設計士と建築士は、どちらも建築や建設に関わる仕事です。このため両者を混同している人も少なくありません。本記事では設計士と建築士の違いについて、仕事の内容や年収、必要なスキルや資格について解説します。
設計士と建築士は別物!
「設計士」と「建築士」の違いをご存じでしょうか?
どちらも似たようなもの、あるいは同じもの、と考えてはいないでしょうか?
実際そのような「誤解」をしている人は少なくありません。ですが設計士と建築士はまったく別物です。
まずは、設計士と建築士の仕事内容や必要なスキル・資格、年収などの違いを簡単にまとめてみました。
設計士 | 建築士 | |
---|---|---|
仕事内容 | ・小規模な建築物の設計 ・建築士の補助 ・施主との打ち合わせ | ・建築物の設計 ・行政の手続き ・現場管理、指示、現場監督 |
必要なスキル | ・設計の知識 ・創造性 ・空間把握能力 ・コミュニケーション力 ・理系の知識 | ・設計の知識 ・創造性 ・空間把握能力 ・コミュニケーション力 ・理系の知識 |
必要な資格 | ・とくになし | ・一級建築士 ・二級建築士 ・木造建築士 |
年収の相場※ | ・300万円〜800万円 | ・300万円~1,000万円超 |
ここからは、それぞれの違いについてもう少し詳しく解説していきます。
設計士とは
設計士とは、文字通り設計を行う人です。ただし「設計士」という資格があるわけではなく、設計士の仕事内容や業務範囲が法律などで決まっているわけでもありません。極端にいえば、設計に関わる人はすべて、無資格でも設計士と名乗ることができます。
ただし一般的には、設計事務所や建築事務所、ハウスメーカーなどに所属して、あるいはフリーの立場で、小規模な木造建築の設計を行ったり、建築士のサポートをしたりする人を設計士と呼んでいます。
仕事の内容
設計士の仕事内容について、もう少し詳しく説明しましょう。
小規模な建築物の設計
設計士の仕事は設計がメイン…と思われそうですが、実際には一定以上の規模の建築物を設計するには「建築士の国家資格」が必要です。つまり無資格の設計士の場合、設計できる建築物が大きく制限されます。具体的には、延べ面積(建物の各階の床面積の合計)が100平方メートル以下の木造建築物など、小規模な建物であれば単独で設計することが可能です。
建築士の補助
設計士は、建築士のサポートとしてであれば大規模な建築物の一部を設計できます。このため設計事務所などに所属して、建築士のサポートとして経験を積みながら国家資格の取得を目指す設計士も少なくありません。
施主との打ち合わせ
設計士は、建築物の設計にともなう打ち合わせ、特に施主(発注者)にヒアリングしたり、提案をすることもあります。実際には建築士が施主と打ち合わせをする際に同席して、資料の用意や記録といったサポート業務を行うことが多いようです。
必要なスキルと資格
設計士に必要な資格はありませんが、スキルについては建築士に準じるレベルが求められます。具体的には以下のようなスキルです。
設計の知識
条件付きとはいえ「設計」に携わるわけですから、設計に関するノウハウや専門知識は当然必要です。これらの知識は学校で学んだり、仕事を通して身に付けることができます。
創造性
新しい建物を生み出すには創造性が必要です。創造性自体は学校で学ぶようなものではありませんが、普段の生活や仕事を通して感性を磨くことで身に付けることができるでしょう。
空間把握能力
紙やパソコンの画面といった平面の上に立体物を描くには、空間把握能力が必要です。空間把握能力には個人差がありますが、トレーニングによってある程度身に付けることができます。
コミュニケーション力
施主とのやりとり、建築士とのやりとり、現場の作業員とのやりとりなど、設計士はさまざまな人とのやりとりを行います。円滑に業務を行うためにも、コミュニケーション力は欠かせません。
理系の知識
建築物には化学物質を含む建材や塗料などが使われます。また建物の設計には構造力学などの知識も関係してきます。このため設計士は、理系の知識を身に付ける必要があります。
建築士とは
建築士については、建築士法という法律の中で明確に定義されています。
建築士法 第2条 この法律で「建築士」とは、一級建築士、二級建築士及び木造建築士をいう |
ここに書かれている通り、建築士とは「一級建築士」「二級建築士」「木造建築士」のいずれかの国家資格を持っている人のことです。
ちなみに3つの国家資格は、それぞれ扱える建築物の規模や種類が異なります。
- 一級建築士:すべての建築物
