建築工事の意匠設計の内容と役割について解説します。意匠設計の依頼先には組織系設計事務所やアトリエ系設計事務所、建設会社の設計部門などがありますが、さまざまな建築の実例を見学し好印象を持った建物を担当した設計会社に依頼すると失敗が少ないでしょう。
意匠設計とは?
「意匠(いしょう)設計」という言葉をご存じでしょうか。
意匠設計とは、建築設計の根幹となる建物の間取りや外観デザイン、使用する部材などを発注者と打ち合わせをして決定し、「意匠図面」を作成する作業です。
建物の規模が大きくなり多数の人が利用する施設設計においては、避難経路の確保や防火設備計画など、防災設計の比重が高くなります。
意匠設計図の種類
意匠設計図には下記のようなものがあります。
- 建物概要図・・・建物の所在地や面積規模、用途地域など適用される法規上の規制などを概略でまとめたもの
- 仕様書・・・外装や内装に使用する部材のリストを、使用する箇所ごとにまとめたもの
- 配置図・・・敷地の中で建物がどの位置に配置されるかを示す図面
- 面積算定図・・・敷地面積、建築面積、延床面積、各室面積の算定式とともに示したもの
- 平面図・・・建物の各階を上から見た図面。間取りの確認に使用す。
- 立面図・・・建物の東西南北各面の外観を正面から見た図面。建物の高さや、外から見た窓の位置や外観デザインを確認できる
- 断面図・・・建物の代表的な位置を切断し、横から見た図面。主に天井の高さを確認する
- 矩計(かなばかり)図・・・建物断面の一部分を切り取り、使用される部材や厚み、高さ寸法の詳細を表す
- 展開図・・・各部屋の壁面ごとの姿図。建具やサッシの位置、高さ関係を確認する
- 建具図・・・外部建具(サッシや外部ドア、シャッターなど)、内部建具(ドアや引戸、防火戸など)の一覧と詳細をまとめたリスト
- 各部詳細図・・・平面図や立面図、展開図・建具図では指示しきれない、注意を要する箇所に関して拡大図を作成して詳細に説明するためのもの
- 内観パース・・・部屋の内観を、一般の方でも分かりやすくするために立体的な透視図(パース)で表したもの
- 外観パース・・・建物の外観を分かりやすい立体的な透視図(パース)で表したもの
その他の設計業務
建築物の設計には、意匠設計と連動して「構造設計」と「設備設計」も必要になります。
- 構造設計
意匠設計と連携し、建物が成り立つ基礎や柱・梁などの構造部材を設計します。構造計算の結果、構造部材が大きくなる場合は天井を下げたり、部屋内に構造用の壁や柱が出てくることもあるため意匠設計にも影響します。
- 設備設計
電気、給排水、換気・空調、火災報知器・スプリンクラーなどの建物内外の設備を設計します。配管や配線は天井裏や壁内に隠すことが前提となるため、意匠設計・構造設計と協議し配管・配線ルートを確保します。
意匠設計の内容
意匠設計は、発注者との打ち合わせの進度や工事の進行に合わせて、その役割と成果物が変わってきます。
企画設計
企画設計は、候補となる土地に発注者が希望する用途、規模の建物が建築できるかを検討し提示する業務です。建築基準法や都市計画法などの法規に則り、ラフプランを作成し建物の大きさを検討するボリュームチェックを行います。
この段階で、発注者の予算に見合う規模と内容に落とし込むことが求められ、建築プロジェクトの成否を決める重要な段階となります。
基本設計
企画設計が固まった後に、建築の詳細を詰めていく設計作業を基本設計と言います。発注者と対話し意向を確認しつつ、プロジェクトの舵取りをしていきます。
場合によっては、建設会社から概算見積を取得し、発注者の予算に収まるよう設計図を修正する必要も出てきます。
実施設計
実施設計では、実際に施工会社が見積りおよび工事ができる設計図面(設計図書)を作成します。意匠設計が実施設計をリードしつつ、その後構造設計・設備設計と連携しながら詳細を詰めて行きます。
実施設計完了後に正式見積や入札を実施し、内容を精査の上、発注者に工事会社の選定を助言する役割もあります。
確認申請
