官公庁の入札の流れを解説し、建築業者が民間以外にも受注の幅を広げる方法を紹介します。特に官公庁の一般競争入札の参入ハードルは思うほど高くありませんので、まずは入札参加登録して第一歩を踏み出しましょう。
入札とは
「入札」とは、複数の受注希望者が存在する場合に契約者を決定する方法のひとつです。
同じ条件のもとで、互いの金額が分からない状況で同時に金額を提出し、最も安い金額を提示した者が受注するのが原則となります。
官公庁では、物品の購入や労務の提供、業務の代行、工事の請負などにおいて入札制度が採用されています。
近年では、入札金額の単純な金額の大小だけでなく、過去の実績や経営状況などから総合的に事業者を評価し、落札者を決めることもあり、これを「総合評価方式」と呼んでいます。
官公庁が入札制度を導入する目的は、主に三つあります。
- 公平性の担保
誰でも参加が可能で、公平な競争の機会を確保すること - 経済性の担保
自由な価格競争により、経済性を追求すること - 透明性の担保
選定プロセスを透明化し、正当かつ合理的な理由で選定されたことを明らかにすること
官公庁入札の注意点
国や省庁、地方自治体、独立行政法人などをまとめて「官公庁」と呼び、官公庁が物品の購入や労務の提供、業務の代行、工事の請負を行う場合には、原則として入札制度が適用されます。
発注の財源は税金であるため、公平性と透明性、経済的合理性が徹底して追及されることになります。
官公庁契約の3形態
一般競争入札
公報やホームページなどで広く募集し、参加資格を有する全ての企業が入札に参加することが可能です。
実績がなくても参加できるため、官公庁の仕事を受注したい企業は、まずはこの一般競争入札で実績を作るところからスタートしましょう。
指名競争入札
入札に参加できる企業を、過去の実績などを基に官公庁があらかじめ指名する入札方法です。技術的難易度が高く、品質の確保に慎重を期する場合などに採用されます。
一般競争入札と比較すると参入のハードルが上がるため、官公庁案件を複数こなして実績を積んでいる企業向けの入札になります。
随意契約
特定の企業を任意に選定して、入札を行わずに直接契約を締結する方式です。
公平性・透明性の観点から、原則として随意契約は認められませんが、金額が少額の場合や、競争入札で落札者が決定しない場合にやむを得ず採用されるケースがあります。
発注機関
発注機関は、国や自治体などです。以下の一覧を参考にしてください。
国・中央省庁
府省 | 外局等 |
---|---|
内閣府 | 宮内庁 警察庁 金融庁 消費者庁 復興庁 |
総務省 | 消防庁 |
法務省 | 公安調査庁 |
外務省 | |
財務省 | 国税庁 |
文部科学省 | 文化庁 スポーツ庁 |
厚生労働省 | |
農林水産省 | 林野庁 水産庁 |
経済産業省 | 資源エネルギー庁 特許庁 中小企業庁 |
国土交通省 | 観光庁 気象庁 海上保安庁 |
環境省 | |
防衛省 | 陸上自衛隊 海上自衛隊 航空自衛隊 防衛装備庁 |
地方自治体
- 都道府県
- 市町村
- 行政区
その他
対象
建設業を営む企業が入札に参加できる分野としては、下記の業務が挙げられます。
- 各種の建設工事
- 物品の購入(建設資材の納品)
- 役務の提供(設備保守・測量・清掃・廃棄物処理)
- 建設コンサルティング(各種調査・設計)
ランク制度
入札のランク制度とは、企業の規模や実績、経営状況の評価により企業をA・B・C・Dのランクに分けて、それぞれ入札参加できる案件を制限する制度です。
入札案件に見合わない規模の企業が実績作りのために安値受注して、要求される品質を確保できないケースを避けるために採用されています。
入札の流れ
官公庁入札に参加する場合の流れについて説明します。近年はWEB上だけで入札の手続きが完結することも多く、入札参加のハードルは高くはありません。ぜひ積極的に参加してみましょう。
入札の流れ①必要な入札参加資格を取得する
官公庁入札に参加するには、事前に企業情報を登録して審査を受ける必要があります。登録の有効期限は2年としているところが多く、有効期限が到来したら更新手続きが必要となります。
- 中央省庁(国)関係・・・全省庁統一資格(総務省WEBサイトより申請)
