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建築工事の「設計見積」とは?他の「見積」との違いや利用方法について説明します

公開日:2023.03.30 更新日:2023.04.10
建築工事の「設計見積」とは?他の「見積」との違いや利用方法について説明します

設計見積とは、建設会社ではなく、設計事務所や建築コンサルタントが算出する工事見積のこと。本記事では設計見積が必要となるタイミングや設計見積の算出方法に加え、設計見積が建築主にとってどのように役立つかについて解説していきます。

設計見積とは?

建築工事の設計見積とは、発注者の求めに応じて設計事務所や建築コンサルタントが算出する工事見積のことです。

建設会社の見積とは違い、工事の施工金額を取り決めるものではありません。

その工事のボリュームや仕様に対して、妥当と思われる一般的な費用を、過去の工事実績や市況などさまざまな角度から考察して算出するものです。

設計見積は、建築プロジェクトの進捗に合わせて取得しますが、企画設計段階と実施設計の段階では、取得する意味合いが変わってきます。

  • 設計検討段階での設計見積・・・概算見積として取得し、プロジェクトの予算策定と工事ボリュームのコントロールのために活用します。
  • 実施設計後の設計見積・・・本見積(正式見積)の前に取得し、建設会社が作成する見積の正確さを担保するために活用します。

次章では、それぞれの設計見積の詳細について解説していきます。

設計見積が必要なタイミングと算出方法

プロジェクトの進行に合わせた設計見積の取得方法と、その活用の仕方について解説します。

概算見積としての設計見積

建築計画の基本構想を検討している段階で、工事予算の管理を目的として設計見積を取得することがあります。

設計の進行に応じていくつかの段階がありますが、設計見積を適切なタイミングで取得すれば、想定される予算を確認しながら工事のボリュームや仕様を軌道修正できるというメリットがあります。

設計見積は社外の設計事務所や建築コンサルタントに依頼して取得します。

取得するタイミングとしては、設計進捗に合わせて、次の3つのタイミングが考えられます。

①ラフプランの段階

工事で想定される坪単価により概算で算出されるもので、計算式は次の通りです。

 坪単価概算見積=施工面積(坪・㎡)×面積単価(坪あたり・㎡あたり)

坪単価による設計概算見積は、プロジェクトの初期段階で費用を大まかに把握しておくために簡易的に用いられます。

目標とする総予算が決まっている場合は、坪単価から可能なボリュームを逆算してすることも可能です。

坪単価は、類似工事の実績金額を参考にして算定します。

過去の発注実績を参照して自社で設定することも可能ですが、設計事務所や建築コンサルタントに依頼すると、資材費などの最新の市況情報を反映したものになり、より精度を高めることが期待できます。

坪単価概算について詳しくは、こちらの記事を御覧ください。

②企画設計の段階

建物の平面計画、想定の立面図やパースなど、企画設計段階での検討が進み建築工事の概要がある程度決まってくると、工事に必要な内容が見えてきます。

この段階まで進むと、工事項目ごとの概算見積が取得できて、坪単価見積よりも一歩進んだ精度の概算見積が算出できます。

下記のような大項目ごとに一式で想定工事金額が査定されます。

  • 共通仮設工事
  • 建築工事
  • 電気設備工事
  • 給排水機械設備工事
  • 外構工事
  • 諸経費

出てきた概算金額によっては、建物の平面計画やボリュームの見直しを行うことも可能です。

大項目概算について詳しくは、こちらの記事を御覧ください。

③基本設計の段階

建築工事の基本設計が完了すると工事に必要なおおよその項目と数量が判明しますので、正式見積に準ずる精度の概算金額を算出できます。

工事の受注を希望する建設会社に基本設計図を渡して概算見積を作成してもらい、それを参考にした着地金額の予想を設計事務所や建築コンサルタントに設計見積として提示してもらうことが効果的です。

概算見積書について詳しくは、こちらの記事を御覧ください。

本見積(正式見積)時の設計見積

実施設計が完了して建築工事の詳細が確定すると、建設会社に本見積(正式見積)を依頼することになります。この段階で、設計図書(設計図)に基づいて設計事務所や建築コンサルタントが算出するものが、一般的な意味での「設計見積」になります。

算出方法は、原則として「部材数量✕材料単価」と「人工単価✕工数」、「諸経費」の組み合わせによります。

材料単価や人工単価は、民間の調査会社が発行する「積算物価資料」や自治体の「公共工事標準単価」を採用します。

本見積(正式見積)時の設計見積は、公共工事の場合は必須のものです。なぜなら、公共工事は原則として入札制であり工事予定価格の算出のために必要となるためです。

民間工事の場合では、大規模工事の場合は公共工事同様に予定価格を算出することもありますが、建設会社の見積が出てから金額の妥当性を客観的にチェックするための活用に留まるケースのほうが一般的です。

設計見積は、発注者の希望金額に可能な限り近付けるために最大限に活用しましょう。

見積数量や単価が過大と思われ、コスト削減可能な見積項目を探したり、場合によっては仕様の見直し(VE※1)や一部工事の削減(CD※2)にも踏み込んで交渉を行います。

※1 VE・・・「Value Engineering(バリュー・エンジニアリング)」の略称で、建築物の機能や性能を最適化しコストを削減することを目的として行われる手法。品質を維持しながらコストを削減することが目標となる。

※2 CD・・・「Cost Down(コスト・ダウン)」の略称で、一部の工事項目を取りやめたり規模を縮小するなどしてコストを削減することを目的として行われる手法。VEでは実現不可能なレベルの金額を削減するためにやむなく実施する。

設計見積の取得が必要な理由

建築工事のプロジェクトの予算管理を円滑に進めるために、設計見積の取得が必要な理由について解説します。

プロジェクト予算とスケジュールの管理

設計見積の取得は、建築主のプロジェクト予算策定およびスケジュール管理において非常に重要です。

検討期間中に想定予算をきちんと押さえておかないと、本見積で建設会社の提示する見積を見て、プロジェクトが大幅な軌道修正を余儀なくされるケースもあります。

特に重要なのが、「概算見積としての設計見積」です。

ご紹介した3つの段階全てで取得すれば、より間違いのない予算管理が可能になりますが、発注担当者の労務負担も非常に大きくなってしまいます。

現実的なのは、この3段階のうち少なくとも1回は概算設計見積を取得して、プロジェクトの予算管理に客観的な担保を付けておくことでしょう。

仕様と金額の妥当性をチェック

「本見積(正式見積)時の設計見積」は、仕様と金額の妥当性をチェックするために必要です。

建設会社の見積は、各工事の専門業者から取得した見積の積み上げになることが多いため、施工者都合の目線で作成されています。

値引き交渉は必ずするべきですが、根拠の無い値引き交渉は工事業者の意欲を削いでしまい、設計者や発注者の見えない部分でコストカットされてしまう危険もあります。

施工品質を確保したうえで建築主の主導によるコストコントロールを実現するためには、設計事務所や建築コンサルタントによる設計見積が必要になります。

また、入札や相見積によって建設会社を選定する場合には、事前に設計見積の存在を明示しておくと、相手方への牽制になり正当な競争を促すことも期待できます。

設計見積を取得してプロジェクトの予算とスケジュール管理をスムーズに

ここまで、建築工事の設計見積について解説してきました。

設計見積にはプロジェクトの予算管理のためと、本見積の金額検証のために非常に重要な役割があります。

特にプロジェクトの予算とスケジュール管理をスムーズにして予定期間内に実行するためには、概算見積段階でも設計見積を取得して手戻りをなくすことが効果的です。

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