建築物を建てる際は「確認申請」を提出し、「確認済証」を取得する必要があります。市町村の建築課や消防署などの行政機関や指定確認検査機関と協議を行い、「建築基準法」「都市計画法」「消防法」などの法律に適合させ、確認済証を取得するのも意匠設計の役割です。
建築関連の法規には、建物の用途と規模により決まる「単体規定」と、建物の周辺環境の状況と都市計画により決まる「集団規定」があります。
規模の大きい建築物には、より高度な設計検証業務である「構造適合性判定」「省エネ適合性判定」の審査も必要です。
建築物が竣工すると「完了検査」を受けます。申請通りの施工が確認されると「検査済証」が交付され、建物の使用が許可されることになります。
設計監理
「設計監理」とは、設計者が発注者の代理人として建築工事が設計図書通りに実施されていることを確認し、間違っていれば施工業者に修正を指示することです。設計者は発注者に「設計監理報告書」を提出し、工事の施工状況を報告します。
工事の規模が大きくなればなるほど、設計業務に占める工事監理のウェイトが大きくなります。
意匠設計の依頼先とそれぞれの特徴
発注者が意匠設計を依頼する候補先としては、次の3つが挙げられます。
組織設計事務所
建築士が複数所属し、役割分担をしている設計事務所は、組織としての総合力を活かして、クライアントの高度な要望にも応えることができます。組織設計事務所のなかには、売上が千億を超えるような大手設計事務所も存在します。
そのような組織設計事務所は公共工事や民間部門においても広く手掛けており、設備設計や構造設計なども自社内でワンストップで実施可能です。
発注金額は、公共工事基準による算出方法が一般的で、技師単価に人工(にんく。作業員ひとりが1日でできる作業量が1人工)を掛け合わせる方法で算出されます。
意匠設計事務所
設計事務所には、意匠設計に特化したものや、個人事業として建築士一名で運営するものもあります。設備設計や構造設計に関しては、協力事務所に外注する場合が一般的です。
また、建築士を「建築家」としてブランディングし、作家性を前面に出す「アトリエ系設計事務所」も存在します。
アトリエ系建築家の場合、依頼金額も高額になることがありますが、その分、デザイン性や作家性で集客力が高まることもあります。
建設会社やハウスメーカー
建設会社(ゼネコン)やハウスメーカーの設計部門に依頼するパターンも考えられます。その場合は建物の施工も一体で発注することが前提です。
建設会社は施工ノウハウが豊富なため、建物の機能重視で建築コストを削減することが最優先の場合はとくに有効なケースが多いでしょう。
また、設計から施工まで連動して行えるため全体工期の短縮も見込めますが、金額や性能の妥当性の評価がしづらいのが難点と言えます。
意匠設計を依頼するにあたって注意すべきことは?
意匠設計を依頼するにあたって、発注者が特に注意すべきポイントについて説明します。
デザイン性をどこまで重視するか社内コンセンサスを取る
外見が良く見える建物はは建築コストが高価ですが、一方で集客力は高い傾向にあります。
商業施設やマンションなどは、デザインを良くしようとすれば際限なくお金がかかるため、企画設計・基本設計の早期の段階でデザイン性をどこまで重視するか合意形成をしておく必要があります。
また、ランニングコストの観点からは耐久性も重要です。近年は運用中の光熱費や保守料、将来的な解体費用も含めた「ライフサイクルコスト」で建物を評価する傾向も出ています。
建築実例を見学し担当した設計会社に依頼する
構想している建物と類似の建物の実物を見て、好印象を持った実例の設計者に依頼する方法もあります。その場合は、具体的なイメージを共有できるため、打ち合わせがスムーズに進むことでしょう。
設計者も実際のコストを把握しているため、設計後に予算と大きな乖離が生じるリスクが少ないことがメリットです。
意匠設計は建築工事の成否を握る重要なカギです!
ここまで建築工事の意匠設計について、その内容と依頼先を選定するポイントについて解説してきました。
意匠設計は建築プロジェクトの根幹をなす重要なものです。さまざまな建築実例を見学し、イメージを共有できる設計者へ依頼すると失敗が少ないでしょう。