいでしょう。
※2 VE・・・「Value Engineering(バリュー・エンジニアリング)」の略称で、建築物の機能や性能を最適化しコストを削減することを目的として行われる手法。品質を維持しながらコストを削減することが目標となる。
※3 CD・・・「Cost Down(コスト・ダウン)」の略称で、一部の工事項目を取りやめたり規模を縮小するなどしてコストを削減することを目的として行われる手法。VEでは実現不可能なレベルの金額を削減するためにやむなく実施する。
概算見積の信頼性について
概算見積の信頼性を高めて、プロジェクトの予算管理をスムーズに進めるためのコツをご紹介します。
予算通りに建築できるのか?
企画設計や基本設計の段階では、工事金額の大きなウエイトを占める建物構造や設備の詳細設計はまだ完了していません。
価格の変動要素があることは、概算見積の備考欄に「見積条件」や「ただし書き」が記載されますのできちんと目を通しておくようにしましょう。
設計図から判断できない部分は各社の経験に基づく判断に委ねられるため、一般的には金額を安全側に見て高めに提示される場合が多くなります。
それらの可能性を見込んだ着地金額を常に把握しておくことが、プロジェクトの予算管理を成功させるコツです。
また、設計事務所や建築コンサルタントから「設計見積」を取得すると、数量や工数のチェックを根拠を持ってできるため、より効果的です。
設計見積を概算見積と組み合わせて取得すると、施工品質と見積の信頼性を担保することになり、建設会社へのけん制にもなるでしょう。
概算金額が安い建設会社にそのまま依頼してよいのか?
概算見積の金額が安くても、見積精度が低く信頼性に欠ける会社も存在します。
そのような会社は、工事期間中でも何かと理由を付けて追加変更の増額見積を出される危険性があるため注意が必要です。
概算見積の段階で早期に一社に絞ることは避け、複数社の競争による本見積を確認してから選定するべきです。
自社の取引建設会社が少ない場合や心当たりがない場合は、設計事務所や建築コンサルタントから信頼のおける会社の紹介を受けたり、各地域で発行されている建設業界新聞等で見積参加社を公募する方法もあります。
概算見積を取得して建築費の予算管理を徹底しましょう
ここまで、建築工事の概算見積について解説してきました。
一口に概算見積と言っても、プロジェクトの進行に合わせて求められる精度と目的が変わってきます。
プロジェクトの予算管理を徹底するためには、その局面で「何を目的として概算見積を取得するのか?」をはっきりとさせて、効率的かつ効果的に概算見積を取得しましょう。