建築積算士と建築コスト管理士はどのような違いがあるのでしょうか?本記事では、それぞれの資格概要や取得難易度、どんな人が取得するのにおすすめなのかについて徹底解説します。
建築積算士とは?
建築積算士とは、もともとは国土交通省の認定資格だった資格のことです。平成13年に行政改革が行われた影響で、国土交通省の認定資格から民間資格へと変更されました。
建築積算士の仕事内容
建築積算士の主な仕事は、工事において依頼する建築会社を比較検討する際や入札に使われる「提示価格の基礎・基盤」を算定することです。
入札によって発注先の業者が決められる工事においては、公共事業において発注される際に公示された工事概要をもとに、多くの企業が工事価格を競い合います。
公示価格を競い合う段階において、建築積算士が入札における算定価格の基礎を算定しなければ、事業は適切な価格を把握することができずに、工事を受注しても利益を得るどころか損失を出してしまう場合もあります。
また民間工事においても、発注業者は建設会社を比較検討するため、最適な工事価格や期間内での工事が可能かどうか積算することが大事です。
こういった場面で、建築積算士は企業が利益を得られるように、設計図や仕様書から使用されるデザインや材料に合わせて必要な材料を算出、工事期間なども考慮して適切な建築工事費用を都度算出しています。
建築積算士の試験概要
建築積算士の試験は「公益社団法人日本建築積算協会」が実施しており、試験は建築積算技術の知識と技能を評価するための問題が出題されます。実際に毎年行われている試験において、出題される科目は以下の通りです。
- 生産プロセス:建設産業の特徴と変遷及び現状、コストマネジメントの考え方、建築生産プロセスとマネジメント
- 工事発注スキーム:入札の種類、発注方式、契約方式、数量公開、発注単位(パッケージ)
- 設計図書構成:設計図書構成と種類、優先順位
- 工事費構成:直接工事費と共通費の構成、主要建物用途の種目別工事費構成比率
- 積算業務内容:積算業務の流れ、積算実務(仮設、土工、躯体、仕上、設備、屋外施設、改修)、概算手法の概要値入業務
- 数量積算基準:基準及び同解説の理解
- 標準内訳書式:基準及び同解説の理解
- 主要な市場価格:市場価格、コスト情報の入手方法
- データ分析と積算チェック:データ整理、歩掛、分析方法、積算チェック
- 施工技術概要:建築施工プロセス、標準的な施工法、特殊工法(省力化、工業化、工期短縮等)概要
- LCC・VE概要:LCC(ライフサイクルコスト)の概要、VE(バリューエンジニアリング)の概要
- 環境配慮概要:環境配慮とコスト概要
引用:2023年度「建築積算士」試験案内|公益社団法人日本建築積算協会
試験は一次試験と二次試験の二部制となっており、一次試験の合格者が二次試験を受験できる仕組みとなっています。
建築積算士の難易度
過去の建築積算士試験の合格率は以下の通りとなっています。
試験年度 | 合格率 | 受験者数 | 合格者数 |
2022年 | 約57% | 390人 | 223人 |
2021年 | 約67% | 361人 | 244人 |
2020年 | 約52% | 323人 | 171人 |
2019年 | 約56% | 313人 | 177人 |
2018年 | 約67% | 313人 | 212人 |
建築積算士試験は、毎年の合格率が約50%から60%程度となっています。他の建築関係の資格のうち、たとえば「一級建築士」の合格率が約15%、「二級建築士」の合格率が約25%程度であることを考えると、比較的合格率の高い資格といえるでしょう。
建築積算士資格を取得するメリット
建築積算士の資格を取得することによって、次のようなメリットがあります。
- 建築業界における就職や転職時に有利となる
- 上級資格にあたる建築コスト管理士を目指せる
- 仕事の幅が広がる
建設現場において積算の業務は必須の業務です。建築のスキルを持つ人材は建設業界において欠かせないため、建築積算士の取得を取得することによって、建築業界における就職や転職時に有利となる可能性は高いと言えるでしょう。
また建築積算士の資格を取得すれば、次に解説する上級資格にあたる建築コスト管理士を目指すことも可能です。建築積算士や建築コスト管理士を取得すれば、年収アップやキャリアアップなどにもつながるので、様々なメリットがあると言えるでしょう。
建築コスト管理士とは?
