公共・民間にかかわらず、我が国における建築工事では、設計図書にもとづき請負者が一式総額のみで請け負う「総価請負契約」が一般的に採用されています。
また、発注者が入札経費の無駄を省く目的で工事費数量積算明細書を用意し、それにもとづき施工者が値入を行い入札する「総価単価契約(契約数量公開方式)」は、英連邦諸国においては活用されてきましたが、我が国においてはほとんど採用されてきませんでした。
一方、国土交通省が2017年度から実施した「入札時積算数量書活用方式」は、入札時に積算数量を提示し工事請負契約後に積算数量が異なっていた場合は請負額の変更協議を可能としており、国の営繕工事および地方公共団体発注工事の一部で活用されています。この方式は、基本的には「総価請負契約」ではありますが、導入の主旨としては「総価単価契約(契約数量公開方式)」と同様の意味を持っていると考えられます。本記事では、「総価単価契約(契約数量公開方式)」およびその他の契約方式とともに、公共工事で多く活用されている「入札時積算数量書活用方式」についての情報も紹介していきます。
総価単価契約(契約数量公開方式)とは
総価単価契約(契約数量公開方式)とは、契約における価格および各種条件を決定するための契約手法です。総価単価契約(契約数量公開方式)をBQ(Bill of Quantities)書方式と表現することもあり、発注者が契約数量として責任をもつ数量明細書を提示し、施工者が各項目の単価と金額を提示し、協議などを経て単価と工事請負金額が決定します。
総価単価契約(契約数量公開方式)の特徴
総価単価契約(契約数量公開方式)の特徴は、総価による請負契約であると同時に数量明細書の各項目の数量および単価も契約の対象とすることです。このため「数量明細書」も契約書類の一部に含まれます。
総価単価契約(契約数量公開方式)導入の背景
総価単価契約(契約数量公開方式)導入の歴史は19世紀まで遡ります。産業革命時代の英国では、発注される工事件数が増加しており、施工者が抱える案件数も比例して増加していました。このため施工者にとっては、工事を入札するごとに数量積算作業を行うことが大きな負担となっていたのです。やがてそれらの負担を軽減するため、入札に参加する施工者が共同で、工事数量積算および詳細工事内容を記載した一冊の工事数量明細書(BQ書)を作成するようになったようです。
総価単価契約(契約数量公開方式)の役割
総価単価契約(契約数量公開方式)の役割は、施工者の入札に伴う経費節減と、入札者へ公正な競争入札が行われるように環境整備を構築することです。
総価請負契約と総価単価契約(契約数量公開方式)およびその他の契約方式の違い
総価単価契約(契約数量公開方式)を正しく理解するために、総価請負契約と総価単価契約(契約数量公開方式)およびその他の契約方式との違いについて解説します。
総価請負契約
総価請負契約は、設計図書にもとづき一式総額のみで工事を請け負う方式です。積算数量については施工者(応札者)が独自に積算し、総額のみを入札することが一般的です。
契約締結後は設計変更などで当初の条件が変わらない限り、実際に要した費用が契約額を超えても追加の支払いはなく、また契約金額より低い費用で納まった場合も返還する必要はありません。
設計変更などで工事数量が変更される場合は一般的に協議となります。ただし、公共工事においては、予定価格を決定するための積算単価により工事費の増減額を算定し、落札率(予定価格に対する落札金額の比)を乗じて変更金額を算定することが一般的です。また民間工事においては、施工者から提示された見積書(工事費内訳明細書)の単価に準拠して増減額の協議を行うことが一般的です。
このように、単価を合意した契約ではないものの、発注者と受注者間で数量変更の基準とする単価については一応定まっているのです。
また、資材や労務費など工事価格が大幅に変動した場合も、工事請負額の変更について協議を行うことが契約で定められているケースが多くなっています。
総価単価契約(契約数量公開方式)
総価単価契約(契約数量公開方式)は、基本的に総価請負契約ですので、設計変更などで当初の条件が変わらない限り請負額の変更はありません。ただし、工事数量については発注者が責任を持ち、もし間違いがあった場合などは請負額が変更されます。このような請負額の変更においては、施工者(受注者)から提出され合意された単価が増減額の基準となります。
名称が「単価契約」となっていますが、主眼は発注者が責任を持つ「工事数量」にあり、単価の合意については実務的に総価請負契約と大きな差異は生じません。
その他の単価契約方式
我が国および海外では様々な価格契約方式が採用されていますが、その名称は類似の用語(「総価」や「単価」など)の組合せも多く、間違いやすいので注意が必要です。間違いやすい名称の契約方式例としては、「単価合意契約(単価個別合意方式)」と「総価請負単価合意方式」があります。
「単価合意契約(単価個別合意方式)」は、設計図書の完成度の低い段階で契約をする場合や着工を急ぐ場合に用いられ、単位数量当りの各項目単価を決めて契約します。施工段階で実際に確定した数量に契約単価を乗じ、経費を含めて金額清算を行います。
