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サスティナブル建築がこれからの標準?その実現方法とメリット、実例も紹介します

公開日:2023.06.19 更新日:2023.06.22
サスティナブル建築がこれからの標準?その実現方法とメリット、実例も紹介します

地球環境の維持を目的としたSDGsの広まりとともに、建築の世界にも「サスティナブル」の考え方を導入した設計手法や設備の導入が促進されています。サスティナブル建築の特徴や設計時に検討するポイント、建築の実例などについて解説します。

サスティナブル建築とは

サスティナブル建築とは、設計・施工・運用の各段階を通じて環境負荷を低減して地域に調和する建築物のことです。

この記事では、サスティナブル建築の定義と特徴、求められる理由について解説します。

サスティナブルの定義

「サスティナブル(sustainable)」を日本語で訳すると「持続可能な」となります。

2015年の国連サミットで採択された「SDGs」をきっかけに「サスティナブル」の概念が急速に広まっており、環境への負担が少なく、将来世代にわたって継続できる生産方法や社会の仕組みのことを指して広く用いられるようになっています。

サスティナブル建築の特徴

サスティナブルの概念を建築分野に適用した「サスティナブル建築」は、以下の理念を掲げているのが特徴です。

  1. 建築のライフサイクルを通じての省エネルギー・省資源・リサイクル・有害物質排出抑制を図ること
  2. 地域の気候、伝統、文化および周辺環境と調和させること
  3. 生活の質を維持あるいは向上させていくこと

サスティナブル建築が求められる理由

サスティナブル建築が注目されるようになった理由は、気候変動の問題によるものです。

地球温暖化の抑制を目指して、日本政府はCO2に代表される温室効果ガス(GHG)を2030年までに2013年と比較して46%削減、2050年に実質ゼロとする目標を掲げています。

住宅および業務ビル用の資機材の製造および建設、その後の改修・運用までの建築関連CO2排出量は、国の全CO2排出量の約3分の1を占めると推計されています。

そのおよそ半分が業務ビルに関連して発生しており、特に運用段階のエネルギー消費による排出量の比率が高いことが特徴です。特に建築分野でのCO2排出量は、産業/運輸部門に比べて過去20年の増加が著しいため、省エネ対策の強化が求められています。

参照:国土技術政策総合研究所HP 建築物のライフサイクルを通じたCO2及び廃棄物排出の低減に向けた取り組み

参照:環境省HP 住宅・建築物の低炭素化に関する状況と対策について

サスティナブル建築の環境設計配慮項目

サスティナブル建築は、以下の手法を通して環境価値を最大化して環境負荷を最小化することを目標としています。

地球の視点

地球の有限性と許容限界に配慮し、「地球にとって持続可能な開発」を目指す

①省CO2、節電化石エネルギー消費が最小となるような設計及び運用、省CO2と節電・ピークカットの両立
②再生可能エネルギー再生可能エネルギー活用を推進する設計及び運用( 固定買取制度活用を含む)
③建物長寿命化長持ちし長く使い続けられる建物の設計及び運用
④エコマテリアル二酸化炭素排出や環境負荷の少ないリサイクル材等の利用を推進
⑤ライフサイクル設計・施工・運用・改修・廃棄プロセスを通じ、一貫したライフサイクル・マネジメントを可能にする
⑥グローバル基準グローバルな性能評価基準への適宜対応(LEED、Energy Star 他)

地域の視点

近隣地域の環境やネットワークに配慮し、「地域にとって持続可能な開発」を目指す

①都市のヒートアイランド抑制外構・屋上・壁面の緑化、保水床、散水・打ち水他
②生物多様性への配慮既存の動植物に対する生態系ネットワークへの配慮
③自然・歴史・文化への配慮景観配慮、歴史・文化配慮、地域コミュニティ配慮
④地域や近隣への環境影響配慮土壌汚染、大気汚染、水質汚染、交通量配慮、日影、騒音、振動、臭気、廃棄物等の配慮
⑤エネルギーネットワーク化CEMS,スマートグリッド等の地域に最適なエネルギーネットワー化への配慮
⑥地域防災・地域BCP自然災害の防災及びライフライン確保等、事業継続性計画(BCP)への配慮

生活の視点

「我慢の省エネ」から「快適かつ省エネ」な生活環境を目指す

①安全性平常時安全性(防犯、事故防止、弱者安全、他)、非常時安全性(地震安全・BCP、火災安全、他)
②健康性CO2濃度、化学汚染物質、感染症対策、清浄度、臭い、他
③快適性温熱環境、光環境、音環境、他(輻射空調等)
④利便性ELV待ち時間、モジュール、動線、オフィススタンダード、IT環境他
⑤空間性眺望、広さ、色彩、触感、コミュニティ、緑化、アメニティ他
⑥更新性可変性、拡張性、冗長性、回遊性、収納性他

参照:一般社団法人日本建設業連合会 サステナブル建築

サスティナブル建築を実現するためには

サスティナブル建築を実現するための設計手法と、各種のキーワードについて解説します。

サスティナブル建築を実現するための設計指針

サスティナブル建築の設計にあたっては、施工・運用・更新・改修・解体の各段階にわたって、建物のライフサイクルマネジメントの視点で下記の一貫した方針で臨む必要があります。

  1. 省エネルギー性能について可能な限り数値化して、顧客の環境投資に対する効果を可視化する
  2. 建物の利用者にとって快適で豊かな空間性能に最適な基準を可能な限り数値化する
  3. 地域の歴史性、文化性、景観性等の広義の社会性に対し、設計者としての設計責任を明確化する
  4. 建物の建築から解体まで一貫してサスティナブル性に配慮し、生産段階の工夫を取り込んだ環境に配慮した設計をする

