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マンションの大規模修繕に掛かる費用は?予算内に収めるコツについても解説!

公開日:2023.04.18 更新日:2023.06.19

マンションの大規模修繕の周期と工事内容を解説します。大規模修繕の周期は12〜15年が一般的で、計画修繕工事と改良工事を明確に区分した適切な維持管理計画を策定することが、建物価値を維持しつつ長期に渡って収益を生み出すためのポイントです。

マンションの大規模修繕とは?

マンションの大規模修繕とは、経年劣化・老朽化した建物の部位や設備を定期的に修繕することです。

仮設費を始めとする工事費用の圧縮を狙いつつ、住民の日常生活への負担を極力避けるために、数年おきに複数の修繕工事をまとめて一度に実施することが一般的です。

建物所有者は、大規模修繕を適切に実施して建物の資産価値を維持し続けるため、次の二点をしっかり把握しておかなくてはなりません。

  1. 将来見込まれる修繕工事及び改良工事の内容、おおよその時期、概算の費用等
  2. 計画修繕工事の実施のために積み立てる修繕積立金の額の根拠

マンション大規模修繕の周期

マンションの快適な居住環境を確保しつつ、その資産価値を維持するためには、適切なタイミングで適切な修繕工事を行うことが必要です。

ちなみにマンションの大規模修繕の周期は12〜15年とされています。

 出典:国土交通省「改修によるマンションの再生手法に関するマニュアル」P.5

一般的には、この周期に合わせて長期修繕計画を作成し、必要な修繕費を積み立てることが必要です。

またマンションの大規模修繕では、必要に応じて建物及び設備の性能向上を図る改良工事もあわせて実施します。

周期ごとの修繕・更新対象となる部位

サイクルごとに大規模修繕の対象となる工事項目は、下記のとおりです。

築年数大規模修繕の対象
12~15年目屋上防水、外壁シーリング工事等の外部防水工事
(一般的には防水10年保証のため、その後繰り返し)
24~30年目給水装置/電気設備/消防設備等各種設備更新・外部防水工事2周目
36~45年目エレベーター更新・外壁/外部建具/手すり等外部部材更新・外部防水工事3周目
48~60年目構造躯体調査・設備更新2週目・外部防水工事4周目
60~75年目建て替え想定

マンションの大規模修繕コストを抑える方法

マンションを長期にわたって安定して経営するためには、空室を減らし賃料を維持することが重要です。

ここでは入居者に選ばれ続けるマンションとしての資産価値を維持しつつ、大規模修繕コストを抑えるための考え方と手法についてご紹介します。

計画修繕工事を必ず実施する

マンションの大規模修繕は、必ずスケジュールを組んで計画的に実施しましょう。不具合や故障が発生する前に、保証期間や耐用年数が過ぎたものを更新していくというイメージです。

雨漏りや設備の故障などのトラブルが発生してから修繕対応をすると、予期せぬ緊急対応費用が発生する上に、業者の言いなりで修繕費用を支払うことになりかねません。また入居者に生活上の不便を掛けることになり、悪評が立って新たな入居者の募集に苦戦することもあります。

加えて、マンションの質と価値を長期にわたって維持していくためには、求められる性能や水準をその時代に対応させるため、定期的に改善していく必要があります。

大規模修繕工事の計画を行う際には、計画修繕工事だけでなく既存性能をグレードアップさせる改良工事も織り込みましょう。ただしマンション管理上の収支を悪化させることがないよう、どのような内容で改修を行うかは十分な検討が必要です。

コストを抑えるポイント

  • 「計画修繕工事」は当初のスケジュール通りに実施する
  • 修繕費積み立てはマンション経営の収支計算に必ず含める
  • 「改良工事」の内容が本当に必要なものかどうか吟味検討する

適切なタイミングで事前調査し見積を取得する

施工業者から大規模修繕の見積を取得するのは、早すぎても逆効果になる可能性があります。なぜなら、将来の価格変動リスクまで織り込んだ、割高な見積が提出されることがあるからです。

