VEとは建築物の機能や性能を予算と発注者の要求レベルに合わせて最適化し、工事費用を低減することを目的とする手法です。設計段階、発注段階、施工段階それぞれの局面でVEの手法を用いた交渉が可能ですので、建築プロジェクトのコストコントロールのために積極的に活用しましょう。
建築工事のVEとは?
建築工事の金額交渉の過程では、VE(ブイ・イー)という言葉がよく使用されます。
VEとは「Value Engineering(バリュー・エンジニアリング)」の略称で、建築物の機能や性能を最適化しコストを削減することを目的として行われる金額調整の手法です。
VEの手法によるコスト削減過程においては、設計図通りの品質を維持することが原則となります。
ゼネコンや専門工事会社からのVE提案に対して、設計者と発注者がその内容を吟味して採否を検討することになります。
CDとの違い
コスト調整のもうひとつの手法として、CD(シー・ディー)もよく使用されます。
CDとは「Cost Down(コスト・ダウン)」の略称で、一部の工事項目を取りやめたり規模を縮小するなどしてコストを削減することを目的として行われる手法です。
CDは、VEでは実現不可能なレベルの金額を削減するためやむなく実施されるという側面があり、結果としてゼネコンや専門工事会社からのCD提案では機能や品質を下げる提案が含まれることが少なくありません。
公共工事におけるVE
VEは公共工事で始まったコストダウン手法です。
公共工事では「入札時VE方式」と「契約後VE方式」という2種類のVE手法が用いられます。
入札時VE方式
工事の入札段階で施工方法等の指定を最小限に留め、建設業者からの合理的な技術提案(VE提案)を受け付けます。
各社のVE提案を審査した上で競争入札への参加者を決定し、価格競争により最終落札者を決定する方式です。
契約後VE方式
工事の契約後に受注者が施工方法等について技術提案(VE提案)を行い、採用された場合にコスト削減額の一部に相当する金額を受注者に支払うことを前提として、契約金額の変更を行う方式です。
金銭的なインセンティブを約束した上でVE提案を受け付けることで、より合理的・効率的な施工となることを期待するものです。
民間工事におけるVE
民間企業の発注工事においては、主に発注者予算に合わせるための手法としてVEの手法が用いられます。
たとえば工事見積が予算オーバーだった場合などに、建設会社や専門工事業者に要請されるケースなどです。
なおVEは工事発注時(請負契約時)に用いられることがほとんどで、VEが不調であればCD、さらにはネゴシエーション(単純値引き)へと段階を踏んで金額交渉が行われます。
民間工事でVEを実施するタイミングは?
民間企業の発注工事でVEを実施するタイミングは、最終的な発注時に限った話ではありません。
設計段階や施工段階においても、VEの手法が大きな効果を発揮する場合があります。
設計段階のVE
基本設計が固まった段階で概算見積を取得し、発注者の希望金額をオーバーしている場合に建設会社にVE提案を要請する場合があります。
設計段階であればVE提案を実施設計図に反映させることが可能になるため、正式見積時でのコストダウンが期待できます。
工事発注段階のVE
工事の見積を取得し、契約候補となる建設会社をターゲットとして最終の金額交渉のために実施するVE手法です。
「VE/CD」としてまとめられることもあり、CD提案とともに大型の建築工事では請負契約前に必ず踏むべきプロセスです。
希望金額に近づけるため、最終的にはネゴシエーション(単純値引き)を含めて金額交渉し、発注金額の取り決めをします。
建築工事段階のVE
工事の進行中であっても、建設会社や専門工事会社からVE提案を受けることもあります。
主に施工者都合のコスト調整のため(コストダウンによる収益改善のため)に提案されることが多いため、性能や仕様を落とす結果にならないかどうか、VE提案の採用には慎重になる必要があります。
追加工事費用の捻出のため、やむなく発注者都合でVE提案を要請するケースもあります。
VE提案の実例
VEでは、内装の壁紙や床の変更から構造方法の変更まで、大小さまざまな手法が考えられます。ここでは、建築工事のVE提案の実例をご紹介します。
【事例】渋谷地下街改修計画(Ⅱ期)床工事(設計原案)
設計原案 | 既存のタイル仕上げを撤去し、新たに下地よりタイルを張り替える設計 |
問題点 | 全面通行止めにはできず、撤去時の騒音・振動粉塵の発生および養生期間の長さ(1~2 日)等の懸念事項が予測 |
VE案 | 既存タイルの上に化学系下地調整材 にて下地処理した後、ゴムタイルで仕上げる工法を採用 |
VE効果 | ・通行止めにせず、夜間工事のみで完了 ・原設計より▲53,600千円コストダウン |
VE案の採否を決めるポイント
VEによるコストダウン手法を、より効果的に実行するポイントについて解説します。
金額交渉の前にまずVEを実施する
発注者側からの要望でコスト調整を試みる場合は、以下の順に実施しましょう。
①VE ⇒ ②CD ⇒ ③ネゴシエーション(単純値引き)
段階を踏んだ交渉により、建築工事の品質確保と施工業者との良好な関係を維持できるメリットがあります。
明らかに性能低下を招かない部分をVEターゲットにする
建築物の性能低下を招く恐れのない「仮設工事(工事敷地の仮囲いや現場事務所)」をVEのターゲットとするのも有効です。
ただし、安全衛生管理上問題があるものには踏み込まない方が賢明でしょう。
床や壁の内装仕上げや衛生器具、照明などの変更もターゲットにしやすい部分ですが、全体コストへの影響は小さいため大きな効果は見込めません。
できるだけ上流でVEを実施する
設計がある程度進行すると、抜本的なVE提案は難しくなります。
発注者側の希望するコスト内に収めるためには、工事業者から早期に概算見積を取得し、予算超過が懸念される場合は建築ボリュームの見直しも視野に入れてVEを実施するべきでしょう。
維持管理コストを考えるとトータルで損をすることもある
VE提案は初期費用を抑えるためだけの内容になりがちです。
そのVE提案を採用する事によってランニングコストが増える可能性はないか、原設計との比較検討をすることも必要です。
建築工事の予算管理にVEを活用しましょう
ここまで建築工事のVEについて、その意味と手法、効果的な導入方法などについて解説してきました。
単純な値引き要請だけでは、建設会社との信頼関係はなかなか構築できず、結果として施工の品質も落ちてしまう恐れがあります。
VEやCDの手法は、根拠のある金額調整の手法であり、発注者と受注者が対等の立場に立ったフェアな取引であると言えます。
建築プロジェクトのコストコントロールのためには、計画の早期の段階からVEの手法を取り入れると、より効果を発揮できるでしょう。