参照:一般社団法人日本建設業連合会 サステナブル建築

CASBEE

CASBEE(キャスビー:建築環境総合性能評価システム)とは、建築物を環境性能で評価し格付けする手法のひとつです。

省エネルギー性能や環境負荷の少ない資機材の使用といった建築物の環境配慮に加えて、室内の快適性や景観への配慮なども含めた総合的な建物の環境品質をS・A・B+・B-・Cの5段階のランク分けて評価するものです。

参照:一般財団法人住宅・建築 SDGs 推進センターHP CASBEEの概要

BELS

BELS(ベルス:建築物省エネルギー性能表示制度)とは、断熱性能や設備エネルギー消費量等の建築物の省エネ性能を第三者機関が客観的に認証する制度です。

建築物で使用される一次エネルギー消費量をもとに、省エネ性能ランクを5段階の星マークで表示します。(5つ星が最高ランクです)

参照:環境省HP 「BELS(建築物省エネルギー性能表示制度)」ってなに!?

ZEB/ZEH

ZEB(ゼブ)とはNet Zero Energy Building(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)の略称で、快適な室内環境を実現しながら建物で消費する年間の一次エネルギーの収支をゼロにすることを目指した建物のことです。

建物の断熱性能を高めた上で、高い省エネルギー設備を持つ空調や換気設備を導入し、自家消費型の太陽光発電等を導入してトータルでエネルギー消費量をゼロに近付けます。

ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)は住宅における同様の認証制度で、ZEB/ZEHに認証されると、環境省の補助金や各種の税制優遇等のメリットを受けられます。

参照:環境省HP ZEBとは?

省エネ基準への適合

建築物の省エネルギー性能を表す基準として、BPIとBEIがあります。

一般的なモデル建物の基準値を1.0(省エネ基準)として、この数値が低いほど省エネルギー性能が高いことを示します。

建物の省エネルギー性能を向上させるために2017年より省エネ適判制度が導入されており、住宅以外の用途で一定規模以上の建物はBPIおよびBEIが1.0を下回ることが義務付けられています。

2025年からは建物の用途および面積による基準が撤廃され、住宅を含むすべての建築物を省エネ基準に適合させる義務が生じるため、その対応が急務となっています。

内部リンク:建築工事の設備設計とは?最新の省エネ基準についても解説

サスティナブル建築のメリットとデメリット

サスティナブル建築への対応が今後ますます求められるようになっています。そのメリットとデメリットは以下の通りです。

サスティナブル建築のメリット

サスティナブル建築は省エネルギー性能が高いため、事業活動に伴って消費するエネルギーを削減することができます。企業が排出するCO2排出量を削減するだけでなく、エネルギー調達費用のコストダウンにもつながります。

また、SDGsとの親和性が高いため企業イメージが向上します。上場企業は機関投資家のESG投資を呼び込むきっかけとなり、一般消費者に対しては「エシカル消費」の対象として選ばれる可能性が高くなるメリットもあるでしょう。

H3:サスティナブル建築のデメリット

サスティナブル建築を実現するためには、建物の高性能化と省エネルギー設備の導入など、投資コストが一般の建物より割高になってしまいます。

また、補助金を利用する場合などには設計や審査に掛かる時間が長くなり、プロジェクト工期が長期化する傾向があることもデメリットと言えます。

サスティナブル建築の実例

サスティナブル建築の実例について、2021年の最新事例を紹介します。

安田町役場

高知県安芸郡安田町の役場を建替える計画にあたっては、建材として県産木材を積極的に活用して地産地消に努めています。

自然の採光や通風を導入して、照明や空調設備の使用量を抑える設計上の工夫とあわせて、災害後でも72時間分の給排水と電気を供給できるBCP対応を実現しています。

参照:一般社団法人日本建設業連合会 サステナブル建築事例集

ザ・パークハウス三田タワー

東京都港区の再開発事業である「ザ・パークハウス三田タワー」は、国内初のマンション建替法容積率許可制度を適用した事業です。

全熱交換式の24時間換気システムの導入や高効率給湯器・太陽光発電などによる省エネ設計を採用しており、CASBEE評価でAランクを取得しています。

建物構造には制振構造を採用しており、市街密集地での大規模災害に対する備えも万全です。

参照:一般社団法人日本建設業連合会 サステナブル建築事例集

関連記事:耐震構造・制振構造・免震構造の違いを徹底比較!耐震等級についても解説します

イオンモール川口

2021年に建て替えられた「イオンモール川口」では、トイレの洗浄水と外構散水に工業用水を使用して資源の有効活用に努めています。

建物内に出来る限り自然採光を導入して省エネに努めたうえで、外構の駐車場やフェンスを緑化するなどの環境調和を図るなど、サスティナブルな設計を取り入れています。

また、実質的にCO2排出量がゼロとなる電力・都市ガスメニューを採択して、建物の運用で発生する温室効果ガスの削減にも配慮しています。

参照:一般社団法人日本建設業連合会 サステナブル建築事例集

サスティナブル建築で環境配慮とライフサイクルコストの削減を両立させましょう

SDGsの浸透により「サスティナブル」というキーワードが今後の社会のありかたを大きく変えようとしています。

特に多くのエネルギーを消費する建築の分野では、その流れに対応することが強く求められています。

ここで解説した「サスティナブル建築」の導入によって、建物のライフサイクルを通じて環境に配慮することが今後は必須となって行くでしょう。

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