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積算とはどんな業務?目的や積算の概要についてわかりやすく解説します。

公開日:2023.07.21 更新日:2025.05.27
積算とはどんな業務?目的や積算の概要についてわかりやすく解説します。
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この記事の監修

公益社団法人日本建築積算協会 特別顧問

加納 恒也

㈱フジタで東京支店積算部長、営業管理部長、工事担当副支店長、経営戦略室長を歴任。日建設計コンストラクション・マネジメント㈱の創立に参画、多くの官民建築プロジェクトに携わる。日本建築積算協会副会長兼専務理事、明治大学理工学部兼任講師も歴任。
【保有資格】一級建築士、一級建築施工管理技士、認定CM資格(CCMJ)、建築コスト管理士、建築積算士、コンクリート技士

私たちが電化製品や衣料品あるいは食品などの工業製品を購入する場合、実物とその価格を比べながらより良いものを選択することができます。

一方、発注者の様々な要望に応じて固有の敷地上につくりあげられる建物は一品受注生産となり、ひとつひとつの建物はそれぞれ異なった価格となります。また、私たちが建物を建設するにあたっては、着工に先立って工事請負契約を締結するため、その時点で工事費を確定させなければなりません。

したがって、設計図にもとづき建物を各構成要素に分解し、それぞれのコストを積み上げて工事費を算定する「積算」という作業により、当該建物の工事費を明らかにすることが必要となるのです。

積算とは?

「積算」とは、設計図書(設計図やその他の品質情報)にもとづいて、建物を完成させるための工事費を推計する「技術」あるいは「作業」のことを言います。

建物を構成する資機材や労務などの各要素について数量を算出し、定められた分類方法に則り項目・数量の分割や集約を行います。そしてこのように整理された各細目に単価を乗じて金額を算定し、それを順次集計して全体工事費を算定するのです。

なぜ積算が必要なのか

建築プロジェクトを計画するにあたっては資金を用意しなければなりません。発注者は、事業を成立させるため建設に要する費用を把握し、予算金額と整合させる必要があります。つまり、建築プロジェクトを成功させるためには経済的な裏付けが必須であり、進捗に合わせて適時工事費を把握するために「積算」が必要とされるのです。

設計段階においては、予算金額内で価値の高い建物を実現するために「コストマネジメント」活動を行うことが重要です。設計者は、設計の各フェーズにおいて「積算」により工事費を算定し、予算金額と設計内容との整合を確認していくことが求められます。一般的に、設計の川上(完成途上)段階で行う積算を「概算」と呼んでいます。

公共工事の発注者は、入札に際して契約額の上限となる予定価格設定の根拠となる工事費積算を行う必要があります。これは実施(詳細)設計段階で行う積算で、一般的に「精算積算」と呼ばれています。

一方、工事を請け負う建設会社は、工事費見積書を作成して発注者に提出しなければなりません。費用明細(工事費内訳明細書)の提出が不要な公共工事の入札の場合であっても、入札価格決定のためには、社内原価(見積時事前原価)算定は企業経営上重要なプロセスです。また、工事施工にあたっては、実行予算の作成、工事工程の検討、必要な資機材・労務の調達などに積算数量や金額が必要となります。

このように、発注者、設計事務所、総合建設会社(ゼネコン)あるいは専門工事会社(サブコン)やメーカーなど建築産業に携わる非常に多くの分野において「積算」が行われています。

また、設計や施工あるいは運営管理・改修から解体にいたる建築のライフサイクルにおいても、「積算」が必要とされているのです。

積算の成果物

積算の役割は、建築プロジェクトの成功(価値の高い建物の完成)のために適正なコスト情報を提供することです。その成果物は工事費内訳明細書であり、以下のような種類があります。

  • 工事費見積書

建設会社が発注者に提出する工事費の内訳明細書です。

実施設計完了後の見積は「精算積算」、基本設計段階までの見積は「概算積算」と呼ばれています。

また、見積金額や入札金額を決定する過程で 社内「原価」を算定することが多く見られ ます。社内原価は、見積時事前原価、NET(ネット)、元積りなどと呼ばれています。

  • 工事費設計書

公共工事において、予定価格設定のために積算を行いますが、内訳明細書を一般的に「工事費設計書」と呼びます。

  • 工事費内訳書、工事費概算書

設計事務所が、設計の途中あるいは最終段階で発注者に提出する工事費の内訳明細書で  す。

工事費の構成要素

工事費の構成要素となる各項目は以下の通りです。

共通仮設費

共通仮設費は、複数の建物あるいは建築工事や設備工事などの各種目に共通して使用する仮設費用を言います。仮設は、建物などの工事目的物をつくるために必要な仮の施設で、工事目的物が完成した時点で撤去されてしまうものです。

共通仮設費の内容は、仮設建物(現場事務所や作業員詰所など)、仮囲い(敷地外周の遮蔽壁)、仮設道路、揚重機(クレーンやリフトなど)、仮設電気・給排水(工事用電気や上下水道施設や使用料)、安全設備や試験費など多岐にわたります。安全や施工効率に直結する施設ですので、過不足のない計画が必要となります。

仮設工事としては、共通仮設以外に「直接仮設」があります。こちらは各建物や各種目ごとに計上される施設等で、足場(作業床)や落下防止設備などが含まれます。仮の施設ではありますが、「直接工事」に属しています。

