設計図書とは、工事の各部の設計図に内容を補足する仕様書を加えたもので、建築工事の見積や施工に必要なものです。設計図書の種類と内容、作成するときの規格などについて解説します。設計図書は15年の保存が義務付けられていることにも注意が必要です。
設計図書とは
「設計図書」とは、「設計図」と「仕様書」を合わせたものです。
具体的には建築工事の見積や実際に施工する際に必要な図面(設計図)に、図面では表現しきれない品質や施工方法の指示書(仕様書)を加えて作成します。
設計図書の法律上の定義
法律上、「設計」という言葉は設計図書を作成することを意味します。参考までに、建築士法に規定された設計図書の定義は次の通りです。
〈建築士法第二条第6項〉
この法律で「設計図書」とは建築物の建築工事の実施のために必要な図面(現寸図その他これに類するものを除く。)及び仕様書を、「設計」とはその者の責任において設計図書を作成することをいう。
設計図
「設計図」とは、建物の各部の寸法や形状、使用材料などを示す図解です。一般的には平面図や立面図として作成されます。
設計図は紙面に描かれる古都が多く、建物の全体を把握できるように1/50、1/100などに縮小したサイズで作成されます。
なお施工上の納まりなどを検討する際に使用する「現寸図」(実際の寸法で作成する図面)は、設計図にはあたりません。
仕様書
「仕様書」とは、図面に記載できない詳しい情報を記載するもので、「標準仕様書」と「特記仕様書」の二種類があります。
設計図が二次元の図解であるのに対し、部材名称や品質基準を説明する文言や、一般的な施工方法を示す概念図が中心となります。
設計図の種類
設計図は、次の4つの分野に分けて作成されます。
- 意匠設計図
- 構造設計図
- 設備設計図
- 外構設計図
それぞれについて、作成する図面とその内容を下記に整理します。
意匠設計図
意匠設計図は、建物の間取りや外観、部屋の天井高さや窓や出入り口などの開口部の位置を指定します。
加えて、敷地内の建物の配置や、その敷地に適用される法規制に基づいたチェックなどの法適合根拠を示す図面も作成します。
図面の種類 | 内容 |
---|---|
配置図 | 敷地内の建物の位置を示す |
面積算定表 | 敷地や建物の面積算定の根拠となる計算式を示す |
各階平面図 | 建物の階層ごとの間取り図 |
立面図 | 東西南北の四面から見た建物の正面姿図 |
断面図 | 特定の位置で切断して側面から見た建物の断面 |
法チェック図 | 建ぺい率・容積率、防火区画、高さ制限、各室の採光率面積・換気回数・排煙面積などの計算式と法基準を満たしていることの根拠図 |
仕上表 | 使用する建材や仕上げのリスト |
建具図 | 外部サッシや内部建具の姿図と仕様を説明する |
展開図 | 内部の壁面や天井高さ、開口部の位置を示す |
構造設計図
構造設計図では、建物が自らの重さに加え、床や屋根に乗る人や備品、機械の重さに耐えるための構造体について、使用する部材と構造体の構成方法を指定します。
構造設計図を作成する際は、地震や強風などによっても倒壊せず、建物を安全に使用できる構造になるよう「構造計算」が行われます。このとき作成する構造計算書は、建築確認申請の際に必要です。
図面の種類 | 内容 |
---|---|
標準構造図 | 図面に特記が無い場合に使用する材料や納まりを示す |
構造詳細図 | 基礎や柱、梁など構造を構成する各部材の断面詳細 |
構造伏図 | 水平方向に切断した各層の構造を上から見たもの(基礎伏図・各階床伏図・小屋伏図など) |
軸組図 | 構造体を特定の位置で切断して側面から見た骨組み図 |
設備設計図
設備設計図は、大きく分けて「給排水機械設備図」と「電気設備図」に分けて作成されます。
〈給排水機械設備図〉
給水や排水の配管ルートの指定と、使用する配管部材の種類についての設計が基本となりますが、エアコンや換気などの空調設備もここに含まれます。
また、消防法の規制により建物の用途や規模に応じて、スプリンクラーや自動火災報知設備などの防災設備の設計も必要となります。
図面の種類 | 内容 |
---|---|
給排水配管図 | 水道や下水排水の経路と管の種類を示す |
衛生器具表 | トイレや手洗い、キッチンなどの製品リスト |
空調設備図 | エアコンに代表される建物内の温度管理機器の計画 |