スケジュールがギリギリで工程に余裕が無いのも、足元を見られて見積金額が上昇する要因にもなります。

建設会社や管理会社に事前調査を依頼するタイミングとしては、大規模修繕計画の1〜2年前がおすすめです。

また、大規模修繕をする工事期間の設定も考慮しましょう。

例えば、年度初め着工~盆前、盆明け〜年末は業者が繁忙期のため割高になる傾向があります。マンションの立地する地域と工事の内容によっては、真夏や冬季間の工事とすると値引きをしてもらえるケースもあるでしょう。

コストを抑えるポイント

  • 大規模修繕計画の1〜2年前に事前調査を実施し、工事見積を取得する
  • 工期設定は業者の繁忙期を避ける

大規模修繕事業計画を専門家へ委託する

マンションの大規模修繕工事に対して建設会社から出てくる見積の妥当性を判断するために、CM(コンストラクションマネジメント)方式の導入も検討しましょう。

CM方式とは、建築士やマンション管理士などの資格を持つコンストラクションマネージャーが、技術的な中立性を保ちつつ発注者の側に立ち、設計の検討や工事発注方式の検討、工程管理、品質管理、コスト管理などの各種のマネジメント業務の全部または一部を行うものです。

CM費用を支払っても結果的に大規模修繕費がコストダウンすることが多いため、検討する価値は十分にあります。

コストを抑えるポイント

  • CM(コンストラクションマネジメント)方式の導入を検討する

マンション大規模修繕の対象項目と工事内容

マンションの大規模修繕工事の対象となる工事項目と内容、修繕サイクルについてまとめましたのでご参考にしてみてください。

工事区分:建設工事

工事項目計画修繕工事内容改良工事内容大規模修繕サイクル
(1)鉄・アルミ部等塗装工事屋上、バルコニー、廊下、階段室、自転車置場等の外構工作物等の鉄部の塗り替え塗料のグレードアップ、吹付け塗装による仕上げ感のアップ1(12~15年)
(2)躯体改修工事外壁、共用廊下・階段、バルコニー等のコンクリート壁・上げ裏(天井面)・手すり壁、庇等の劣化・損傷箇所の修繕(クラック補修等)再アルカリ化等によるコンクリート躯体の中性化抑止3(36~45年)
(3)外壁仕上げ改修工事外壁、共用廊下・階段、バルコニー等のコンクリート壁・手すり壁、庇・バルコニー上げ裏(天井面)等の吹付け塗装部の再塗装、タイルの洗浄及び劣化・損傷箇所の修繕塗料の性能、外壁仕上げ材のグレードアップ、仕上げによる中性化抑止、外壁の外断熱改修1(12~15年)
(4)シーリング改修工事サッシ周り、コンクリート打継目地、PC板目地、スリーブ周り、庇等入隅部、金物端部等のシーリング材の劣化部の打替え防水シーリング材の性能のグレードアップ1(12~15年)
(5) 屋根防水改修工事屋根、屋根庇、階段出入口等の庇の防水層の劣化・漏水等に対する屋根スラブの躯体修繕及び屋根防水層の全面的な修繕・改修防水仕様のグレードアップ、屋根の外断熱防水、笠木等の材質のグレードアップ、屋上の排水能力の向上1(12~15年)
(6) 床部改修工事バルコニー、開放廊下・階段室の床・庇・梁型天端等の防水工事防水層の新設、防水仕様・工法のグレードアップ、開放廊下・階段室踊り場の雨水吹き込み対策・排水対策、段差部のバリアフリー化1(12~15年)
(7)ドア改修工事住戸ドア及びパイプスペース・メーターボックスの扉の塗装塗替え・取替え、付属金物の取替え住戸ドア・住戸ドアの付属金物・住戸ドア周り、パイプスペース扉等のグレードアップ、耐震玄関ドアへの取替え、住戸ドアのピッキング対策、断熱ドアへの入れ替え3(36~45年)
(8)サッシ改修工事サッシ及びサッシ周りの付属金物の修繕・取替え、窓面格子・窓手すり・防犯雨戸・鎧戸等の取替えサッシ及びサッシ付属金物の取替え等による性能のグレードアップ、窓面格子・窓手すりの取替え、雨戸の追加・増設、住戸窓の防犯対策、ガラス交換や内窓設置による断熱改修3(36~45年)
(9)金物類改修工事ドア・サッシの付属金物以外の全ての金物類の劣化・損傷箇所の修繕・取替え金物類の材質のグレードアップ、手すりの設置3(36~45年)
(10)屋外鉄骨階段改修工事手すり・踏板・踊り場等の錆・腐食箇所の修繕踏板の防水・排水・消音・安全性確保・耐震補強工事、屋外鉄骨階段の取替え3(36~45年)
(11)内壁・内装改修工事建物の内部階段・内部廊下、管理事務室・集会室等の壁面、床面、天井面の劣化・損傷箇所の修繕内壁コンクリートの中性化防止対策、内装塗料の性能・内装材のグレードアップ、シックハウス対策2(24~30年)
(12)エントランス改修工事エントランスホール、エントランス周りの床・壁・天井等の内装の全面的模様替えエントランスホール及びアプローチ部分の仕上げ等のグレードアップ・バリアフリー化、エントランスドアの性能のグレードアップ、エントランスホールの防犯対策2(24~30年)
(13)浴室防水改修工事住戸浴室の床防水層の劣化・損傷箇所の修繕、全面防水改修防水仕上げ材、床・壁等の仕上げ材のグレードアップ、浴槽のグレードアップ等2(24~30年)
出典:国土交通省「改修によるマンションの再生手法に関するマニュアル」