建築コスト管理士とは、工事における積算のスペシャリストであることを認定する資格です。積算業務に精通していることが前提となるため、建築積算士の上位資格といえます。
建築コスト管理士の仕事内容
建築コスト管理士は各現場や工事に必要な費用の算定などを主な業務としており、他にも建築に関する企画の立案・構想から、工事・工事後の維持・保全・廃棄など全ての工程におけるコストマネジメントを行います。
建築コスト管理士の試験概要
建築コスト管理士の試験は、建築積算士と同様に「公益社団法人日本建築積算協会」が実施しています。試験内容は、原則として建築積算士に求められる知識が出題され、具体的な科目や内容は以下の通りです。
- コスト情報収集・分析:商取引の基礎知識、コスト情報の入手方法、コスト情報の分析手法、
- コストに影響を与える諸要因
- 広範囲な市場価格:経済の現況、建設産業の現況と需給バランス、建物市場価格(マクロ)、建築構成材市場価格(ミクロ)、メーカー・専門工事会社見積価格と取引価格、不動産市況と取引実態
- 発注戦略:工事発注与条件の策定、契約文書と付帯条件、コストオン協定書と共益費、競争環境の醸成、入札手続きと評価
- 調達戦略:元請・下請階層関係、下請業種(メーカー・専門工事会社)、発注パッケージ
- フィジビリティースタディー:事業収支計画の概要、事業収支に影響を与える要因、建設工事費キャッシュフローと金利
- 概算技法:状況に応じた概算技法、コストデータの活用法、コストアロケーションとコストコントロール技法
- 施工技術・工期算定:特殊構工法、新技術、改修工事の特徴、解体工法、工期算定方法の概要、共通費(共通仮設、現場管理費、一般管理費)算定方法の概要
- LCC・VE及びFM・PM・CM・PFIの概要
- 環境配慮:社会的側面と法的側面、環境対応技術のトレンド、環境配慮とコスト
- 建築関連法規:建築基準法関連の基礎、コストに影響を及ぼす法規の概要
- IT活用:情報技術のトレンド、IT機器操作・ソフト活用
引用:2023年度「建築コスト管理士」試験案内|公益社団法人日本建築積算協会
なお建築コスト管理士試験は、次のいずれか一方の要件を満たしていなければ、受験することができません。
- 建築積算士の称号を取得後更新登録を1回以上行った方
- 建築関連業務を5年以上経験した方
- 1級建築士に合格し登録した方
引用:2023年度「建築コスト管理士」試験案内|公益社団法人日本建築積算協会
試験は一次試験と二次試験の二部制となっており、一次試験が学科試験、二次試験が半分記述試験となっています。
建築コスト管理士の難易度
過去の建築コスト管理士試験の合格率は、以下の通りとなっています。
実施年度 | 受験者数 | 合格者数 | 合格率 |
2022年 | 288人 | 138人 | 47.9% |
2021年 | 221人 | 140人 | 63.3% |
2020年 | 182人 | 122人 | 67% |
2019年 | 155人 | 128人 | 82.6% |
2018年 | 159人 | 118人 | 74.2% |
年度によって異なりますが、建築積算士と同様に毎年の合格率は約60%程度です。
建築コスト管理士を取得するメリット
建築コスト管理士を取得することで、次のようなメリットがあります。
- 建築工事における重要な役割を担う仕事が担当できる
- 就職や転職時に有利となる
- キャリアアップや年収アップに役立つ
建築コスト管理士が行う業務内容は、ホストの透明性や確実性を追求した費用設計や発注者や設計者などにより良い工事の提案・アドバイスをすることです。
これらの業務は建築業において最も重要なものの一つであり、建築工事に関するプロジェクトの中でも重要な役割となります。そのため工事において重要な役割を担う仕事が担当できるのはもちろんのこと、貴重な人材であるため就職や転職時にも有利に働く可能性は高いと言えるでしょう。