直接工事費

直接工事費は、主に建物を直接構成する資機材や労務費などを言います。

「建築工事」「電気設備工事」「給排水衛生設備工事」「空気調和設備工事」「昇降機設備工事」「外構工事」などが代表的な種目です。

現場管理費

現場管理費は、建設現場の運営に関わる人件費その他の経費を言います。

建設会社の現場運営に関わる費用で、従業員の給与手当、法定福利費、安全衛生等の労務管理費、工事関係の保険料、事務用品費、施工図作成費などです。

工事原価

共通仮設費、直接工事費、現場管理費の総額が「工事原価」となります。

一般管理費等

一般管理費等とは、本社や支店の管理運営に必要な経費で、営業費あるいは販管費にあたる「一般管理費」と「営業利益」を言います。会計上の「営業総利益」とほぼ等しく、建設業では一般的に「工事益」と呼んでいます。

工事価格

工事原価と一般管理費等の総額が「工事価格」で、公共工事の積算金額、建設会社の見積金額に該当します。

ちなみに、建設会社の見積書においては、現場管理費と一般管理費等を統合して「諸経費」として一本で計上する例が多く見られます。

積算についての基本知識

積算は、定められた基準に則り進められます。ここでは基本となる積算基準と知っておきたい用語について説明しましょう。

内訳書標準書式

工事費を算定するには、コスト構成を合理的に整理した分類体系が必要となります。1980年に官民合同で制定された「建築工事内訳書標準書式(工種別書式)」は、公共工事に多く使用されています。民間工事においては、建設会社など各社固有の書式を使用していますが、標準書式との共通点も多く見られます。

数量積算基準

1977年に官民合同で制定された「建築数量積算基準」は、標準書式の細目を対象に、数量の計測・計算方法などについて定めたものです。建設会社も含めてほぼ共通の数量積算基準として活用されています。

なお、1985年に「建築設備数量積算基準」が制定されました。

数量のいろいろ

積算基準で扱う「数量」には、以下の3つの種類があります。

  • 設計数量

設計図の寸法から計測・計算された数量です。コンクリートやボードなど大部分の細目数量が該当します。出来上がった建物の数量と等しいので、材料のロスなどは掛け合わせる単価に含めます。

  • 所要数量

施工時に発生するロス(切り無駄等)を加えた数量です。鉄筋や鉄骨あるいは木材の材料数量が該当します。当然、単価にはロスを含みません。

  • 計画数量

設計図に記載されていない項目に対して、積算者が計画して算出する数量です。足場面積や掘削土量などが該当します。

単価のいろいろ

数量に乗じて金額を算定する「単価」についても、以下の3種類があります。

  • 単価

コンクリート材料(生コン)、鉄筋材料、鉄骨材料など単独の単価要素を対象とします。

  • 複合単価

材料、材料ロス、副資材、労務(手間)、工具、運搬、経費といった複数の単価要素で構成される細目が対象です。内訳明細書における大部分の細目が該当します。

  • 合成単価

複数の複合単価を組み合わせたものです。床仕上げを構成する、コンクリート金ゴテ、OAフロア、タールカーペットの3つの複合単価を1つの合成単価とするような例です。

主に、概算積算で用いられる「部分別書式」において用いられます。

積算技術が活用できる職場とは

様々な職域で積算が行われていますが、特に積算専門職能として活躍したい方は、以下のような職場を視野に入れてください。

  • 設計事務所

大手の組織事務所に多くみられますが、コストに関する専門部署が設置されています。
「コスト設計部」「コスト管理部」などの名称が多く見られますが、発注者と直結して工事費の積算とコストマネジメントを行っています。数量積算は積算事務所に委託することが多く見られます。

  • 総合建設会社(ゼネコン)

多くのゼネコンには積算専門部署が設置されています。「積算部」「見積部」などの名称が多く見られます。社内原価の算定や発注者あての見積書作成、あるいはコストマネジメントなどを行っています。数量積算は積算事務所に委託することが多く見られます。

なお、人材採用にあたっては、積算部門独自の採用枠を持つゼネコンもあり、新卒採用でも積算部門を希望して入社する例も見られます。

  • 積算事務所

積算業務を専門に行う会社です。建設会社あるいは設計事務所から積算業務を受託しますが、発注者から直接業務受託する例もあります。

建設会社(ゼネコン)からの受託では、発注者へ提出する見積書用の数量積算業務が一般的です。

また、設計事務所から受託した場合は、公共工事の工事費設計書用の数量積算業務および参考価格の値入業務が一般的です。

積算事務所によって、ゼネコン主体(数量積算が主業務)、設計事務所主体(数量積算と 値入)、ゼネコンと設計事務所両立といった顧客による業務内容の傾向もありますので、企業を選ぶ場合には、自分に合った業務分野も考慮しましょう。

  • CM(コンストラクション・マネジメント)会社

CMとは、発注者を代行して建築プロジェクトをマネジメントする業務です。
CM会社には、独立系、大手組織設計事務所のグループ、大手組織設計事務所のCM部門などがあります。CM会社では主にコストマネジメントを行い、直接積算に携わるケースは少ないようです。一定レベルの実力がついたらチャレンジする職場でしょう。

その他、大規模修繕工事会社やその他の専門工事会社やメーカーなど多くの職域が積算技術者を必要としています。

積算について正しく理解して、建築プロジェクトを成功に導きましょう

積算は建築プロジェクトを成功に導くために欠かせない要素です。
プロジェクトの成功のため、積算についてしっかりと理解するようにしましょう。

なお、建築積算について詳しく知りたい方は、(公社)日本建築積算協会発行の「建築積算」(学校教育用テキスト)あるいは「新☆建築積算士ガイドブック」をご参照ください。

また、(公社)日本建築積算協会では様々な講習会なども開催していますので、本部・支部のホームページを確認してみてもよいでしょう。

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