建築工事の見積には「直接工事費」や「共通仮設費」、「諸経費」など耳慣れない言葉が並びます。この記事では建築工事の予算管理にあたって、発注者が知っておくべき見積の見方と注意すべきポイントについて解説します。
建築工事費の内訳はどのようになっている?
建築工事の見積は内容が多岐に渡ります。また工事規模によっては数百ページものボリュームになるため、その内容をしっかり理解するのは簡単なことではありません。
ここでは建築工事の見積を読み解くための第一歩として、まずは建築工事費の内訳について解説します。
工事価格
建築工事全体の価格は、「工事原価」と「一般管理費(諸経費)」の合計です。
工事価格=工事原価+一般管理費(諸経費)
工事原価は建築工事そのものに掛かる費用であり、一般管理費は建設会社の経営を維持するための必要経費です。
「一般管理費」の内訳としては、次のようなものがあります。
- 社員給与
- 会社利益
- 法定福利費(健康保険料・厚生年金保険料・雇用保険料・労災保険料等)
- 事務経費(備品・賃料・光熱費等)
- 減価償却費
工事原価
建築工事そのものの金額である「工事原価」は、下記の合計金額です。
工事原価=直接工事費+共通仮設費+現場管理費(諸経費)
「共通仮設費」とは、現場仮設事務所や仮囲い、工事中の水光熱費など、建物そのものをつくる費用ではないものを指します。
「現場管理費」は、現場監督や現場事務員の人件費、各種申請や品質検査に掛かる費用のことです。
直接工事費
工事原価の根幹をなす「直接工事費」は、下記の計算によって算出されます。
直接工事費=材料費+労務費+直接経費
各項目の内訳は下記になります。
- 材料費=所要数量(設計数量+規定ロス率)✕材料単価(購入単価+運搬費)
- 労務費=所要人数(設計作業量✕該当作業の歩掛)✕労務単価(基本日額+割増賃金)
- 直接経費=特許使用料+水道光熱電力料+機械経費
なお直接工事費には材料費と労務費、直接経費を別々に計上する「材工別単価」と、それぞれを合算し数量で割った「複合単価」の二種類があり、各専門工事によって単価計上の方法が違うのが悩ましいところです。
見積で計上されている直接工事費の妥当性をチェックするには、市販の建築物価資料を参照する方法があります。
一般財団法人建設物価調査会発刊の「建設物価」と一般財団法人経済調査会発刊の「積算資料」が毎月発行されており、現在の市況の材料費、労務費単価などが詳細に記載されています。
参考:
一般財団法人建設物価調査会公式サイト
一般財団法人経済調査会公式サイト
建築工事の工事費見積の構成
次に建築工事の見積構成と、注意すべきポイントについて解説します。
建築工事の見積構成とその内訳
一般的な建築工事の見積は、下記のような構成となっています。
- 共通仮設工事(共通仮設費)
- 建築工事(直接工事費)
建物本体の構造体、内外装工事が含まれます。
- 電気設備工事(直接工事費)
受電設備、照明やコンセントなどの電気設備(強電)、電話やLAN配線などの通信設備工事(弱電)が含まれます
- 給排水機械設備工事(直接工事費)
水道や下水の配管費用やトイレなどの衛生器具、換気扇やエアコンなどの空調工事、消火栓やスプリンクラーなどの防災設備が含まれます
- 外構工事(直接工事費)
建物周囲の舗装や造園費用です
- 諸経費(一般管理費+現場管理費)
見積の日付と有効期限をチェック
資材価格や労務費は時期による変動があるため、見積書には「3ヵ月」等の有効期限が記載されています。
特に長期にわたるプロジェクトの場合、古い見積が一人歩きしていることもあるため要注意です。
期限切れの見積で社内稟議を通すのは大変危険なので、提出から間が空いている場合は必ず最新の見積を取得するようにしましょう。
見積の備考欄をチェック
見積は、あくまで設計図面で読み取れる範囲で金額を算出したものです。図面で不明な点などは備考欄に注意書きされている場合があるため要チェックです。
工事の着工後に追加請求されないように、不明点は見積書の精査時に可能な限り明らかにしておきましょう。
工事期間中の工事費の追加請求リスクは?
