建設工事においては原価管理が非常に重要です。この原価管理を確実に実行するために欠かせないものが実行予算の作成です。この記事では実行予算の内訳や作成手順について分かりやすく解説します。実行予算を組むにあたって注意すべきポイントについても取り上げます。
工事の実行予算とは?
建設工事の「実行予算」とは、ひとつの工事現場を運営するために作成される予算のことです。
工事現場の着手にあたって、専門工事業者ごと支払先ごとの発注金額の予算を組み、それに加えて自社の管理費などを想定して合計することにより実行予算を作成します。
実行予算を組む目的
実行予算を組む主な目的は以下の通りです。
- 工事の利益率の目標設定
- 進行に合わせた正確なコスト管理
- ロスや手戻りがあった場合の損失の把握
- PDCAサイクルによる工事管理のスキルアップ
実行予算のチェックで工事の利益確保を徹底することはもちろん大事ですが、自社の管理レベルのアップのためのフィードバックが得られるようにすることが理想です。
その他の予算との違い
建設工事には、実行予算以外にも各種の予算があります。
- 基本予算・・・経営計画にもとづいて立てられる、企業全体の年度予算
- 積算予算・・・設計図などから読み取った材料費や人件費、その他経費など工事にかかる費用を算出したもの
- 見積予算・・・積算予算に企業の利益を乗せて、発注者へ提出あるいは工事入札する金額
この①〜③段階を踏んで確定した受注金額から、②の積算予算をベースに、実際に工事を管理する現場管理者の目を通して再構成した実行予算を引いたものが、その工事の予定利益となります。
実行予算の内訳
実行予算は、直接工事費に共通仮設費と現場管理費を加えて作成します。ここでは、実行予算を構成するそれぞれの内容について解説します。
直接工事費
直接工事費とは、資材費・労務費・外注工事費など外部に支払う金額です。
資材問屋やメーカーから直接購入する資材費、日当単価で常用で現場に従事する職種への労務費、材工一式で専門工事業者に発注する外注工事費が該当します。
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共通仮設費
共通仮設費は、仮囲いや仮設トイレ、敷鉄板などさまざまな職種が共通して使用し、工事が終われば撤去され無くなる仮設物が該当します。
足場など、特定の専門工事業者が使用するものは「直接仮設費」として直接工事費のほうに分類することにご注意ください。
現場全体の清掃費、現場従業員や作業員の安全対策費なども共通仮設費として計上される項目です。
現場管理費
現場管理費は、工事現場を運営するのに掛かる諸経費のことです。
現場監督など元請側の従業員の給与や保険料、工事に必要な光熱費、施工図作成に掛かる費用などを計上します。
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実行予算の作成手順
実行予算は、通常は元請の現場監督(現場責任者)が作成するものです。
その工事の着手前に作成し、利益率および利益額について会社の承認を受けてから工事をスタートすることが原則になります。
以下に、実行予算を作成する理想的な手順について解説します。
実行予算の作成手順①受注時の想定利率を確認する
まずは受注金額と見積予算を照らし合わせて、当初想定していた利益率を確認します。
そのうえで会社の利益向上のため、その利益率を少しでも向上させる努力をすることが実行予算を組む際の前提となります。
実行予算の作成手順②見積明細を発注先別に振り分ける
工事受注の際に提出する見積は、計上方法や項目について発注者から指定されている場合もあり、実際の工事の発注の流れには合致していないケースも多くあります。
そのため、実行予算の作成にあたっては、見積項目ごとに分かれている工事内容を、発注先・支払先ベースで振り分ける作業が必要となります。
各発注先へ支払う金額の積み上げで、想定される金額を漏れが無いように正確に把握することが重要です。
実行予算の作成手順③発注先別に価格交渉をする
発注先・支払先ごとに把握した金額を、精査および交渉により確定していきます。
交渉にあたっては、VE⇒ネゴシエーション⇒CDの順に行うことが望ましいでしょう。
VEやCDは、設計者および発注者の理解が得られることが前提となるため、それなりの準備打ち合わせ期間が必要になります。
関連記事:建築工事の「VE」とは何?効果的なVE手法について解説します
実行予算の作成手順④全体の粗利率を確認し会社の承認を受ける
ここまでの手順で積み上げてきた工事全体の必要金額が、受注段階での想定利益率を上回っているかを確認します。
数字が厳しければ、さらなるVE⇒ネゴシエーション⇒CDの繰り返しで利益率の向上を試みる必要があるでしょう。
その数字について会社の上役や部門責任者から承認を得られれば、その工事の着手時の実行予算が確定します。
実行予算の作成手順⑤実績をリアルタイムに管理する
工事が始まると進行に合わせて随時支払いが発生しますが、その実績をリアルタイムに実行予算に反映させて、予算と実績を比較して管理します。
想定よりも厳しい進行の場合は、後工事で再度の発注金額の調整を試みる作業も必要になります。
また、発注者や設計者からの要望による設計図面や見積条件に記載されていない内容の追加や変更工事は、その都度変更金額を提示して確実に回収できるようにすることも重要です。
実行予算の作成手順⑥完工後に結果を取りまとめて報告する
工事が完了したら、会社の上役や部門責任者に実行予算の管理状況と結果を報告します。
利益率を向上すればそれで良いというものではなく、予定通りに行かなかった部分を検証してフィードバックする作業が大切です。
ここでの検証作業が、次回以降の積算予算や見積予算の精度向上につながり、会社のさらなる収益の向上に貢献することでしょう。
実行予算の作成で注意するポイント
実行予算の作成にあたって、注意すべきポイントを2つご紹介します。
実行可能な目標を立てる
実行予算は、確実に実行可能な目標を設定するべきであり、決して「絵に描いた餅」になってはなりません。
会社の上役の顔色をうかがって高い目標を立てる管理者もいますが、根拠の無い値引きなどの無理なネゴシエーションは品質と安全の劣化を招くうえに、外注先の確保が難しくなってしまいます。
無理な目標設定をさせないために、経験者が実行予算の実現可能性をチェックする社内体制の構築が重要です。
予備費を確保する
実行予算には適宜「予備費」を計上しておくとよいでしょう。
工事中にはロスや不測の事態で修正を余儀なくされることも多くあります。
そのような場合に予備費の計上が無いと、仕上げ工事など後工程への発注金額にしわ寄せが行くことになってしまいます。
ただし、予備費の多すぎる計上は原価管理に対する管理者の緊張感を削いでしまうため、予備費についても会社で厳しく査定をするようにしましょう。
無理のない正確な実行予算の作成で工事の利益を確保しましょう
建設業の会社を安定して経営するためには、受注した工事で想定通りの利益を確保することが重要になりますが、それを支えるのが工事現場レベルでの実行予算です。
ここに挙げたように実行予算の管理を支えるための社内体制をつくりあげて、現場の状況や管理者の技能によって左右されずに利益をしっかりと確保できるようにしましょう。