2020年の後半から建築資材価格の高騰が続いていますが、一部の建築資材では下落に転じているものもあり、価格の推移を慎重に注視する局面になっています。最新の価格動向を知る方法や、今後の推移を予測して資材を購入するタイミングをつかむコツについて解説します。
高騰する建築資材価格の推移
2020年に世界的に感染が拡大した新型コロナウィルスは、建築業界にもさまざまな影響を及ぼしました。
流通資材のサプライチェーンが分断されたうえに輸入コンテナ価格が上昇するなどの原因で建築資材の価格が高騰し、結果として建築工事費用が大幅にコストアップしているという問題が現在まで継続しています。
企業物価指数のデータ
資材価格の変動を知るには、日本銀行が毎月公表している「企業物価指数」が参考になります。
企業物価指数は企業間で取引される資材やエネルギーなどの価格変動を測定するもので、企業間での商取引における値決めの参考指標としても用いられている指標です。
2023年3月の指数は、2020年度の価格を基準(100)とすると次の通りです。
【国内企業物価指数】 119.8
【輸出物価指数】 126.8
【輸入物価指数】 158.1(円ベースの場合) ※契約通貨ベースでは133.9
特に輸入品の物価が高騰していることが分かり、これには2022年3月から続く大幅な円安が大きく影響していると考えられます。
建設資材物価指数のデータ
一般社団法人建設物価調査会が毎月公表している「建設資材物価指数」では、建設工事で使用される資材の総合的な価格動向を調査し公表しています。
それによると、2023年4月の東京では、2015年の価格を基準(100)とすると次の通りです。
【建設総合】 131.5 前月比0.1%下落(前年同月比+8.7%)
【建築部門】 132.7 前月比0.3%下落(前年同月比+6.7%)
【建築補修】 126.7 前月比0.1%下落(前年同月比+9.1%)
【土木部門】 131.3 前月比0.3%上昇(前年同月比+12.1%)
資材コストは依然として高水準を維持していますが、土木部門以外は下落に転じています。
全国の主要都市ごとに建設資材の物価指数を比較したものが次のグラフになります。
資材価格は西高東低の傾向が見られ、特に四国での高騰が顕著であることが分かります。
建築資材高騰の要因については、こちらの記事で詳しく分析しています。
内部リンク:建築資材の高騰はどこまで続く?建設業者が資材費用を抑える方法について解説!
【主要資材別】最新の価格推移
一般社団法人建設物価調査会では主要な建設資材ごとに価格動向を公表しています。
2017年からの価格推移を表したものが次のグラフです。
「建設資材」とひとくくりにされることが多くありますが、資材の種類によって変動幅は大きく違うことがお分かりいただけるでしょう。
それぞれの資材について、最近の価格動向を解説します。
鉄スクラップ
鉄スクラップは輸出される割合が多いため、海外需要と為替の影響を受けて価格が乱高下しやすい傾向があります。2020年の終わり頃から急激な高騰を見せていましたが、2022年に入って下落傾向が顕著です。
それでも基準年度と比較して最も価格が高騰した建築資材であることに変わりありません。
H型鋼・異形棒鋼
ほぼ全ての建築で使用される鋼材も価格の上昇率が高い分野です。特に鉄筋コンクリート造の建物や基礎工事で使用される異形棒鋼は、鉄スクラップに次いで価格が高騰しています。
コロナ禍が落ち着きを取り戻すとともに、半導体製造工場等などの設備投資や都心の再開発需要を受けて高値で堅調に推移しています。
普通セメント・レディーミクストコンクリート
一部で下落が始まっている建築系の資材と比較して、土木系資材は上昇傾向が続いています。
土木で使用される割合の多いセメントは価格競争の激しい分野で値上げは比較的抑えられていましたが、セメントメーカーが一斉に値上げした影響もあり、今後の価格は上昇傾向が続くでしょう。
原料のセメントの価格上昇に合わせて、今後はレディーミクストコンクリート(生コン)も上昇すると予想されています。
再生アスファルト混合物
再生アスファルト混合物は道路舗装に使用される土木資材です。
インフラ需要は安定しており価格変動が少ない資材ですが、緩やかな上昇傾向が続いています。
管柱(杉KD)
木造住宅に使用される管柱に代表される構造用木材は、2020年後半からの「ウッドショック」により輸入量が減少し高騰しました。
しかしコロナ禍が収束するとともに輸入が正常化され、2022年の後半からは急速に価格が下落しています。
少子高齢化の影響もあり国内の木造住宅需要は低迷したままのため、当面下落は継続すると予想されています。
コンクリート型枠用合板
鉄筋コンクリートに使用されるコンクリート型枠用合板も、ウッドショックにより価格が高騰しています。
現在はまだ高止まりしていますが、木材価格の下落と歩調を合わせて価格の高騰は今後収束していくでしょう。
建築資材価格の今後の推移は?
資材価格全体としては下落傾向にはありますが、コロナ禍前の水準に戻ることは考えにくく、今後も高止まり傾向は続くと考えられています。
国際的には、ロシア-ウクライナ戦争の長期化によるエネルギー価格の上昇や国際的なサプライチェーンの分断リスクが続いており、今後も輸出入に関わる分野を中心に資材の高騰傾向が続くことが懸念されます。
国内においては、「働き方改革」関連法の適用による残業規制等の影響も考慮しなければなりません。
一時的に生産量の減少や、生産に掛かる人件費・物流コストも上昇するなど、生産コストの上昇は建築資材の価格に大きな影響を与えるでしょう。
建築資材価格の上昇/下落トレンドを見極めるには?
建築工事に伴う資材の発注のタイミングは非常に重要です。
資材価格の上昇/下落のタイミングをつかめば、先行発注あるいは発注の先送りによって損失を回避できる可能性もあるでしょう。
この記事でご紹介した「企業物価指数」や「建設資材物価指数」の最新情報は、先の見通しを予測するのに大きく役立ちます。
対象とする資材によって上昇/下落のトレンドと時期が違うため、それぞれの納期を確認しつつ適切な発注タイミングを見極めましょう。
建築資材購入のタイミングをつかむには最新の情報収集から!
ここまで建築資材の価格の推移と今後の動向を解説してきました。 常に最新の情報を把握することは、発注の適切なタイミングを逃さないだけでなく、理由のある値上げなのか便乗値上げなのかを判断するのにも大きく役立つでしょう。