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インフラの老朽化問題とは?現状の課題と解決策についても解説します

公開日:2023.06.19 更新日:2023.06.22
インフラの老朽化問題とは?現状の課題と解決策についても解説します

高度経済成長期に大量に整備されたインフラ構造物は築50年を超えるものが増え、経年劣化や、大規模災害に対する性能不足が問題となっているものが多く存在します。この記事ではインフラ老朽化問題の現状と、その解決に向けた取り組みについて解説します。

インフラの老朽化問題とは?

道路や橋など、私たちの生活を支える社会基盤であるインフラ(インフラストラクチャー)は、主に国や自治体が税金を投下して整備する建築・土木構造物です。

現在利用されているインフラの多くは高度経済成長期に造られており、築50年以上を経て老朽化しているものも少なくありません。こうしたインフラでは大規模な事故や障害のリスクが高まっており、重要な社会問題となっています。

インフラの種類

インフラの種類には次のようなものがあります。

  • 道路、トンネル、橋梁
  • 公園、緑地
  • 治水施設(ダムなど)
  • 上下水道
  • 空港、港湾
  • 官公庁施設、官舎、公営住宅

これらに加えて、鉄道・送電線・通信網など、もともとは国営で整備されていたものの、その後に民営化したインフラもあります。

インフラの老朽化問題

インフラの老朽化問題とは、主に高度経済成長期に大量につくられた構造物の劣化のことを指します。鉄骨造(S造)では鋼材のサビによる腐食、鉄筋コンクリート造(RC造)の場合はクラックや中性化などが主な劣化要因です。

そのような劣化事象に対して有効な修繕措置を実施せずに放置すると、地震や洪水などの大規模災害に対する強度が不足するだけでなく、極端な場合は自然崩壊して重大な事故を引き起こしてしまう可能性もあります。

インフラ老朽化の現状

日本国内に存在するインフラの老朽化状況について、具体的なデータを基に解説します。

高度成長期以降に整備されたインフラの老朽化

先に述べたように、日本では1950~70年代の高度経済成長期に急激に発展した国内経済を背景に、人口増に対応するための生活基盤整備と、都市と地方を結ぶ交通網やライフラインの建設に大きな投資を行ってきました。

その結果、S造やRC造の性能が維持できる限界とされる「建設後50年」以上を経過する施設の割合が、今後20年で加速度的に高くなることが問題となっています。

建設後50年以上経過する社会資本の割合

インフラの種類2020年3月2030年3月2040年3月
道路橋[約73万橋(橋長2m以上の橋)]約30%約55%約75%
トンネル[約1万1千本]約22%約36%約53%
河川管理施設(水門等)[約4万6千施設]約10%約23%約38%
下水道管きょ[総延長:約48万km]約5%約16%約35%
港湾施設[約6万1千施設(水域施設、外郭施設、係留施設、臨港交通施設等)]約21%約43%約66%
参照:国土交通省HP 社会資本の老朽化の現状と将来

インフラ老朽化による重大事故の例

インフラの老朽化が招いた重大事故の例として、2012年12月に発生した「中央自動車道笹子トンネル天井板崩落事故」があります。

この事故では中央自動車道の笹子トンネル(上り線)内で、トンネルの換気ダクト用に設置されている天井板が約138mにわたって鋼材ごと崩落しました。9名もの人命が失われ、多くの負傷者を出した重大事故は、いまだ記憶に新しいという方も多いことでしょう。

事故調査委員会の報告書によると、事故の原因は、天井板を吊っている天頂部の接着系ボルトの強度不足および維持管理の確認不足が原因と考えられています。

参照:NEXCO中日本HP 笹子トンネル天井板崩落事故について

インフラ老朽化問題の解決策

インフラの老朽化問題を解決するための方策について、いくつかの視点から考察してみました。

予防保全への注力

インフラの老朽化問題に対する方策の大前提は「予防保全」の考え方です。

明らかな劣化事象が見られるか、あるいは何らかの事故が発生してから補修等を実施する「事後保全」の考え方では、構造体への対処療法にしかなりません。国民の安全な生活が脅かされるだけでなく、結果的に造り直しをせざるを得ないケースもあります。

事後保全の考え方のままでは、笹子トンネル事故のように尊い人命が奪われるだけでなく、造り直しの期間は既存のインフラが使用できなくなるなどの経済損失もあります。結果としてトータルコストは高く付くことでしょう。

今後は劣化事象を早期に発見して、進行を防ぐという考え方の予防保全へと転換し、既存インフラの調査および維持管理・劣化監視に掛ける予算にウエイトを置く必要があります。

維持管理のICT化

インフラの維持管理・劣化監視には多くのコストが掛かる上に、専門技術者の不足も問題となっています。

調査の迅速化と省力化への対応として、近年注目されているのがICT技術の活用です。以下に、その一例を挙げます。

①ドローンを活用した調査

トンネルの天井や橋梁などの点検調査をするにあたっては、高所作業車を使用して交通規制を掛ける必要があったり、仮設足場を設置するために多額の費用が発生したりすることが難点です。

無人のドローンを飛ばし近接撮影して人間の目視点検の代用とすると、迅速に広範囲を安全に点検できるメリットがあります。人間が点検するよりも判断にバラつきがなく、客観的に確認できる点も優れています。

②AIを活用した画像診断、劣化予測シミュレーション

ドローンなどを活用して撮影した画像データをストックし、過去の膨大な劣化事象と照らし合わせて修繕工事の必要性を判断する技術が取り入れられています。

これまで人海戦術と経験則で実施していたインフラの維持管理を、画像解析AIを活用して効率的に進められるようになると、対象となるインフラの今後の増加と専門技術者の不足を同時に解決できる可能性があります。

③5G通信網の整備による高解像度画像の高速通信、リアルタイム監視

老朽化したインフラに監視カメラを設置して、リアルタイムに劣化事象および危険性を監視する取り組みが進められています。

高速データ通信網である5G通信エリアの拡大により、管制センターで高解像度の画像を常時確認できるようになることが期待されています。

維持管理コストの選択と集中

インフラの老朽化対策が急務となっていますが、自治体によっては財政上の問題により修繕工事の予算がなかなか組めないところもあります。

少子高齢化にともなって、既存のインフラの利用状況を鑑みて統廃合する動きも必然的に出てくるでしょう。

自治体の中でも市街部に人口を集中させて集中的にインフラを整備したり、複数の自治体で共同でインフラ整備と維持管理を実施するなどのスリム化の動きも今後進めて行く必要があります。

民間への維持管理の委託

インフラなどの公共施設の整備・運営等を民間事業者に委託する手法である「PFI事業」を積極的に活用するのもひとつの方法です。

PFI事業は民間の資金調達力や経営ノウハウを活用するもので、インフラの整備や維持管理を民間が効率的かつ効果的に行い、品質を保ちつつ維持・管理コストを抑えることが期待されています。

インフラの老朽化対策には予防・監視技術の革新での対応が必要

ここまでインフラの老朽化問題について、その現状と問題点、今後の対応策について解説してきました。

維持管理に費用が掛かる老朽化インフラが今後急増することは明らかです。専門技術者の不足も社会問題となりつつあるなか、ICT技術の積極的な導入で対応して行くことは今後ますます急務となって行くことでしょう。

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