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働き方改革で訪れる「建設業の2024年問題」とは?事業者が注意すべきポイントを解説

公開日:2023.06.19 更新日:2023.06.22
働き方改革で訪れる「建設業の2024年問題」とは?事業者が注意すべきポイントを解説

業界を問わず進められている「働き方改革」。若い世代から敬遠されがちだった建設業界でも、働き方改革が進んでいます。この記事では、2018年(平成30年)に策定された国土交通省の「働き方改革加速化プログラム」をはじめ、建設業の働き方改革の内容をご紹介します。

建設業の働き方改革について

近年、日本では業界を問わず「働き方改革」が進められています。これまで「 3K(きつい、危険、汚い)」などと呼ばれ、特に若い世代から敬遠されがちだった建設業界も例外ではありません。

まずは2018年(平成30年)に策定された国土交通省の「働き方改革加速化プログラム」から、建設業における働き方改革の内容を確認してみましょう。

参考:建設業働き方改革加速化プログラム

「働き方改革加速化プログラム」の制度趣旨

「建設業働き方改革加速化プログラム」とは、建設業における働き方改革を一段と強化するために策定された施策パッケージです。

建設業の持続可能性を確保し、災害対応やインフラ整備・メンテナンス等の役割を果たし続けるために、長時間労働の是正、給与・社会保険の改善、生産性の向上の3つの分野で新たな施策が示されています。

『長時間労働の是正』について

長時間労働の是正に向けた具体的な施策は、「週休2日制導入の後押し」と「適正な工期設定の推進」の二つに分けられます。

【週休2日制導入の後押し】

建設業界において週に2日の休日を確保しやすくするため、以下の取り組みを行います。

  • 公共工事における週休2日の工事を大幅に増やす
  • 週休2日を実施するために必要な費用を正確に算出できるよう「労務費等の補正の導入」や「共通仮設費、現場管理費の補正率の見直し」を行う

【適正な工期設定の推進】

長時間労働の防止に向けて「適正な工期設定のためのガイドライン」を改訂します。これにより、現場の実情に応じた適切な工期設定が促進されるとともに、従業員の長時間労働を減らし、労働環境の改善を図ることが期待されます。

『給与・社会保険』について

労働者の待遇向上に向けた施策は、「技能や経験にふさわしい給与」と「社会保険への加入徹底」の二つです。

【技能や経験にふさわしい給与】

建設業界において技能や経験に応じた適切な待遇(給与)を実現するため、以下の取り組みを行います。

  • 建設業界横断で資格や就業履歴などを登録・蓄積する「建設キャリアアップシステム」に、すべての建設技能者を参加させる
  • 建設技能者の能力評価制度を策定し、技能や経験に応じた処遇や給与を実現するための基準を確立する
  • 能力評価制度の結果に基づいて、高い技能や経験を持つ建設技能者の評価や、それらの技能者を雇用する専門工事企業の施工能力などを可視化する

【社会保険への加入徹底】

社会保険への加入を建設業界の「ミニマム・スタンダード(最低基準)」にするため、未加入の企業に対しては許可や更新を認めない仕組みを構築する。

『生産性向上』について

生産性向上に向けた施策の内容は、「生産性向上に取り組む企業の後押し」「業務の効率化」「人材・資機材の効率的な活用」の三つです。

【生産性向上に取り組む企業の後押し】

建設業界において、生産性の向上に向けて取り組む建設企業を支援します。具体的には公共工事の積算基準などを改善し、中小規模の建設企業が積極的に情報通信技術(ICT)を活用できるようにします。

【業務の効率化】

建設業界の業務を効率化するため、以下の点に取り組みます。

  • 公共工事に関連する基準や規定を改定し、工事書類の作成にかかる負担を軽減する
  • IoTや新技術の導入などにより、施工品質の向上と労力の削減を実現する

【人材・資機材の効率的な活用】

限られた人材と資機材を効率的に活用するため、技術者配置要件の合理化を検討する

働き方改革が建設業に与える影響

国は2019年から、各業界で「働き方改革関連法」を順次施行してきました。しかし建設業では少子高齢化による深刻な人手不足などが他の業界以上に厳しいことから、完全施行まで5年間の猶予が与えられてきました(その間の段階的な取り組みが、上で説明した「働き方改革加速化プログラム」です)。

