事業用建築の資金調達手段に「建設協力金方式」と呼ばれるものがあります。本記事ではオーナー側・テナント側それぞれにとってのメリット・デメリットや、建設協力金方式を利用する場合の注意点、他の資金調達方法との違いについてわかりやすく解説していきます。
建設協力金方式とは
建設協力金方式とは、新規店舗出店を検討しているテナントが土地の所有者に「建設協力金(保証金)」を渡し、そのお金で建設した建物について賃貸借契約を結ぶ方式のことです。
建設協力金方式による建物建築の流れ
- 新規店舗出店予定のテナント側が、出店予定の土地所有者に対して、事業収支計画書を提示する。
- 土地所有者が建設資金を回収できなくなるリスクがあるので、テナント側から建設資金の一部もしくは全額を「建設協力金」として「無利息」で差し入れる。
- 土地所有者は、建設協力金を使って、建設会社に建築を発注する。
- 建物建築後、土地所有者はテナント側に建物を賃貸して、賃料と建設協力金を相殺しながら分割返済を行っていく。(分割返済の期間は5~20年が一般的)
建設協力金方式は、交通の便が良く比較的土地が空いている幹線道路沿いに新規店舗を出店する際にしばしば使われます。建物の用途としては、コンビニやスーパー、ファミリーレストランなどが多いようです。
建設協力金方式を利用する土地所有者側のメリット
なぜ建設協力金方式が利用されているのか、土地所有者にとっての具体的なメリットをみていきましょう。
低金利もしくは無利息でお金を用意できる
土地所有者が建設協力金方式を利用する最大のメリットは「低金利もしくは無利息」でお金を借りられる点です。
通常銀行などの金融機関からお金を借り入れる場合、金利が発生します。
例えば、ある建物の建築に1億円がかかる場合、銀行などの金融機関からお金を借りると、金利が4%でも5000万円以上の利子が発生してしまいます(返済期間を25年と仮定)。
一方で建設協力金は預託金(もしくは保証金)という形になるのため、多くのケースで無利息です。金利が発生しても、銀行などと比べるとはるかに低金利であることが多いので、返済の負担はかなり減ります。
初期投資に必要な金額を抑えられる
建設協力金という形でテナント側からお金を借りることができれば、土地所有者は建物建築に必要な初期投資を抑えられます。
例えば、空いている土地に建物を建築するためには1億円必要だという場合、2000万円は自己負担、8000万円は建設協力金でまかなうといった形も可能です。
土地所有者が必要なお金をすべて用意する必要がないので、お金がない状況でもテナントと建物を建築して、土地の有効活用やテナントからの家賃収入を得られます。
相続税対策になる
建設協力金方式を利用して建物を建築した場合、相続税の評価については、建物が貸家、土地は貸家建付家となります。
貸家建付家は税務上自用地よりも相続税評価額が低いので、相続税対策として建設協力金方式を利用し、課税対象額を引き下げるのも節税面で有用です。
テナントが途中解約となっても返済義務が発生しない
万が一テナントが契約期間中に契約解除を申し出ても、土地所有者には返済義務が発生しません。
建設協力金方式を利用して建物を建築する場合、残額債務の支払いを免除する特約を契約に設けるのが一般的です。また返済はテナントが支払う賃貸料から行うのが一般的で、返済の負担はかなり少ないのが特徴です。
高額の資金調達をして建物を建てたとしても、途中解約時の返済の心配がなく、比較的長期間安定して収入を得られるのも建設協力金方式の魅力的な点といえるでしょう。
建設協力金方式を利用する土地所有者側のデメリット
ここでは建設協力金方式を利用する場合、土地所有者側にとってどのようなデメリットがあるのか解説していきます。
テナントが中途解約すると再利用が難しくなる
建設協力金方式を利用して建てた物件は、基本的にテナントの希望する外観や内装になります。
このため万が一何らかの理由でテナントから契約を中途解約された場合、他の事業で再利用するのは困難です。(コンビニエンスストアやスーパーマーケットなどが代表的な例)
場合によっては、建設協力金方式を利用して建てた建物を転用するために、土地所有者の負担で改修や取り壊し工事を行いテナント募集をしなければならないこともあります。
キャッシュフローがマイナスになる可能性がある
テナントが契約期間中に退去してしまった場合でも、メンテナンス費用や固定資産税は発生します。
またテナントが事業を継続していたとしても、不況などの影響によって当初予定していた賃料を減額しなければならないケースもあるでしょう。
メンテナンス費用や固定資産税が賃料収入を上回ってしまい、キャッシュフローがマイナスになる可能性もあるので注意が必要です。
建設協力金方式を利用するテナント側のデメリット
建設協力金方式を利用した場合、テナント側が契約を中途解約すると建設にかかったお金は回収できません。