換気設備図 | 室内の空気を入れ替えるための換気設備の計画 |
消火設備図 | スプリンクラーや消火栓など初期消火に寄与する設備の配管と配置計画 |
〈電気設備図〉
電線から建物への電気の引き込み方法や、建物内部で使用する機器に送り込む電線のルートについて設計します。
照明計画も電気設備の重要な部分で、建物の用途と、そこで行われる作業内容によって適切な照度が得られるように計画する必要があります。
図面の種類 | 内容 |
---|---|
受変電設備 | 電気の引き込みやキュービクルの計画を示す |
単線結線図 | 施設全体の電気系統を概念化した模式図 |
回路図 | 分電盤の回路設計図 |
照明器具リスト | 電灯として使用する照明器具の型番と姿図 |
電灯、スイッチ位置図 | 照明の配置と対応するスイッチの位置図 |
コンセント位置図 | コンセントの位置と種類を示す |
弱電設備図 | 電話やインターネット回線の配管、配線を示す |
防災設備図 | 非常用照明や火災報知器、自動火災報知設備の内容と位置を示す |
外構設計図
外構は、敷地内の建物周囲の駐車場や歩道、緑地の設計になります。雨水を排水するための側溝や、調整池の設計も外構設計の対象範囲です。
図面の種類 | 内容 |
---|---|
外構平面図 | 舗装や駐車場ライン、フェンス、緑地の位置などを示す |
外構断面図 | 特定の位置で切断した外構の断面で高さや勾配を示す |
各部詳細図 | それぞれの部材の仕様と施工方法を示す |
雨水排水計画図 | 敷地内の雨水を処理するための側溝や調整池の計画図 |
仕様書の種類
先述のとおり、仕様書は「標準仕様書」と「特記仕様書」の二種類があります。
それぞれの違いについて説明します。
標準仕様書
「標準仕様書」は、一般的な工事内容の説明・品質基準・試験方法などの基本情報を記載するものです。工事ごとに作成するのではなく、設計会社が自社基準として用意している仕様書を使い回すケースがほとんどです。
国や自治体などの官公庁が発注する工事は、原則として「公共建築工事標準仕様」を参照します。民間の設計事務所やゼネコンが用意する標準仕様書も、多くはこの公共工事標準仕様書の記載内容をベースとしています。
特記仕様書
「特記仕様書」は、その工事独自の内容を記載するもので、工事において確保すべき品質や特殊な施工方法の指定などについて、標準仕様書の記載内容を上書きする形で作成します。
このため標準仕様書と特記仕様書とで記載内容が食い違う場合は、特記仕様書の方を優先します。
設計図書の規格
設計図書の作成にあたっては、国土交通省官庁営繕部及び地方整備局等営繕部が官庁施設の営繕を実施するための基準として制定した下記の基準があります。
その内容の一部を、図解で説明します。
基本製図
- 用紙・・・A1またはA3サイズで所定の表題欄を設ける
- 文字・・・文字のフォントは、ゴシック体
- 線・・・実践、破線、点線、一点鎖線、二点鎖線の5種類で、線の幅は極太線、太線及び細線の3種類
- 尺度・・・13種類(1/1 1/2 1/3 1/5 1/10 1/20 1/30 1/50 1/100 1/200 1/300 1/500 1/600)
- 寸法等の表示・・・単位は、ミリメートルとし単位記号は省略する
建築製図
図面名称や順序のまとめ方、特記仕様書の作成方法や記載事項についても、「建築製図」としての規定が定められています。詳細は建築工事設計図書作成基準をご参照ください。
設計図書の保存期間
建築士法により、下記の設計図書は15年間の保存が義務付けられていることに注意しましょう。
意匠設計図書
- 配置図
- 各階平面図
- 二面以上の立面図
構造設計図書
- 基礎伏図
- 各階床伏図
- 小屋伏図
- 構造詳細図
確認申請に添付する法適合チェック書類
- 構造計算書
- 省エネ計算書
その他
- 工事監理報告書
これらの図書の保存方法は、書面もしくは電子データとされています。
設計図書を読み込んで工事の意図を余すことなく読み取りましょう
ここまで、設計図書の内容と種類について解説してきました。工事の見積や施工をするうえで設計図書を細部まで読み込み理解することは必須であり、設計意図を正確に反映させることが質の高い仕事を生み出します。
設計意図は発注者の要望でもありますので、今一度設計図書の重要性を認識して、発注者に選ばれる品質を確保しましょう。