- 二級建築士:延べ面積300平方メートル以下、高さ13mかつ軒高9m以下の建築物
- 木造建築士:延べ面積300平方メートル以下、2階建て以下の木造建築物
「国家資格を持っている」とはいっても、二級建築士が大規模な建築物を設計することはできませんし、木造建築士が大規模な建築物や、木造以外の建築物を設計することはできない点に注意が必要です。
仕事の内容
建築士の仕事内容について見てみましょう。
建築物の設計
建築士は、自分が持つ国家資格の範囲内で設計を行うことができます。もちろん自分ですべて行うこともできますが、他の建築士や設計士に設計の一部をサポートしてもらうことも可能です。
ちなみに設計には「意匠設計(建物の配置やデザインを設計)」、「構造設計(基礎部分や柱、屋根などの構造を設計)」、「設備設計(上下水道や空調などを設計)」の3つがあります。
行政の手続き
建築や建設については、各自治体ごとに細かなルールが定められています。また工事を行うにあたり、あらかじめ各種許可を取得することも必要です。こうした行政関係の手続きを行うのも、建築士の重要な仕事の一部です。
現場管理、指示、現場監督
建築士は、建築工事中に現場を訪れて「設計通りに工事が行われているか」「設計に関するトラブルが発生していないか」を確認したり、現場に指示を出すこともあります。
必要なスキルと資格
建築士に必要な「スキル」は、基本的に設計士に求められるスキルと同じです。ただし、建築士は設計士より大規模な設計に携わることから、それぞれのスキルも「より高度なもの」が求められます。
一方、設計士との最大の違いが「国家資格」の有無です。建築士になるには、以下の国家資格のいずれかを取得しなければなりません。
【一級建築士】
一級建築士は、あらゆる規模の建築物を設計できる国家資格です。たとえば高層ビルや大規模ショッピングモールなどの設計は、一級建築士しか行うことができません。なお資格の認定は国土交通大臣が行います。
一級建築士試験の合格率は10%程度で、しかも受験するには、以下の資格や実務経験のいずれかが必要です。
- 大学、短期大学、高等専門学校、専修学校等で指定科目を修め卒業した者
- 二級建築士
- 建築設備士
- その他国土交通大臣が特に認める者
【二級建築士】
二級建築士は、延べ面積300平方メートル以下、高さ13mかつ軒高9m以下の建築物を設計できる国家資格です。認可は都道府県知事が行います。
二級建築士の試験を受けるには、以下の資格が必要です。
- 大学、短期大学、高等専門学校、専修学校等で指定科目を修め卒業した者
- 建築設備士
- その他都道府県知事が特に認める者
- 7年以上の実務経験を持つ者
【木造建築士】
木造建築士は、延べ面積300平方メートル以下、2階建て以下の木造建築物を設計できる国家資格です。認可は都道府県知事が行います。受験には二級建築士の受験と同じ資格が必要です。
設計士と建築士の年収
設計士と建築士の年収は違います。建築士の方が設計士より仕事の幅も規模も大きいぶん、年収も大きくなります。
とはいえ、実際には所属する会社の規模や経営状況、勤務年数などによって大きく変わるため、場合によっては設計士の方が建築士より高収入というケースもあるでしょう。
ここでは一般的な相場を紹介しますが、あくまで「参考程度」にしてください。
- 設計士の年収相場:300万円〜800万円
- 建築士の年収相場:300万円~1,000万円超
ちなみに建築士の方は、資格の種類によっても年収相場が変わります。もちろん一級建築士が一番高収入です。大手設計事務所などに所属している経験豊富な一級建築士なら、年収1000万円を超えるケースもめずらしくありません。
設計士と建築士、どちらを目指すべき?
設計士と建築士のどちらを目指すべきかは、個人の目標や人生設計によって決めることです。一般的には、仕事の幅が広く、収入が大きい「建築士」、それも一級建築士を目指す人が多いでしょう。
ただし一級建築士の国家資格は難易度が高く、だれでも簡単に取得できるものではありません。現実的なキャリアプランとしては、まずは設計士として設計事務所などに就職し、実務で経験を積みながら建築士の資格取得を目指すのがおすすめです。
設計士と建築士の違いを理解して、自分に合った仕事を選びましょう
設計士と建築士はどちらも「設計」に携わる仕事ですが、業務の幅や必要な資格、収入などに違いがあります。設計の仕事をしたいと考えている人は、どちらの働き方が自分に合っているか、どのようなキャリアプランを描くべきかなど、しっかり検討してください。