工事区分:給排水機械設備工事

工事項目計画修繕工事内容改良工事内容大規模修繕サイクル
(14)給水設備改修工事屋内・屋外共用給水管、住戸内専用給水管の更生・取替え工事、給水装置・給水施設のオーバーホール・劣化・損傷箇所の修繕・取替え給水管、給水装置、給水施設の材質のグレードアップ、受水槽・高置水槽の耐震工事、給水ポンプ等の防振・防音工事、電動機のグレードアップ、給水システムの変更2(24~30年)
(15)排水設備改修工事屋内・屋外の雑排水設備、汚水設備、雨水排水設備、屋外枡管路の劣化・損傷箇所の修繕・取替え雑排水管・汚水管の材質のグレードアップ、排水能力のアップ、排水システムの変更、排水管清掃口の新設・増設、洗濯機パンの設置2(24~30年)
(16)消火設備改修工事屋内消火栓設備、連結送水管設備の劣化・損傷箇所の修繕・取替え機器類及び配管の材質のグレードアップ2(24~30年)
(17)ガス管改修工事ガス管(屋内・屋外共用、住戸内専有)及びメーターの劣化・損傷箇所の取替えガス管の材質のグレードアップ、配管サイズのアップによる供給能力の向上2(24~30年)
(18)給湯設備改修工事給湯管の更生・取替え工事、給湯器の取替え工事給湯管の材質のグレードアップ、ガス機器のシステムの変更・性能のグレードアップ、ガス給湯器から電気給湯器への取替え2(24~30年)
(19)冷暖房設備工事冷暖房設備の共用配管カバーの新設、共用廊下側へのエアコン用スリーブ・室外機置場の新設、冷暖房設備の性能のグレードアップ2(24~30年)
(20)換気設備改修工事換気口・換気扇・ダクト類の清掃及び修繕・取替え工事材質のグレードアップ、共用立てダクトの給排気能力の向上2(24~30年)
出典:国土交通省「改修によるマンションの再生手法に関するマニュアル」