「総価請負単価合意方式」は、基本的には総価請負ですが、実際の工事において数量変更が多く発生する公共土木工事に採用される契約方式です。自然条件との調和が必要な土木工事では、施工段階において当初の設計図書からの変更も多く、工事完了時点で請負額の変更を行うことが多くみられます。そこで、あらかじめ基準となる単価について発注者・受注者双方が合意して、変更処理を合理的に行うことを目的としています。
総価単価契約(契約数量公開方式)のメリットおよびデメリット
総価単価契約(契約数量公開方式)には、さまざまなメリットとデメリットがあります。
メリット
総価単価契約(契約数量公開方式)のメリットとしては、発注者側が工事数量を提示するため、施工者(応札者)が入札に要する積算作業が軽減することがあげられます。また、単価についても発注者・受注者間で合意するため、工事の変更協議が円滑になります。また、入札時や見積時に施工者(応札者)が同一条件で見積金額を提示してくれるため見積金額を迅速に比較検討できるという点がメリットです。
デメリット
総価単価契約(契約数量公開方式)のデメリットは、発注者が精算(詳細)積算を行わなくてはならないことです。
我が国の民間工事においては、一般的に実施(詳細)設計完了後は、施工者から見積を徴集し比較検討の上、工事請負契約を締結するのが一般的です。したがって、この時点で発注者側(実際は設計者)が積算を行うことはまれで、工事規模によっては発注者が負担する積算費用は多額なものとなります。ただし、公共工事においては、予定価格を算定するために精算積算を行うことが一般的であり、特に追加の積算費用が発生することはありません。
最大のデメリットは、発注者が提示した工事数量が間違っていた場合、設計内容が変わらないにもかかわらず、請負額の変更をしなければならない点です。前述したように、受注者(施工者)の心理として、実際より数量が少なかった場合は数量の見直しによる増額要求をするのですが、実際より数量が多かった場合はわざわざ減額請求を行うことは一般的ではないと思われます。設計図の完成度にも影響されますが、積算数量に間違いが生じる可能性は否定できません。したがって、発注者は積算間違いにより請負額が増加するリスクを負うことになります。
このようにメリットに比してより重大なデメリットを内包しているため、わが国の民間工事では総価単価契約(契約数量公開方式)の採用例は非常に少ないといわれています。
しかし、公共工事においては、公益的な観点から入札の合理化を行う必要があり、国土交通者は、「入札時積算数量書活用方式」を実施していますので、以下に概要を述べてみます。
入札時積算数量書活用方式
数量公開制度
1977年度に官民合同の委員会(建設省はじめ主要官庁と日本建築積算協会はじめ主要建築関連団体が参加)において「建築数量積算基準」が制定され、発注者・施工者双方で数量の計測・計算方法が統一されました。そこで、入札に参加する施工者から入札時の積算経費削減と入札参加の障害を取り除くため、積算数量の公開を求める声が高くなってきました。
国土交通省(当時は建設省)は、1990年度に参考数量として積算数量を公開することとし、その後地方公共団体を含む公共工事全体に普及していきました。ただし、あくまで参考数量という位置づけで、積算数量に間違いがあっても発注者が請負額の変更などの義務を負うものではありませんでした。したがって、施工者にとっては、公開された数量の信頼性が担保されない状況での活用には限界があり、また、公開数量の間違いをめぐっては受注者と発注者間でトラブルとなるケースも見受けられました。そのような状況から、発注者が数量に責任を持つ契約数量への移行が長年にわたり建設業界から要望されていました。
入札時積算数量書活用方式
「入札時積算数量活用方式」は、建築工事の入札に際して発注者が積算数量書を提示します。その積算数量書にもとづいて施工者が入札を行い工事請負契約を締結した後、発注者が提示した積算数量に疑義が生じた場合は、協議により請負額の変更も可能となります。つまり、発注者が提示した積算数量は契約数量としての位置づけとなりました。
国土交通省では、2016年度の試行を経て、2017年度から営繕工事において本格的に同方式を実施しました。現在、国の営繕工事には適用されていますが、地方公共団体の発注工事においては積算間違いによる請負額変更(増額)に関する議会手続きも含めて実務上の課題も多く、徐々に地方へも普及が拡大しつつある現状です。(多くの地方公共団体は「参考としての数量公開」を継続中)また、数量の基準はあくまで「建築数量積算基準」にもとづいて計測・計算された数量であり、現場で実際に施工された数量ではないことに注意が必要です。
様々な契約方式を正しく理解しよう
いままで述べましたように、契約方式は類似の用語が多く、名称と内容が一致せず混乱するケースもあります。インターネットに掲載されている様々な記事においても、このような用語の混乱や事実誤認も懸念されますので、十分な注意が必要です。
なお、様々な契約方式を正しく理解するためには、国土交通省のホームページ(入札契約方式についての通達や各種資料)あるいは(公社)日本建築積算協会発行の書籍(新☆建築積算士ガイドブック、新☆建築コスト管理士ガイドブック)などを参照するとよいでしょう。