しかし猶予期間は2023年で終了します。2024年からは各企業とも、「労働時間の削減」や「給与の引き上げ」などで具体的な対策を取らなくてはなりません。これがいわゆる「建設業の2024年問題」です。

働き方改革に向けた建設業界の取り組み

建設業界では、すでに大手ゼネコンなどを中心に企業ごと、あるいは工事ごとに働き方改革に向けた具体的な取り組みが始まっています。もちろん中小企業や零細事業者だからといって「働き方改革関連法」の適用が免除されるわけではありません。

ここでは働き方改革に向けた「主な取り組み」と、そのポイントについて説明します。

適正な工期の設定

長時間労働を防止し、週休2日を確保するうえで「適切な工期の設定」は非常に重要です。もちろん工期の長さは工事によって変わるため、工事の特性を踏まえた工期の設定が求められます。

適切な工期の設定を業界標準とするには、元請(発注者)・下請(受注者)双方の努力が欠かせません。

まず元請側は、工事の施工条件を明確にしたうえで、労働者の休日や機材の調達・準備にかかる期間、現場の後片付け期間、天候による工期の遅れなどを考慮したうえで適正な工期を算出する必要があります。場合によっては建設コンサルタントなどの外部機関を活用することも有効でしょう。

そして下請側は、不当に短い工期での発注を受ける、いわゆる工期のダンピングを行わないことが必要です。

なお、工事が始まった後に「工期が足りなくなる」などの問題が発生した場合は、発注者と受注者で協議を行ったうえで工期を適切に変更しましょう。

適正な労働時間管理

長時間労働の防止にとって欠かせないのが、労働時間の管理、特に「労働時間の客観的な把握」です。

もちろん、労働時間を把握する方法にはさまざまなものがあります。たとえば従来の「タイムカード」を使う方法や「ICカード」によってシステムに記録する方法、「パソコンのログイン・ログオフ」によるものなどです。

ちなみに厚生労働省の「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準」では、「始業・終業時刻の確認及び記録の原則的な方法」として以下のパターンが挙げられていました。

(ア)使用者が、自ら現認することにより確認し、記録すること。

(イ)タイムカード、ICカード等の客観的な記録を基礎として確認し、 記録すること。

労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準

これらはいずれも「客観的」な方法です。これに対し「自己申告」は、あいまいな労働時間になりがちなため、原則として認められません。

やむを得ず自己申告を採用する場合には、あらかじめ労働者に十分な説明を行う、必要に応じて実態調査を実施する、労働時間の適正な申告を阻害する目的で時間外労働時間数の上限を設定しない、などの措置が必要です。

労働時間の記録は「5年間」の保管が義務づけられており、適切な管理がされていない事業者には罰則が適用されます。

ICT活用等による生産性向上

建設業の生産性向上につながるのが、ICT(情報通信技術)などのデジタル技術の活用です。国土交通省でも「i-Construction(アイ・コンストラクション)」と名付けた取り組みを通して、建設業界へのデジタル技術導入を推進しています。

具体的には「ドローンによる3次元測量」、「3次元データによる建設機械の自動制御(ICT建設機械)」などが挙げられます。

またウェアラブルカメラやタブレットの活用、電子申請などによるペーパーレス化なども業務の効率化、ひいては生産性向上につながる取り組みです。

なお国土交通省では「ICT建機のみで施工する場合の単価」を設定することで、ICT活用の普及を図っています。

適正な請負契約・下請契約

元請と下請の関係性を対等にして、適正な請負契約・下請契約を結ぶことも重要です。すでに説明した通り「不当に短い工期で発注しない・受注しない」ことはもちろん、日給労働者の待遇を含む「適切な賃金水準」の確保にも留意しなければなりません。

また工事が始まる前に工程表を作成し、工期中は工事の進捗状況を元請・下請双方で共有できるようにします。

働き方改革に向けた取り組みを今すぐ始めましょう

この記事で紹介した取り組みは、あくまで国のガイドラインに沿った「基本」です。建設業に携わるすべての企業は、これらの取り組みをベースに、それぞれの工夫を盛り込んだ働き方改革に取り組んでいきましょう。

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