- 地方自治体(都道府県・市区町村)・・・各自治体個別の事業者登録
官公庁入札の中でも、特に建設工事の入札参加資格を取得するには下記の4つの条件を満たしている必要があります。
- 建設業許可を受けていること・・・1件につき税込み500万円以上(建築一式工事は1500万円以上)の工事を請け負う場合は建設業許可が必要です
- 経営事項審査(経審)を受審していること・・・その企業の経営状況や規模、技術的能力を客観的に数値化し評価する制度です。企業所在地を管轄する地方整備局へ審査を申し込み取得します
- 税金の未納がないこと・・・所得税・住民税・消費税等の未納がないかに注意してください
- 欠格要件に該当しないこと・・・破産者や過去に談合等で処罰を受けた場合などが該当します
入札の流れ②入札案件を探す
参加資格を取得したら、自社で対応できそうな入札案件を探します。探し方としては次のようなものがあります。
- 官公庁のホームページや窓口での閲覧
- 業界新聞に掲載されている入札公告
- 民間の入札情報サービスの利用
入札の流れ③説明会に参加し仕様書を取得する
参加したい官公庁入札案件が出たら、説明会に参加し詳細な要項や仕様書・図面を入手します。
近年はWEBページでの告知およびデータダウンロードのみのケースもあります。図面や仕様書に対する質問受付期間が一定期間ありますので、積極的に質問をしましょう。
入札の流れ④案件に入札をする
入札方法には次の3つの種類があります。
- 会場入札・・・指定日時に入札会場に赴き、入札金額を記入し厳封をした入札書を提出します
- 電子入札・・・電子証明書(ICカード)とICカードリーダを用意し、官公庁が用意したWEBサイトから入札します
- 郵便入札・・・入札期間中に届くように、入札書を書留や特定記録郵便で郵送します
入札の流れ⑤落札
入札の落札者の選定方法は次の二つがありますので、入札要項でよく確認しておきましょう。
- 最低価格落札方式・・・予定価格の範囲内で最低金額を入札した業者が落札者となります
- 総合評価落札方式・・・予め公表された評価基準と入札価格から評価点を算出し、落札者を決定します
入札の流れ⑥契約
晴れて落札者となった場合は官公庁から通知が届くので、規定に従って契約を締結し、工事の段取りへと進みます。
一般競争入札で官公庁工事を受注するためには
官公庁入札で工事を受注するためのポイントをいくつかご紹介します。
機会損失を防ぐ
まずは、入札情報を得ないことには始まりません。定期的に官公庁の窓口を訪問したりWEBサイトをチェックしたりして入札情報を得るのが一番です。
民間の入札情報サービスは定額費用が掛かりますが、新規情報をいち早く通知してくれるので利用してみるのも一つの手でしょう。
落札傾向を分析する
一般に官公庁工事の入札においては、ダンピング受注を防ぐために「最低制限価格」が定められています。最低制限価格ギリギリを攻めるのが落札するための鉄則になりますので、過去の類似案件の落札価格を分析し最低制限価格を予測してみましょう。
自社で作成した概算見積金額と競合他社の予想価格の見極めも必要となります。図面、仕様書に対する質問期間が設定されているため、それを利用して積算精度を高めることも有効です。
競争倍率を見極める
入札に参加する企業が多ければ価格競争も厳しく、たとえ落札したとしても利益が見込めない場合もあります。
そのような場合は、官公庁の中でも比較的マイナーな発注機関(独立行政法人・特殊法人など)に着目するブルーオーシャン戦略も有効です。
総合評価の点数を稼ぐ
近年は総合評価方式による入札も増加しています。地方自治体は災害応援や除雪協力など、地域貢献ポイントの評点が大きいことが特徴です。
建設業においても2024年から働き方改革関連法が適用され、労働時間の上限や有休取得の義務化などが厳格化されます。
従業員のワークライフバランスへの配慮や週休二日制の導入、女性技術者の登用など労務環境・福利厚生の取り組みは高評価の対象となるため、自社の環境を今一度見直してみましょう。
入札の流れを正しく理解し受注の幅を広げましょう
ここまで官公庁入札について解説してきました。入札に参加する流れと落札するためのポイントについても説明しましたが、官公庁入札への参加ハードルは決して高くありませんので、積極的に参加してみましょう。