建設現場の主任技術者と監理技術者の違いについて解説します。原則として全ての工事現場で主任技術者の選定と配置が必要であり、元請けとして一定額以上の工事を施工する場合は主任技術者に代わって監理技術者の配置が必要になります。法解釈で間違えやすいポイントについても説明します。
主任技術者と監理技術者の違いとは?
建設業法第26条において、建設工事現場の技術的な管理者として「主任技術者」と「監理技術者」の配置が必要とされています。
この二つの違いについて説明します。
主任技術者とは
建設業者は請負工事を施工するにあたって、全ての建設工事現場に施工の技術上の管理をつかさどる「主任技術者」を置かなければなりません。これは、元請、下請、請負金額に係わらず全ての建設工事が対象となります。
主任技術者になるための要件は、下記のいずれかです。
- 指定の国家資格を保有していること
- 一定期間の実務経験があること
- 指定の登録基幹技能者講習を修了していること
主任技術者は、建設業法に定められている29の業種それぞれに対応して配置されます。
業種により必要な資格や技能検定の種類、実務経験年数がそれぞれ定められていますので、まずは自社の工事業種がどれに当てはまるかを確認しましょう。
監理技術者とは
元請での工事請負で下請に発注する金額の総額が4,500万円以上(建築一式工事は7,000万円以上)(※1)の工事現場は、建設業者は主任技術者に代わって「監理技術者」を配置する必要があります。
※1「特定建設業許可」の区分と同じ金額基準です
建設業法に定められている29の業種のうち、指定建設業(※2)において監理技術者となるには、一級施工管理技士や一級建築士の国家資格等の保有が必要です。
※2 土木工事業、建築工事業、電気工事業、管工事業、鋼構造物工事業、舗装工事業、造園工事業の7業種
指定建設業以外の22業種に関しては、一定の要件を満たした実務経験を有する場合も監理技術者となることができます。その場合の要件は、主任技術者資格を保有していることに加えて、元請として請負代金額4,500万円以上の工事において、2年以上の指導監督的な実務経験があることとされています。
監理技術者になるための要件は①②を満たした上で、③の「監理技術者講習」の修了が必要です。
- 指定の国家資格を保有していること(指定建設業)
- 一定期間の実務経験があること(指定建設業以外の22業種:指導監督的実務経験が2年以上必要)
- 監理技術者講習を修了し「監理技術者資格者証」の交付を受けていること
なお、工事現場で選任された監理技術者は、発注者から請求があったときは監理技術者資格者証を提示しなければなりません。
専任と非専任の区別
建設業法第26条第3項では、「公共性のある施設若しくは工作物又は多数の者が利用する施設若しくは工作物に関する重要な建設工事(「公共性のある重要な建設工事」)に設置される監理技術者等(主任技術者も含む)は、工事現場ごとに「専任」の者でなければならない」とされています。
「公共性のある重要な建設工事」とは、工事一件の請負金額が4,000万円(建築一式工事の場合は8,000万円)以上の工事と定義されています。
逆に言えば、請負金額4,000万円未満の工事であれば監理技術者の配置は必要なく、主任技術者は複数の工事現場の兼務が可能であり「非専任」でよいということです。
主任技術者と監理技術者の比較
ここまでの内容を、表に整理してみましたので参考にしてみてください。
監理技術者 | 主任技術者 | ||
---|---|---|---|
指定建設業(7業種) | 指定建設業以外(22業種) | ||
資格要件(1) 国家資格による要件 | 1級施工管理技士等 | 1級施工管理技士等 | 1級及び2級施工管理技士等 |
資格要件(2) 実務経験による要件 | 取得不可 (1級施工管理技士等の国家資格の取得が必要) | 主任技術者資格に加え、元請として請負代金額4,500万円以上の工事において、2年以上の指導監督的な実務経験があること | 1.大学・短大・高専の指定学科卒…実務経験が3年以上あること 2.高校の指定学科卒…実務経験が5年以上あること 3.上記以外…実務経験が10年以上あること |