工事区分:電気設備工事

工事項目計画修繕工事内容改良工事内容大規模修繕サイクル
(21) 電 灯 幹線・動力設備改修工事電灯幹線及び電力設備の劣化・損傷箇所の修繕・取替え電灯幹線の引込み数の増加、低圧引込から高圧引込への変更、幹線改修、トランスの増設による容量増量工事2(24~30年)
(22) 照明器具・配線器具改修工事共用廊下・階段、エントランスホール等の照明器具及び配線器具の劣化・損傷箇所の修繕・取替え照明器具の性能・デザインのグレードアップ、LED 化、自動点滅器による点灯・消灯方式への変更、安定器の性能のグレードアップ、防犯灯の増設、防犯カメラの設置2(24~30年)
(23) 情報通信設備改修工事電話端子盤、MDF 盤、IDF盤、引込み管路等の劣化・損傷箇所の取替えMDF盤・IDF盤のセキュリティー対策、インターネット接続環境の整備、インターホン設備の導入2(24~30年)
(24)テレビ共聴設備改修工事テレビ共聴アンテナ、増幅器盤、分岐・分配器盤、同軸ケーブル等の劣化・損傷箇所の取替え双方向システムの導入等に伴う同軸ケーブルの性能のグレードアップ、高度な受信形態に適したテレビ配線システムの改善(※4K8K 対応等)2(24~30年)
(25)防災設備改修工事自動火災報知設備、非常警報設備、誘導灯設備、非常コンセント設備、非常用照明設備等の劣化・損傷箇所の修繕・取替え誘導灯の性能のグレードアップ、放送設備の整備2(24~30年)
(26)避雷設備改修工事避雷突針、避雷針支持ポール、避雷導線、接地銅板等の劣化・損傷箇所の取替え2(24~30年)
出典:国土交通省「改修によるマンションの再生手法に関するマニュアル」

工事区分:その他の設備工事

工事項目計画修繕工事内容改良工事内容大規模修繕サイクル
(27)エレベーター設備改修工事エレベーターのロープ、モーター、巻上げ機、カゴ、扉、制御盤等の劣化・損傷箇所の修繕・取替えエレベーターの性能のグレードアップ、マシンルームレスエレベーターへの取替え、エレベーターシャフトの耐震補強3(36~45年)
(28)機械式駐車場工事機械式駐車場の駐車装置、制御盤、検知装置、操作盤、昇降装置、安全装置等の劣化・損傷箇所の修繕・取替え機械式駐車場の導入・増設、機械式駐車装置の性能のグレードアップ2(24~30年)
出典:国土交通省「改修によるマンションの再生手法に関するマニュアル」

工事区分:外構・土木関係

工事項目計画修繕工事内容改良工事内容大規模修繕サイクル
(29)舗装改修工事敷地内道路、駐車場、駐輪場、歩道、広場等の舗装、路盤、縁石、L型側溝、排水溝等の劣化・損傷箇所の修繕・取替え舗装のバリアフリー性・デザイン性・耐久性等のグレードアップ、屋外段差部のバリアフリー化2(24~30年)
(30)外構工作物改修工事遊具・パーゴラ、自転車置場上屋、柵、掲示板、案内板、サイン等の劣化・損傷箇所の修繕・取替え材料やデザインのグレードアップ、公園・プレイロットの計画的見直し、ゴミ置場の整備2(24~30年)
(31)緑化環境整備工事高木・灌木の枝払い、芝生の目土入れ等樹木の生長障害への対応、樹木・植栽の間伐・再配置、植栽・生垣等による空間の区画、駐車場の緑化2(24~30年)
(32)屋外排水設備改修工事敷地内の雨水、汚水排水管路、排水桝の劣化・損傷箇所の修繕・取替え2(24~30年)
出典:国土交通省「改修によるマンションの再生手法に関するマニュアル」

マンションの大規模修繕の成功のカギは適切な長期修繕計画の策定

ここまで、マンションの大規模修繕修繕の考え方と内容、大規模修繕コストを抑えるコツなどについて解説してきました。

大規模修繕を成功させ、長期にわたって安定して賃貸経営をするためには、計画的な調査と修繕計画の策定が重要です。

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