建設業者の事業運営に関わる重要な役割を果たす専任技術者。この記事では、専任技術者になるために必要な資格から、他の技術者との違いをご紹介します。
専任技術者とは?
専任技術者とは、建設業者の事業運営に関わる重要な役割を果たす技術者の一つです。建設業法によると、建設業者は営業所ごとに「建設業に関する一定の資格又は経験を有する技術者」つまり専任技術者を配置しなければなりません。
専任技術者の配置は、建設業許可を受けるための必須要件です。もし専任技術者が退職などでいなくなったら、14日以内に新しい専任技術者を届け出ない限り、その建設事業者は建設業許可を失ってしまいます。退職等が発生しそうな場合は、空白期間が発生しないよう「代わりの専任技術者」をあらかじめ確保しておくようにしましょう。
専任技術者の役割・業務内容
選任技術者の役割は、大きく分けて以下の2点です。
①適正な請負契約が締結されるよう、技術的観点から契約内容の確認を行う
②請負契約の適正な履行が確保されるよう、現場の監理技術者等のバックアップ・サポートを行う
国土交通省『営業所専任技術者制度について』
加えて、見積もりの作成、契約の締結手続き、発注者とのやりとりなども専任技術者の業務の一部となります。これらは営業所の中で行われるため、基本的に専任技術者が工事の現場に出ることはほとんどありません。
専任技術者になるには
専任技術者になるには、法律で定められた要件を満たす必要があります。具体的な要件については建設業法第7条第2号(一般建設業の許可基準)と、第15条第2号(特定建設業の許可基準)に書かれていますが、ここではその内容をわかりやすく説明します。
国家資格など
専任技術者の要件として一般的なのが、国家資格などの資格です。ただし専任技術者という名前の資格があるわけではなく、建設業許可の種類(土木一式工事、大工工事など計29種類)に応じて、国土交通省の指定する資格を取得している必要があります。
たとえば「土木一式工事」で専任技術者になるには、以下の資格のいずれかが必要です。
- 1級建設機械施工技士
- 2級建設機械施工技士 ※一般建設業のみ
- 1級土木施工管理技士
- 2級土木施工管理技士(土木) ※一般建設業のみ
- 技術士(建設部門、農業部門、水産部門、森林部門などの一部)
29業種それぞれごとの詳しい資格については、国土交通省『営業所専任技術者となり得る国家資格等一覧』に書かれています。なお一般建設業と特定建設業では必要な資格が異なることもあるため、注意してください。
学歴+実務経験
一般建設業の許可を受ける場合、国家資格などがない場合でも一定の学歴(指定学科の卒業)と実務経験で専任技術者の要件を満たすことができます。ちなみに学歴と実務経験の組み合わせは、卒業した学校の種類によって変わります。
- 高等学校:指定学科の卒業+5年以上の実務経験
- 中高一貫校:指定学科の卒業+5年以上の実務経験
- 大学、短期大学:指定学科の卒業+3年以上の実務経験
- 高等専門学校:指定学科の卒業+3年以上の実務経験
「指定学科」は、建設業許可の種類によって細かく指定されています。たとえば土木工事業なら「土木工学(農業土木、鉱山土木、森林土木、砂防、治山、緑地又は造園に関する学科を含む)都市工学、衛生工学又は交通工学に関する学科」といった具合です(詳しくは国土交通省『建設産業・不動産業:指定学科一覧 – 国土交通省』で確認してください)。
また実務経験は「建設関係ならなんでもよい」わけではなく、「該当する業種に関する実務経験」が必要です。
実務経験
資格や学歴の要件を満たさない場合、「10年以上の実務経験」だけでも一般建設業の専任技術者になることができます。もちろん、この場合の実務経験とは「該当する業種に関する実務経験」のことです。
一般建設業の選任技術者要件+2年以上の指導監督的経験
特定建設業の専任技術者には一般建設業よりも高度な要件、たとえば国家試験なら「2級ではなく1級が必要」とされますが、それ以外でも「一般建設業の選任技術者要件+2年以上の指導監督的経験」で要件を満たせます。
