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建物のライフサイクルコストとは?ライフサイクルコストを抑えて事業収支を改善!

公開日:2023.04.18 更新日:2023.06.19

ライフサイクルコストとは、建物に対する投資金額を評価する手法のひとつです。初期建設費だけを比較するのではなく、建物を建築してから役割を終えて解体するまでにかかる費用をトータルで捉えることが特徴です。ライフサイクルコストの考え方を導入して、建物への投資金額の妥当性を適正に評価しましょう。

建物のライフサイクルコストとは?

建物のライフサイクルコスト(LCC:Life Cycle Cost)とは、建物の建設、運用、そして解体までにかかるすべての費用を合計したものです。

従来は初期費用である建設費に重きが置かれてきたライフサイクルコストですが、エネルギーコストの高騰やリサイクルの厳格化により、解体にかかる費用も年々増大しています。また、建物の運用から解体までにかかる費用は、初期建設費の4倍以上にもなるという試算もあります。

ライフサイクルコストに計上される項目

ライフサイクルコストに含まれる費用の内訳について、もう少し詳しく紹介します。

初期費用

まず初期費用として、以下の諸費用が発生します。

  • 設計費
    設計事務所や建築コンサルタントに支払う費用。各種申請にかかる手数料も含む
  • 建設費
    建設工事にかかる費用。なお構造により法定耐用年数が異なり、会計上の減価償却費に影響することに注意が必要です
構造方法法定耐用年数
木造(W造)22年
軽量鉄骨造(S造)19年or27年
重量鉄骨造(S造)34年
鉄筋コンクリート造(RC造)47年
鉄骨鉄筋コンクリート造(SRC造)47年

運用費用

建物が完成した後は、用途に沿って運用するための運転費用が発生します

  • 水光熱費
    電気・水道・ガスなどのエネルギー費用
  • 修繕費
    建物や設備の劣化や故障の修繕、耐用年数を超えた設備や建築部位の更新にかかる費用
  • 保守管理費
    設備機器の定期的な保守点検費用、建物法定点検費用、清掃費・警備費など  

その他経費

建物の運用費用とあわせて、各種経費も発生します

  • 公租公課
    不動産取得税、固定資産税など建物の運用期間中にかかる各種の税金です
  • 保険料
    火災保険や設備機械保険などの保険料です

終期費用

建物が役目を終えた後は、終期費用と呼ばれる費用が発生します

  • 解体費
    構造により解体費用は大きく変わります。一般的には、RC造>鉄骨造>木造の順に安価になります

ライフサイクルコストの試算方法

ライフサイクルコストを試算する方法は以下の二通りです。

  1. 想定する建物使用期間トータルの各コストを積み上げて計算する(総コスト方式)
    建物の運用期間中にかかることが想定される建設費、保守料、光熱費などの各コストを積み上げてトータルの運用コストを積算する方法。総支出を把握したいときに有効です。
  2. 年次ごとの支出を積み上げで計算する(会計的方式)
    年次ごとにかかる収益から経費を差し引いた利益を積み上げて、トータルの運用コストを積算する方法。税引き後の営業利益を把握したいときに有効です。

建物別ライフサイクルコストの特徴

建物の用途別にライフサイクルコストに占める各費用の割合をご紹介します。

事務所ビル

自社ビルやオフィス用途のテナントビルの場合は、清掃費や設備の維持にかかる保守管理費の割合が高くなります。

保守管理状態の悪いビルはテナント付けに苦戦しますので、しっかりと費用をかけたいところです。

商業施設

商業施設はテナントの営業形態にもよりますが、一般的に水光熱費の割合が高くなります。

初期費用がかかっても、省エネルギー性能の高い設備機器を導入するとライフサイクルコストの低減に大きく貢献するでしょう。

集合住宅

集合住宅の場合は光熱費の割合が極端に低くなります。これは、オーナー負担が共用部の照明やエレベーターなどのみの負担になるためです。

空室を避けるためには、維持修繕計画をしっかりと策定し、修繕費を確保しておく必要があります。

医療施設

医療施設は医療機器を動かすための水光熱費と、高水準の衛生状態を維持するための清掃費等、保守管理費の割合が高くなる傾向があります。

ライフサイクルコストを抑えるための対策

収益物件のライフサイクルコストを抑えて、運用利益を確保するための手法について以下に整理してみました。

初期費用を抑える

  • 相見積や入札により建設工事の価格競争を促す
  • 建築コンサルタントに依頼し、コストマネジメントを委託する
  • ライフサイクルコストから収益を確保するための適性な規模とスペックで建物を設計する

光熱費を抑える

  • 省エネルギー性能に優れた設備機器を導入する(高効率空調・センサー照明など)
  • エネルギーマネジメントシステムの導入し、使用状況を「見える化」し節電オペレーションを促進する
  • 建物の断熱性能を強化し、エネルギーロスを抑える
  • 自家消費型の太陽光発電設備や蓄電池を導入し、系統電力使用量を抑える

修繕費用を抑える

  • 長期修繕計画を策定し、計画的な建物修繕と設備更新を実施する
  • 空調や給湯の設備更新に補助金を活用する(例:環境省SIIを利用した省エネルギー投資促進支援事業)

保守管理費用を抑える

  • 修繕時に費用が抑えられるシンプルで汎用性の高い部材や設備の選定(特注品は可能な限り避ける)
  • 複数の機器を同時に保守できるサービスを活用する
  • 設置時の業者・メーカーへの委託にこだわらず、保守専門の業者に委託する)
  • 設計施工一括発注で、引き渡し後のメンテナンス対応窓口を建設会社に一本化する

解体費用を抑える

  • 可能であれば建物構造に木造や軽量鉄骨を選択する(RC造や重量鉄骨造と比較して建物が軽く、基礎・杭の構造が簡易になるため)

税金や保険料を抑える

  • RC造は火災保険が安価になる
  • 木造でも火災保険料が割安となる「省令準耐火構造」とする

建物のライフサイクルコストを意識して建築計画を検討しましょう

ここまで、建物のライフサイクルコストの概念と、ライフサイクルコストを抑えて運用収益を確保するための考え方をご紹介してきました。

建築工事の検討に当たっては、新築工事にかかる初期費用だけでなく、修繕費、運用にかかる費用と税金・保険料、解体費用まで見越して十分な検討をすることが必要です。

設計事務所や建設会社のみではライフサイクルコストについての検討が不十分になる恐れがあるため、設計段階からビルマネジメント(BM)やファシリティマネジメント(FM)会社と協議を進め、意見をフィードバックすることで失敗を避けられるでしょう。

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