これは、テナント側が契約を中途解約した場合に土地所有者の返済義務を免除する特約を結ぶケースが多いためです。
このためテナント側は、契約期間のあいだ安定して事業を継続できるかどうか、事業計画をしっかりと練る必要があります。
建設協力金方式を利用する上での注意点
建設協力金方式を利用する場合、以下の2点に注意が必要です。
- 退去後のことを考えた建築を行う
- メンテナンス費用を含めた賃料設定を行う
事前に注意点を把握して、建設協力金方式制度を賢く利用しましょう。
退去後のことを考えた建築を行う
契約期間中にテナント側が退去してしまった場合、建物を他の事業に転用することが難しいと、やむを得ず解体せざるをえない状況に陥ることがあります。
建設協力金方式を利用した場合、特にスーパーマーケットやコンビニエンスストアなどではテナントの希望する建物を建てるのが一般的です。こういった建物を転用するためには改修工事を行わなければなりません。
そのため退去後のことを考えて、万一の場合に備えて汎用性の高い建物や、ほかの事業に転用しやすい建物を建築できないか検討するのも大切です。
メンテナンス費用を含めて賃料設定を行う
建物にはメンテナンス費用が必要です。
メンテナンス費用の額によっては、テナントからの賃料収入では賄いきれず赤字になってしまうケースもあります。
このため将来必要となるメンテナンス費用を見越したうえで、少し高めの賃料設定をしておくといった対策をとることも重要です。
建設協力金方式と事業用定期借地権、定期借家方式の違いと比較
建設協力金方式は、事業用定期借地権、定期借家方式という2つの制度とよく比較されます。
それぞれの違いや、メリット・デメリットについて、以下の表で確認してください。
【建設協力金方式・事業用定期借地権・定期借家方式の違い・メリット・デメリットなど】
建設協力金方式 | 事業用定期借地権 | 定期借家方式 | |
制度概要 | ・ テナントが土地所有者に対して、建物の建設費用を「建設協力金」として差し入れる。 ・土地の所有者は、受け取った建設協力金を元手に事業に使われる建物を建築し、テナント側に賃貸する。 | ・土地所有者がテナント側に対して、事業の用途に限定して期間を決めて土地を貸し出す。 ・テナント側は、定められた期間その土地を事業用として利用する。(新たに建築物を建造することも可能) | ・ 一定期間、テナント側に対して建物を賃貸する。 ・契約の期間は厳密に定められており、期間終了後は必ず退去しなければならない。 |
建物所有権 | 土地所有者に所有権 (テナント側は土地所有者から建物を貸借する) | テナント側に所有権 (あくまでも土地を借りる契約なので、建物を建築したら所有権はテナント側のもの) | 建物所有者に所有権 (建物所有者からテナント側は建物を賃貸する) |
契約期間 | 期間制限なし (ただし一般的には5~20年前後) | 10年以上50年未満 (期間は法律で定められている) | 制限なし (一般的には5〜10年) |
メンテナンス義務 | 建築物:土地所有者 内装など:テナント側 | テナント側 | 建築物:建築物所有者 内装など:テナント側 |
固定資産税の支払い義務 | 土地所有者 | テナント側 | 土地所有者 |
メリット | ・初期投資を抑えられる ・無利息または低金利でお金が借りられる ・途中解約時でも土地所有者は返済義務がない ・相続税対策ができる ・希望の立地や建物で開業できる ・事業計画を長期で立てやすい | ・契約期間を最短10年〜最長50年までの間で選べる ・事業リスクなしに土地代収入を得られる ・居住用よりも高い土地代設定が可能 ・相続税対策ができる | ・賃料が相場よりも安い可能性がある ・契約更新料がかからない ・入居審査が緩い場合がある |
デメリット | ・テナントが中途解約されると再利用が難しくなる ・キャッシュフローがマイナスになる可能性がある ・テナント側は途中解約してしまうと建設協力金を回収できない | ・満期になるまでは解約ができない ・土地借主の経営破綻リスクがある ・固定資産税の減税はない ・土地の利用方法が「事業用途」に限定されてしまう | ・契約の更新ができない ・再契約のためには敷金・礼金・家賃などの費用が再び必要になる ・途中解約ができない |
まとめ
建設協力金方式は、土地所有者だけではなくテナント側にも様々なメリットがあります。
もっとも中途解約すると建設協力金が回収できなかったり、キャッシュフローがマイナスになる可能性があったりなどリスクもあるため、制度を活用する際は注意が必要です。
また場合によっては、建設協力金方式ではなく事業用定期借地権や定期借地方式を利用した方が良いケースもあります。
土地所有者とテナント側それぞれに利益が出るように、建設協力金方式や他の制度をしっかりと理解しておきましょう。