この「指導監督的経験」とは国土交通省によると「建設工事の設計又は施工の全般について、工事現場主任者又は工事現場監督者のような立場で工事の技術面を総合的に指導監督した経験」のことです。具体的には、工事現場主任や工事現場監督、現場代理人といった役割が該当します。
なお「工事」の規模については、「発注者から直接請け負い、その請負代金の額が4,500万円以上であるもの」という条件が付いているため、注意してください。
参考:国土交通省『建設業許可事務ガイドラインについて』
専任技術者には「専任性」が必要
専任技術者にとって重要なのが「専任性」です。これは技術者が、特定の営業所に専属で働いていることを指します。
簡単にいうと、専任技術者には原則として兼業が認められません。基本的には営業所の休日を除き、常勤として勤務していることが必要です。
このため、許可を取得しようとする営業所に通勤不可能な場所に居住している人は、専任技術者になることはできません。また、すでに特定の営業所や工事現場で専任となっている人が別の営業所の専任技術者になることも不可能です。
専任技術者には「常時雇用」が必要
専任技術者は「常時雇用」、つまり正社員であることが必要です。たとえばパートやアルバイトといった非正規雇用の場合、専任技術者になることはできません。ただしその会社の社員でなくても、その会社に「出向」している社員は専任技術者になれます。
専任技術者と他の技術者の違い
建設業には専任技術者のほかにも、主任技術者や監理技術者といった「技術者」がいます。これらの技術者と専任技術者の違いについて、まずはおおまかな表で確認してみましょう。
専任技術者 | 主任技術者 | 監理技術者 | |
---|---|---|---|
仕事場所 | 営業所 | 工事現場(小規模な元請工事や下請工事) | 工事現場(大規模な元請け工事) |
業務内容 | 適正な契約締結と、契約内容の適正な履行を確保する | 工程管理や技術者の指導監督により、建設工事を適正に実施する | 工程管理、技術者や下請の指導監督により、建設工事を適正に実施する |
条件 | 建設業者の営業所に専任であること | 建設業者との直接的かつ恒常的な雇用関係 | 建設業者との直接的かつ恒常的な雇用関係 |
主任技術者
主任技術者とは、すべての「工事現場」に配置される技術者です。元請・下請のどちらであるか、工事の規模(工事金額)がどれくらいであるかは関係ありません。
主任技術者の役割は、工事の工程管理や工事に関わる技術者への指導監督を通して、建設工事を適正に実施することです。このため(上の表には入っていませんが)、主任技術者になるには一定以上の知識や経験が欠かせません。具体的には「一般建設業の専任技術者」と同じ要件が求められます。
また、主任技術者は「建設業者との直接的かつ恒常的な雇用関係」、つまり建設業者に直接雇われた正社員であることが必要です。この点は専任技術者と同じですが、専任技術者のような「専任性」は必要ありません。
監理技術者
監理技術者は「元請けとして3000万円以上(建築一式工事は4500万円以上)」の工事をおこなう場合に、主任技術者に代えて配置される「上位の技術者」です。
このため監理技術者の役割は、主任技術者の業務とほとんど変わりません。監理技術者ならではの業務といえるのは「下請の指導監督」くらいです。
監理技術者は主任技術者よりも上位の技術者ですから、求められる要件も高度です。具体的には「特定建設業の専任技術者」を満たした人だけが監理技術者になれます。
それ以外の部分、「建設業者との直接的かつ恒常的な雇用関係」については専任技術者と同じです。
専任技術者の役割と要件を正しく理解しましょう
専任技術者は、建設業許可を取得する事業者にとって必要不可欠です。専任技術者が不在になってしまうと許可を失う可能性があるため、事業を円満に継続するためにも、専任技術者の要件をしっかり把握して、適切な人材を常に確保しておくようにしてください。