また建築工事において重要な役割を担う仕事を行えるようになるので、キャリアアップや年収アップに役立つのも資格を取得するメリットです。
建築積算士と建築コスト管理士の違いとは
建築積算士と建築コスト管理士資格の主な違いは、以下のとおりです。
建築積算士 | 建築コスト管理士 | |
資格の定義 | ・建築生産過程における工事費の算定並びにこれに付帯する業務に関し、高度な専門知識および技術を有する専門家。 | ・企画・構想から維持・保全、廃棄にいたる建築のライフサイクル全般に渡って、コストマネジメント業務に関する高度な専門知識および技術を有する専門家。 |
求められる技術 | ・建築工事分野の数量算出 ・建築工事分野の工事費算定 | ・各フェーズに応じた工事費用、その他費用の算定 ・コストプランニング ・コストコントロール |
求められる知識 | ・生産プロセス ・工事発注スキーム ・設計図書構成 ・工事費構成 ・積算業務内容 ・数量積算基準 ・標準内訳書式 ・主要な市場価格、データ分析と積算チェック ・施工技術概要 ・LCC ・VE概要 ・環境配慮概要 | ・原則として建築積算士に求められる知識を包含する ・コスト情報収集 ・分析 ・広範囲な市場価格 ・発注戦略 ・調達戦略 ・フィジビリティスタディ ・概算技法、施工 ・技術 ・工期算定 ・LCC ・VE及びFM ・PM ・CM概要 ・環境配慮 ・建築関連法規 ・IT活用 |
すでに説明した通り、建築コスト管理士は建築積算士の上位資格です。
このため建築積算士が「建築生産過程における工事費の算定並びにこれに付帯する業務」を行うのに対し、建築コスト管理士は「企画・構想から維持・保全、廃棄にいたる建築のライフサイクル全般に渡ってのコストマネジメント業務」などの、より規模の大きい業務を行うことが想定されています。
資格の取得を目指すべき人とは
建築関連の仕事に関わっている人の中には、自分が建築積算士や建築コスト管理士資格を取得すべきなのか知りたいという人も多いのではないでしょうか?
建築積算士を目指すべき人
建築積算士の資格取得を目指すべき人は、次のような人たちです。
- 設計事務所のコスト担当者
- 建設会社のコスト部門担当者あるいは工事部門現場管理担当者
- 積算事務所の担当者
- 官公庁のコスト管理関係者
建築積算士は、建築物の工事費について数量算出や工事費算定を行うのが主な業務です。
そのため設計事務所のコスト担当者や積算事務所の担当者、また官公庁のコスト管理関係者などは、建築積算士を取得すると専門家として業務の幅が広がったり、キャリアアップに繋がったりするなど様々なメリットがあります。
建築コスト管理士を目指すべき人
建築コスト管理士の資格取得を目指すべき人は、次のような人たちです。
- 発注者側のプロジェクト責任者や担当者
- 設計事務所のプロジェクト統括責任者あるいはコスト担当者
- 建設会社のコスト部門担当者
- 官公庁のコスト管理責任者
- 積算事務所のプロジェクト統括責任者
- 建築積算士を取得しておりキャリアアップを狙っている人
建築コスト管理士は建築積算士の上位資格であり、建築プロジェクトの企画構想から設計の各段階及び施工段階に至る全ての局面において、コストマネジメントを行う専門家です。
そのためプロジェクトの統括責任者や管理者、また建築積算士を既に取得しており将来的なキャリアアップを狙っている人などにおすすめの資格と言えます。
建築積算士と建築コスト管理士の資格を取得して業務の幅を広げましょう!
建築積算士は「建築生産過程における工事費の算定などを行う専門家」、そして建築コスト管理士は「建築のライフサイクル全般に渡ってのコストマネジメント業務を行う専門家」です。
常に慢性的な人材不足に悩まされている建設業界において、どちらも貴重な技能であり、取得することによってキャリアアップや収入アップにもつながります。
今よりも業務の幅を広げたい、もしくはキャリアアップや転職を考えている人は、建築積算士や建築コスト管理士の資格取得を目指してみてはいかがでしょうか?