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建築工事の設計契約の注意点について徹底解説!契約書の文例も紹介

公開日:2023.06.19 更新日:2023.06.19
建築工事の設計契約の注意点について徹底解説!契約書の文例も紹介

クライアントから依頼を受けて建築工事の設計をするにあたっては、必ず設計契約を締結しましょう。設計は時間を掛けようとすれば際限が無いものですので、業務の責任範囲と成果物を明確にして、適切なタイミングできちんと報酬を得られるように明文化しましょう。

設計契約とは?

設計契約とは、建築主が建物の設計を設計事務所に依頼する際に締結する契約のことを指します。

設計契約は、業務の遂行を他者に委託する契約である「業務委託契約」の一種であり、建物の設計に関わる業務を建築主が設計事務所に依頼する「委任契約」と、設計事務所が設計図書の作成や設計監理業務を仕事の成果として建築主に提供する「請負契約」という二つの種類があります。

建築士法で定義される設計契約

設計契約については、建築士法第23条の3の2の中で下記のように規定されています。

「設計又は工事監理の委託を受けることを内容とする契約(以下それぞれ「設計受託契約」又は「工事監理受託契約」という。)の当事者は、各々の対等な立場における合意に基づいて公正な契約を締結し、信義に従つて誠実にこれを履行しなければならない。」

延べ面積が300㎡以上の建築物の新築は設計契約が義務付け

建築士法においては、設計する建物の延べ面積(延床面積)が300㎡(約90坪)以上の場合に設計契約が義務付けられています。

ただし、発注者とのトラブルを避けるためには、全ての案件で書面による設計契約を締結するべきでしょう。

「設計受託契約」と「工事監理受託契約」

建築士法で規定されている「設計受託契約」と「工事監理受託契約」の内容について説明します。設計契約では、この二つを別々に契約する場合と、統合した契約を締結する場合があります。

〈設計受託契約〉

建築主と打ち合わせをして、設計図書を作成する業務委託契約です。

〈工事監理受託契約〉

工事が設計図書通りに進められているかを建築主に代わって検査および照合し、その結果を建築主へ報告する業務委託契約です。

設計契約書に記載する内容

設計契約のひながたとして広く使用されている「四会連合協定 建築設計・監理等業務委託契約」では、下記の項目を契約内容に盛り込むものとされています。これらは実務上においても必須の内容と言えるでしょう。

〈設計契約書に記載する内容の例〉

  • 対象となる建築物の概要
  • 業務の実施期間
  • 設計受託契約は、作成する設計図書等の成果物
  • 工事監理受託契約は、①工事と設計図書との照合の方法②工事監理の実施の状況に関する報告の方法
  • 設計又は工事監理に従事する建築士の氏名と保有資格
  • 設計又は工事監理の一部の委託先(協力建築士事務所)
  • 報酬の額及び支払の時期
  • 契約の解除に関する事項
  • 建築士事務所の名称、所在地、区分、開設者氏名

重要事項説明

建築士法の規定では、設計契約の締結前に建築主に対して契約内容の重要事項について書面を交付して説明する「重要事項説明」が義務づけられています。

建築主へ重要事項説明を行い、内容の承諾を得たら「重要事項説明書」への記名(押印)を依頼し、書面を互いに一通ずつ保管します。

設計契約を結ぶ流れ

設計契約の締結には、以下の4つのタイミングと契約の種類が考えられます。

4つの業務を包括して契約する場合も少なくありませんが、業務の範囲を明確に区切り、確実に報酬を得るためにも、それぞれの名目で設計契約をすることをおすすめします。

建築プロジェクトの段階設計契約の種類
建築の相談・プロポーザル・コンペティション 
企画設計調査・企画業務委託契約
基本設計基本設計業務委託契約
実施設計実施設計業務委託契約
工事請負契約工事監理業務委託契約
工事着工 
工事完了 

トラブルを避けるため設計契約に盛り込むべき内容

先述の「四会連合協定 建築設計・監理等業務委託契約」に定められている内容以外にも、建築主とのトラブルを避けるために設計契約に盛り込むべき内容について説明します。

設計監理業務の範囲

建築設計の業務はカバーできる範囲が広く、建築主のためにケアしようとすれば際限がないという側面があります。そこで、前述の契約の流れに従って、何の業務をどの範囲まで、いつまでに実行するかを建築主と取り決めておくことが重要です。

包括的な契約をすると建築主からの要望が際限が無くなってしまうため、設計契約を前述の4つに細分化して、報酬の支払いのタイミングをそれぞれの業務の区切りにすることも有効でしょう。

瑕疵担保責任

設計契約に基づいて実施する設計と工事監理には、設計者に民法に規定される「善管注意義務」が発生します。

もし明らかに間違った設計や管理をして発注者に損害を与えた場合には、善管注意義務違反として責任を追及され、損害賠償を請求される恐れがあるため要注意です。

また、「建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵」がある場合に、建物の設計・施工者等に「不法行為」による損害賠償責任を認めた判例もあります。

品質を確保したうえで設計や監理の業務を確実に遂行することはもちろんですが、自らと企業を守るために「故意または重大な過失が客観的に認められる場合を除き、設計者は建物に対して瑕疵担保責任を負わない」という文面を盛り込むリスクヘッジも必要でしょう。

中途解約時の対応

万が一、やむを得ない事情で業務途中で設計契約を解約することとなった場合、途中まで作成した設計図書が他社の設計に転用されてしまう可能性があります。

リスクを避けるためには、「設計業務の成果物である調査書、企画図、設計図書の著作権は、報酬の支払いをもって設計者から建築主へ移転するものとする」という一文を付け加えておくとよいでしょう。

適切な内容を盛り込んだ設計契約を交わして安心して設計業務にあたりましょう!

ここまで、設計契約の内容と契約を締結する際の注意点について解説してきました。

設計業務には際限が無く、考えなしに進めてしまうと時間がいくらあっても足りないものです。

設計者の労務環境を守り品質のよい仕事をするためには、ここに挙げたように設計契約を細分化するなどして、発注者との間で「やる事とやらない事」を明確に取り決めることが大切です。

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