建築工事の構造設計は、意匠設計・設備設計と並行して進行します。構造種別により法定耐用年数と減価償却費が違い、企業会計に大きな影響を与えます。確認申請において構造適判が必要になるとコストも申請期間も長くなるため、必ず確認しましょう。
構造設計とは?
建築工事における「構造設計」とは、建物の基礎や柱、梁などの構造部材を設計することです。建物の構造体は建築コストの20〜30%を占める重要な部分であり、構造設計は建物のコストと安全性を左右する非常に重要な設計分野です。
構造設計では、建物そのものの重さ(固定荷重)を支えるだけでなく、床に乗る荷重(積載荷重)を考慮に入れて、コンクリートや鉄、木材などの構造部材の大きさや鉄筋の量を構造計算によって算定します。
さらに、建物に一時的にかかる地震力や積雪、風圧に対する安全性を検証し、安心安全に使用できる建物の実現を構造面から支えるのも構造設計の業務です。
建築工事の設計は、一般的に意匠設計・構造設計・意匠設計それぞれの設計士が協力し合って建物の設計作業を進めて行きます。
建物の構造を検討するにあたって、建築主が直接構造設計士や構造設計事務所に発注することは稀で、多くは意匠設計事務所を通じて間接的に依頼されます。
構造設計士は、意匠図の意図を汲み取り、建物の構造的な骨格を設計します。細部の検討においては、壁や天井内に納まるように構造部材のサイズと配置を検討し、同時に電気や給排水設備、空調設備などの配管・配線ルートも考慮します。
構造計算の結果によっては、意匠設計や設備設計の修正を依頼する場合もあり、この3部門の設計の連携が重要です。
「構造設計一級建築士」制度
比較的規模の大きい建物の構造設計は、建築基準法において「構造設計一級建築士」による設計が義務付けられています。
「構造設計一級建築士」は、平成17年に世間をにぎわせた「耐震偽装問題」を受けて創設された、比較的新しい制度です。
この問題は、建設費のコストダウンを優先して構造計算書のデータを改ざんするという非常に悪質な手口でした。耐震偽装された建物は耐震強度が不足し、大地震の際には倒壊する可能性があり、多くの人命を危険にさらしかねないものです。
この反省を踏まえ、現在は構造設計一級建築士による厳正な構造設計および設計審査が要求されています。
既存建築物は旧耐震基準か新耐震基準かをチェック
老朽化した建物の建替えを検討する際には、既存の建物が「旧耐震基準」かをチェックしましょう。
「旧耐震基準」とは、その建物が建築基準法の古い基準に従って構造計算されているために、大地震(震度6強以上)の時に倒壊する恐れがあることを指します。
1981年6月以降に確認済証を受けた建物は「新耐震基準」、それ以前は「旧耐震基準」となります。旧耐震基準の建物は大地震で倒壊の恐れがあることから解体もしくは耐震補強が推奨されており、各種の補助金制度が用意されています。(詳細は建築地の自治体へお問い合わせください)
建築構造の種類と減価償却費
建物の構造種類と坪単価の目安について説明します。
企業会計上は、構造種類によって減価償却期間が異なることにも注意が必要です。
建築物の構造種類法定耐用年数・坪単価の目安
建物の構造に使用されている材料によって、国税庁の定める「法定耐用年数」が違います。
木造のような比較的軽く腐食などの劣化が早いものは法定耐用年数が短く、鉄筋コンクリート造のような劣化しづらい安定した材料を用いたものは法定耐用年数が長く設定されています。
一般的には法定耐用年数が長い構造ほどコストが上がるとされており、いわゆる「坪単価」が高くなる傾向があります。
構造方法と法定耐用年数、坪単価の関係を表にまとめてみましたので参考にしてみてください。
構造方法 | 法定耐用年数 | 坪単価 |
---|---|---|
木造(W造) | 22年 | 60万円~80万円 |
軽量鉄骨造(S造) | 19年or27年 | 70万円~100万円 |
重量鉄骨造(S造) | 34年 | 80万円~110万円 |
鉄筋コンクリート造(RC造) | 47年 | 90万円~120万円 |
鉄骨鉄筋コンクリート造(SRC造) | 47年 | 100万円~130万円 |
建物の減価償却費に注意
建物の構造の種類によって法定耐用年数が違い、それに伴い建物の「減価償却期間」も変わります。
企業の財務および建物の投資回収計画においては、この減価償却期間が大きな意味を持ちます。なぜなら、建設費用は原則として一括で会計処理することはできず、建設費用を減価償却期間の年数で分割して会計処理することが法律で定められているためです。
一般的には、長期に渡って減価償却ができる構造(RC造・重量鉄骨造)は、年度ごとの会計収支が良くなるうえに節税になるとされています。
企業の業績が良く、節税目的で短期に多くの減価償却費を計上したい場合は木造や軽量鉄骨造などの法定耐用年数が短い構造が適していると言えます。
建築主も知っておくべき「構造適判」制度とは?
構造設計の審査に「構造適判」が適用されるかどうかで申請に要する期間(プロジェクト全体工期)も経費も大きく変わることに注意が必要です。
構造計算適合性判定制度
「構造適判」とは、「構造計算適合性判定」のことです。
「構造計算適合性判定」制度は、構造設計一級建築士制度と同時に導入されたもので、構造図面と構造計算書の整合を第三者機関がチェックするものです。
一定規模(※1)以上の建築物、保有水平耐力計算・限界耐力計算(ルート3の構造計算:一般的には構造部材を経済設計できる)を実施した建築物は、建築確認申請の審査が終了するまでに「構造適合性判定適合通知」を取得し、確認審査機関へ提出する必要があります。
(※1)下記の建築物の構造設計については、構造設計一級建築士による構造計算適合性判定が必要になります。
高さ60メートル以下の建築物で以下に該当するもの
- 木造の建築物(高さ13メートル超または軒高さ9メートル超)
- 鉄筋コンクリート造の建築物(高さ20メートル超)
- 鉄筋鉄骨コンクリート造の建築物(高さ20メートル超)
- 鉄骨造の建築物(4階建て以上、高さ13メートル超または軒高9メートル超)
- 組積造の建築物(4階建て以上)
- 補強コンクリートブロック造の建築物(4階建て以上)
- その他国土交通大臣が指定したもの
※高さ60mを超える建築物は「超高層建築物」となり、構造計算にあたっては国土交通大臣の認定が必要になります。
認定にかかる期間も長くなり、審査もさらに厳格になります。そのため、この規制を避けるため60m以下(マンションなら20階建て程度)に抑える設計の建物が多く存在します。
構造計算適合性判定を受ける建物の注意点
構造計算適合性判定を受ける場合は、通常の確認申請に加えて構造適判手数料のコストがかかり、審査期間も14日〜最大35日必要となります。
プロジェクトの全体スケジュールにも大きく影響しますので、建物が構造適判の対象になるかは建築主も把握しておくべきでしょう。
建築物の構造設計を確認してプロジェクトのコストと工期をコントロールしましょう
ここまで、建築工事の構造設計について、その内容と建築主が知っておくべきポイントについて解説してきました。
なかでも、建築物が構造適判にかかるかは重要な要素です。
構造種別と減価償却費の関係も企業の会計上とても重要なことですので、建築プロジェクトを立ち上げるにあたっては、建物の構造についても社内でコンセンサスを取っておくようにしましょう。