工事の着工後完成までの間に建設会社から追加金額を請求されると、当初の予算計画が変わってしまい社内的な手続きも煩雑になります。
ここでは、工事期間中に追加請求されるケースと、追加請求を防ぐための対策について解説します。
追加が発生するケース
建設工事の請負契約で広く一般的に使用されている「民間(七会)連合協定工事請負契約約款」では、工事請負金額が変更される場合について以下の7つのケースを挙げています。
第29条 請負代金額の変更
a.工事の追加または変更があったとき
b.工期の変更があったとき
c.関連する他の工事の調整のため増額費用が生じたとき
d.施主支給の材料、貸与品について変更があったとき
e.契約期間内に法令の制定や改廃、経済事情の激変などによって請負代金額が明らかに適当でないと認めれられるとき
f.長期にわたる契約で、法令の制定や改廃、物価や賃金などの変動によって、契約を締結した時から1年を経過したのちの工事部分に対する請負代金相当額が適当でないと認められるとき
g.中止した工事または災害を受けた工事を続行する場合、請負代金額が明らかに適当でないと認めれられるとき
追加が発生しないようにするためのポイント
追加請求が発生しないようにするためには、当然ながら着工後に工事の追加や変更に関する要望をしないことです。
ただ、社内に多くの部署があって意見の統一が難しい場合や、経営陣が現場を視察して鶴の一声で変更を指示する場合など、止むを得ないケースもあります。
その場合でも「言った言わない」のトラブルを避けるため、設計事務所や建設会社と協議した内容は毎回議事録を取り、双方合意のうえ押印をするようにしましょう。
また、施主支給品、貸与品に関してもトラブルが起こりがちです。品目・数量・受け渡し時期、場所を建設会社と綿密に打合せをしておきましょう。
工期が長い場合の価格変動リスク
建築工事は、工期が長いため資材費や人件費等の価格変動リスクがあります。
発注時(請負契約時)以降の資材価格や人件費等の上昇リスクは、原則として建設業者の負担です。しかし着工より1年を超えた工事については、法令の制定や改廃、物価や賃金などの変動要素がある場合に金額の変更を協議することも可能とされています。
なお工事を追加する場合の単価は、変更時の時価で算出されることに注意が必要です。工期が長期間に渡る場合はトラブルを避けるため、あらかじめ覚書を交わしておく等の対策が必要でしょう。
工事費予算で見落としがちなポイント
建築工事に伴って発生する費用のなかには、建築工事とは別途に発生する費用、あるいは工事見積のなかに含まれていると誤認しやすいものもあります。
引渡し間際になって追加の費用を計上するはめにならないように、下記の項目についてよく確認しておきましょう。
通信工事費
- 電話やインターネット回線、Wifi、無線アクセスポイント等
什器備品、持ち込み機器類
- 什器や事務備品等、自社の直接購入品
その他諸費用
- 水道加入金、下水道負担金
- 確認申請、省エネ適判、構造適判、完了検査等の申請手数料
- 不動産取得税
- 初年度の固定資産税
- 土地建物の登記費用
- 引っ越し費用
建築工事の内訳を正しく理解して予算管理を徹底しましょう
ここまで、建築工事の工事費の構成と、建築主がチェックすべきポイントについて解説してきました。
建築主が建築のプロである建設業者と対等に渡り合うためには、建築工事見積の内訳を正しく理解しておく必要があります。
なかには建築工事の見積には計上されない費用もありますので、プロジェクトの予算管理を成功に導くために、工事費見積を正確に把握しておきましょう。