建築工事の設備設計の内容と、建築主がケアすべきポイントについて説明します。建物の快適性と機能性を追求し、イニシャル・ランニングともにコストを最適化しましょう。CO2排出量削減のための最新の省エネ基準とZEBについても解説します。
設備設計とは?
建築工事における設備設計とは、意匠設計図に沿って電気設備や給排水設備、空調設備などの設備機器を選定し、建物内での配置を検討して設備図面を作成することです。
配線や配管、埋め込みの設備機器が天井や壁の内部に収まり、構造部材にも干渉しないように、意匠設計・構造設計と連携して設備設計を進めます。
設備設計を建築主が分離して設備設計事務所などに依頼することは稀で、多くの場合は意匠設計事務所が協力業者に委託して設備設計図面を作成するか、外部の設備設計事務所へ委託するなどして、全体設計を取りまとめます。
設備設計の役割と建築主がケアすべきポイント
建物の設備設計は、建物の快適性と利便性を大きく左右しますので、その用途と規模に合わせて利用者にストレスをかけない適切な設備計画と設備機器の選定が求められます。
また、初期建築コストに配慮した経済設計はもちろんのこと、運営にかかる光熱費や設備の維持、更新などのランニングコストが最小限になるように設計することも重要です。
以下に、建築主がケアすべきポイントを設備別に例示します。
給排水衛生設備
衛星器具の選定(トイレ・手洗い・浴室・キッチン等)
トイレなどの衛生器具の選定にはこだわりたいところです。カタログだけでなく、ショールームで実物を体感できる場合もありますので、設計者に確認してみましょう。
トイレの台数(同時使用時の混雑を考慮)
トイレの待ち時間が発生すると、建物の利用者にとって非常に大きなストレスとなります。男女の割合と、休憩時間などで同時に使用する人数を可能な限り実情に沿って設計者に伝えましょう。
給湯方式の選定(電気/ガス・ヒートポンプ・エコジョーズ等)
給湯の熱源に何を使用するかで、その後のランニングコストが大きく変わってきます。電気温水器は非常に電力を使うため、エコキュートなどのヒートポンプ方式のものをおすすめします。ガスの場合でもエコジョーズなどの高効率給湯器を選定するようにしましょう。
換気設備
室内の換気能力(室内の二酸化炭素濃度の基準は1,000ppm以下)
建築基準法では2時間に1回室内の空気が入れ替わるように換気能力を設定する、いわゆる「24時間換気」が義務付けられていますが、その部屋の実際の使用人数や用途等により健康に過ごすための換気量が不足する場合があります。
厚生労働省の基準では室内の二酸化炭素濃度は1,000ppm以下とされていますので、それが確保できるような換気計画を求めましょう。また、換気設備によってはウィルスや花粉、ハウスダストを吸着するフィルターを取り付けできるものもあります。
空調設備
空調方式の選択(EHP/GHP、個別方式/全館方式)
空調の熱源には電気ヒートポンプ(EHP)とガスヒートポンプ(GHP)があることに注意しましょう。それに加えて、ひとつひとつが独立して動く個別方式と、大型の空調機が建物全体の空調をまかなう全館方式の違いもあります。それぞれに長所と短所がありますが、選定の際には初期費用(イニシャルコスト)だけでなく、ランニングコストも含めて総合的に検討しましょう。
照明設備
照明器具の照度と色温度(作業、活動に応じた最適値)
事務所などの執務空間の照明計画の考え方として「スクアンビエント」があります。個人のデスクまわりなど、人が作業する「タスク(作業)空間」と、部屋のベース照明や通路など「アンビエント(周囲)空間」に分けて、タスク空間の色温度や照度を状況に応じて調整できるようにして、省エネルギーを図る手法です。省エネだけでなく、効率が上がり生産性を高める効果もありますので、取り入れることを検討してみてください。
調光システムとセンサースイッチ(省エネに配慮)
窓から自然光が入る時間帯は照明を絞り照度を落とす調光システム、人が居ないときには自動的に消えるセンサースイッチを導入すると省エネ効果が得られます。
省エネ設備設計の最新動向
政府目標のCO2排出量削減のため、設備の省エネ化や再生可能エネルギーの導入など設備設計の役割はますます重要になっています。
ここでは、建物の省エネルギー化を図る設備設計の最新動向について解説します。
2050年カーボンニュートラル目標
2020年10月26日に菅内閣総理大臣(当時)は所信表明演説において、我が国が「2050年までにカーボンニュートラルを目指す」ことを宣言しました。
加えて、2021年4月には地球温暖化対策推進本部及び米国主催の気候サミットにおいて、「2050年目標と整合的で、野心的な目標として、2030年度に、温室効果ガス(二酸化炭素:CO2)を2013年度から46%削減することを目指す。さらに、50%の高みに向けて、挑戦を続けていく」ことを表明しました。
この政府目標達成のために、電力部門や産業部門、運輸部門などでCO2排出量削減のために様々な取り組みが進められています。
その中で、建築設備の省エネルギー化は重要な役割を担っています。
省エネ適判制度
建物の省エネルギー性能を向上させるために、2017年より「省エネ適判」制度が導入されています。
省エネ適判とは、国が定める省エネ基準に適合しているかを第三者機関が判定する制度で、正式名称を「建築物エネルギー消費性能適合性判定」と言います。
省エネ適判の対象となる建築物を「特定建築物」と言い、その定義は下記のとおりです。
- 非住宅建築物
- 開放部分を除く延べ面積の合計が300㎡以上
- 新築および増改築
省エネ適判の対象となる建物は省エネ計算費用と適合性判定審査手数料がかかり、一般の建物よりも申請期間がかかることに注意が必要です。
また、2025年からは建物の用途および面積による基準が撤廃され、すべての建築物が省エネ適判の対象となる予定です。
ZEB(ゼブ:ゼロ・エネルギー・ビル)
ZEB(ゼブ)とは、ゼロ・エネルギー・ビル(Zero Energy Building)の略で、照明や空調などで使用する一次エネルギー消費量を基準値より50%削減したうえで、屋根などに設置した太陽光発電でエネルギーを創出し自家消費することで、実質的な消費エネルギーをゼロに近付けた建築物のことを言います。
ZEB仕様で設計および建築をすると、環境省と経産省の補助金制度を受けられる可能性がありますので、検討してみる価値があるでしょう。
参考:ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル) – 各種支援制度 | 事業者向け省エネ関連情報
ライフサイクルコスト(LCC)
建物のライフサイクルコスト(LCC:Life Cycle Cost)とは、建物の建設、運用、そして解体までにかかるすべての費用を合計したものです。
従来は初期費用である建設費に重きが置かれてきたライフサイクルコストですが、エネルギーコストの高騰やリサイクルの厳格化により、解体にかかる費用も年々増大しています。また、建物の運用から解体までにかかる費用は、初期建設費の4倍以上にもなるという試算もあります。
建物が完成した後は、建築設備に使用する電気・水道・ガスなどのエネルギーが「水光熱費」として運用費用に計上されます。また、設備を維持するための保守料や、経年による更新費用も全てライフサイクルコストに計上されます。
設備の選定にあたっては、初期費用だけではなく運用費用についても十分に検討をしておく必要があります。
快適な設備設計で建物の生産性を高めましょう
ここまで、建築工事の設備設計について解説してきました。
設備設計を意匠設計とまとめて設計者に任せるのではなく、建築主が主体となって設備の機能と快適性、コストを追求しましょう。
近年高まっているライフサイクルコストの考えから、設備設計にはイニシャルコストだけでなく、ランニングコストへの配慮もますます必要となっていくでしょう。