配置要件 | 元請での工事請負で下請に発注する金額の総額が4,500万円(建築一式工事の場合は 7,000万円)以上の工事 | 全ての建設工事 | |
現場専任要件 | 公共性のある工作物に関する建設工事であって、請負金額が4,000万円(建築一式工事の場合は 8,000万円)以上となる工事 |
主任技術者と監理技術者の配置について間違えやすいポイント
主任技術者と監理技術者の配置について、解釈を間違えやすいポイントについて解説します。
元請と下請の場合での違い
監理技術者を配置することが義務付けられるのは、発注者から直接工事を請け負った「元請事業者」の場合です。
元請事業者から発注を受ける下請事業者の場合は、主任技術者の選任および配置のみでよいことになります。
ただし、請け負う工事の金額が4,000万円以上の場合は、主任技術者であっても現場専任が必要なことに注意が必要です。
「専任」の定義
「専任」とは、他の工事現場を兼務せず、常時継続的に当該建設工事現場にかかる職務にのみ従事することを意味します。必ずしも該当する工事現場へ常駐を必要とするものではありません。
例えば、研修、講習、試験等への参加、休暇の取得、その他の合理的な理由で監理技術者や主任技術者が短期間工事現場を離れる場合が該当します。
監理技術者等が適切な施工ができる体制を確保し、その体制について、元請の場合は発注者、下請の場合は元請または上位の下請の了解を得ていれば、一時的に現場を離れても差し支えないとされています。
監理技術者の短期雇用や派遣は禁止
監理技術者や主任技術者については「工事を請け負った企業との直接的かつ恒常的な雇用関係が必要」とされています。
つまり、以下のような技術者の配置は「直接的かつ恒常的な雇用関係」にあるとは言えないため認められません。
- 直接的な雇用関係を有していない場合(在籍出向者や派遣社員など)
- 恒常的な雇用関係を有していない場合(一つの工事の期間のみの短期雇用)
規制緩和で監理技術者の兼任が可能に
技術者の高齢化による大量引退と新規就労者の減少の影響を受けて、建設業界の技術者不足は深刻な問題となっています。
監理技術者や主任技術者の制度においても近年規制緩和が行われました。その内容について解説します。
「管理技士補」資格の新設
2021年4月より建設業法が改正され「施工管理技術検定制度」が導入されました。これにより「1級施工管理技士補」の資格が新設されています。
監理技術者の主要な要件のひとつであり、難関資格とされる「1級施工管理技士」になるには、これまで「学科試験」「実地試験」両方に合格する必要がありましたが、新制度では学科試験は「一次検定」に、実地試験は「二次検定」に名称変更されました。
一次検定に合格した者は「1級施工管理技士補」の資格を取得し、監理技術者の業務をサポートすることが可能になります。
常駐の「管理技士補」を配置することで監理技術者は2現場兼任が可能
監理技術者不足は深刻な社会問題となっており、工事を受注しても専任の監理技術者を配置できず着工できないという問題が続出しています。
その問題の解決策として、1級施工管理技士の資格取得前ですが一次検定に合格している「1級施工管理技士補」を監理技術者の補佐として工事現場に配置することで、監理技術者が工事現場を兼務できるように規制が緩和されました。
ただし、1人の監理技術者が兼務できるのは2現場までとされていることに注意が必要です。
主任技術者と監理技術者の違いを理解してコンプライアンスの徹底を!
ここまで、建設工事における主任技術者と監理技術者の役割の違いと資格要件などについて解説してきました。
近年の建設技術者不足は社会的な問題となっており、工事を安定して受注するためには、まず主任技術者と監理技術者を確保することが必須となっています。
規制緩和を受けて制度も変化していますので、最新の動向を良く理解した上で技術者の採用と育成に努めましょう。