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建築基準法における大規模修繕の定義とは?実施の注意点についても解説します

公開日:2023.07.21 更新日:2023.07.21
建築基準法における大規模修繕の定義とは?実施の注意点についても解説します

法律上の義務ではないものの、マンションを維持するうえで欠かせない「大規模修繕」。本記事では建築基準法をはじめとする法律やガイドラインと大規模修繕の関係や、大規模修繕をする際の注意点について解説します。

そもそも大規模修繕とは

「大規模修繕」は、マンションなどの大きな建築物で定期的に行われる大きな修繕工事のことです。

一般には建築後約10年目から15年目(平均で約12年)を目途に初めて行われ、その後は約10年から15年ごとに行われます。ただし実際のタイミングは、マンションの設計や建材、使用状況、地域の気候などによって変わります。

大規模修繕には以下のような作業が含まれます。

  • 外壁や屋根の修繕・塗装
  • 防水層の改修
  • 共用部分(エントランス、階段、廊下など)の補修
  • 配管や電気設備の改修・更新
  • エレベーターのメンテナンスや更新

このように内容が多岐にわたることから、大規模修繕にかかる費用は高額です。しかし建物の耐用年数を延ばし、住民の安全と利便性を確保するうえで大規模修繕は欠かせない作業といえるでしょう。

法律上の義務ではない

建築基準法によると、大規模修繕をするには確認申請が必要です(第6条)。しかし意外なことに「大規模修繕を実施しなければならない」という規定はありません。他のマンション関連の法律にもそのような規定はないため、大規模修繕は法律上の義務ではないということになります。

もちろん法律上の義務ではないからといって、大規模修繕が重要であることに変わりはありません。マンションの管理組合は大規模修繕の予定を立てて、適切に実施していく必要があります。

建築基準法における大規模修繕の定義

建築基準法では、大規模修繕について次のように定義しています。

(建築基準法第2条14号) 大規模の修繕 建築物の主要構造部の一種以上について行う過半の修繕をいう。

ちなみに「修繕」とは『経年劣化した建築物の部分を、既存のものと概ね同じ位置に概ね同じ材料、形状、寸法のものを用いて原状回復を図ること』です(国土交通省「参考 法律上の手続きと補助・融資等の制度」より)。

修繕の対象

修繕の対象となるのは「建築物の主要構造部」です。主要構造部の具体的な定義は建築基準法の別の条文で説明されています。

(建築基準法第2条5号) 主要構造部 壁、柱、床、はり、屋根又は階段をいい、建築物の構造上重要でない間仕切壁、間柱、付け柱、揚げ床、最下階の床、回り舞台の床、小ばり、ひさし、局部的な小階段、屋外階段その他これらに類する建築物の部分を除くものとする。

ここにあるとおり、主要構造部とは「壁、柱、床、はり、屋根、階段」のことです。これらのうちどれかひとつでも、半分以上の修繕を行う場合は大規模修繕になります。

修繕と模様替

なお大規模修繕とよく似ているのが「大規模の模様替え」です。建築基準法には次のように定義されています。

(建築基準法第2条15号) 大規模の模様替 建築物の主要構造部の一種以上について行う過半の模様替をいう。

ちなみに模様替えとは『建築物の構造・規模・機能の同一性を損なわない範囲で改造すること』(国土交通省「参考 法律上の手続きと補助・融資等の制度」より)で、たとえば木造の階段を金属の階段にするなど、既存の箇所を異なる素材で作りかえるケースがこれに当たります。

国土交通省のガイドライン

なお国土交通省では、大規模修繕計画の作成に関する「ガイドライン」を公開しています。

これはマンション管理組合が行う長期修繕計画の作成・変更についての標準的な様式や、長期修繕計画を作成するための基本的な考え方、長期修繕計画の作成方法を示したものです。

このガイドラインでは、大規模修繕について『建物の全体又は複数の部位について行う大規模な計画修繕工事(全面的な外壁塗装等を伴う工事)』と定義されています。

リンク:長期修繕計画標準様式 長期修繕計画作成ガイドライン 長期修繕計画作成ガイドラインコメント

大規模修繕には「確認申請」が必要

上でも軽く触れましたが、大規模修繕を実施することは法律上の義務ではありません。しかし建築基準法第6条によると、一定の種類や一定規模以上の建物で大規模修繕を行う場合は事前の確認申請が必要です。

①以下の特殊建築物で、床面積が合計100平方メートルを超えるもの

  • 劇場、映画館、演芸場、観覧場、公会堂、集会場
  • 病院、診療所(患者の収容施設があるもの)、ホテル、旅館、下宿、共同住宅、寄宿舎
  • 学校、体育館
  • 百貨店、マーケット、展示場、キャバレー、カフェー、ナイトクラブ、バー、ダンスホール、遊技場
  • 倉庫
  • 自動車車庫、自動車修理工場

②木造建築物で、3階建て以上、または延べ床面積が500平方メートルを超え、かつ高さが13メートル、または軒の位置が9メートル以上のもの

③木造以外の建築物で、2階建て以上、または延べ床面積が200平方メートルを超えるもの

ちなみに規模の大きなマンションの場合、上記①の特殊建築物に相当する場合があります。

大規模修繕に関係する「義務」

最後に、マンションの大規模修繕と関係のある各種義務について紹介します。

損傷・腐食などの点検

建築基準法第12条第1項には、上で紹介した一定の種類や一定規模以上の建物について「損傷、腐食その他の劣化の状況の点検と報告」が義務づけられています。たとえばマンション外壁タイルの打診調査もそのひとつです。

国土交通省が定めた基準によると、外壁タイルの打診調査と報告は、原則として10年に1度行わなくてはなりません。ただし3年以内に大規模修繕を行う場合、大規模修繕と同じタイミングでよいとされています。

管理組合への加入

大規模修繕はマンションの管理組合が中心となって行います。管理組合はマンションの建物と敷地内施設の管理を行う組織で、マンションを維持するうえで必要不可欠な存在です。

区分所有法第3条によると、「区分所有者は、全員で」管理組合を構成することとされています。つまり分譲マンションの一室を所有している以上、管理組合への加入は法律上の義務です。

国・自治体への協力

マンション管理適正化法の第5条によると、管理組合は「マンションを適正に管理する」ことに加え、「国及び地方公共団体が講ずるマンションの管理の適正化の推進に関する施策に協力する」ことが求められています。あくまで強制力のない「努力義務」ですが、管理組合としては十分に留意する必要があるでしょう。

またマンションの区分所有者も、管理組合の一員として国や自治体の施策に協力するよう、努力義務として求められています。

関係法令を理解してスムーズな大規模修繕を行いましょう

大規模修繕の実施は法律上の義務ではないものの、建築基準法や区分所有法、マンション管理適正化法、さらには国土交通省のガイドラインなど、さまざまな法律や規定と密接に関係しています。これらの法令をしっかり理解して、建物の適切な維持・管理を行っていきましょう。

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