公共工事設計労務単価の仕組みと最新動向を紹介します。全国全職種の伸び率は9年ぶりに5%以上となり、単価の平均値は11年連続の上昇。高齢化の進行と若年層新規就労者の減少が深刻な問題となっている中、適切な労務単価の設定と作業者への支払いは人材確保のための大きな武器となります。
公共工事設計労務単価の最新動向
2023年2月14日に、2023年3月から適用される「公共工事設計労務単価」が決定し、公表されました。
この決定により、公共工事設計労務単価は全国・全職種の単純平均で前年度比5.2%引き上げられることになります。
公共工事設計労務単価について
公共工事設計労務単価とは、国が公共工事の積算に用いる単価として決定・公表するものです。
国土交通省・農林水産省・都道府県・政令指定都市が発注する公共工事を対象として、公共事業に従事する労働者の賃金実態を調査する「公共事業労務費調査」の結果に基づいて決定されます。
調査の方法としては、企業が保有する「賃金台帳」から賃金の支払い実態を調べるもので、元請、下請を問わず51の職種が調査の対象となります。
原則として毎年10月の賃金を調査しますが、必要に応じて他の月の賃金が参照されることもあります。
公共工事設計労務単価の内訳
公共工事設計労務単価では、労働者本人が受け取るべき賃金を基に、日額換算値(所定内労働時間8時間)として労務単価を設定します。
その内訳は下記の合算です。
- 法定福利費(個人負担分)
- 基本給相当額(日額相当)
- 基準内手当(日額相当)
- 賞与等(日額換算)
- 実物給与(食事等現物支給されるもの)
ただし、次の二つは公共工事設計労務単価に含まれません。
- 所定内労働時間8時間に含まれない各種の追加手当(超過勤務手当・夜間手当・休日出勤手当)
- 事業主が負担すべき必要経費(法定福利費・労務管理費・安全管理費等)
令和5年度公共工事設計労務単価の最新情報
令和4年度に実施した公共事業労務費調査に基づいて、令和5年3月から適用する公共工事設計労務単価が決定・公表されています。
その概要は以下の4点です。
- 全国全職種の単価は、単純平均で前年度比5.2%引き上げられた(平成24年度比+65.5%)
- 主要12職種の単価は、前年度比5.0%引き上げられた(平成24年度比+65.5%)
- 平成25年度の算定基準改訂から11年連続の引き上げとなり、全国全職種加重平均値は22,227円となった
- 運転手、交通誘導員の人員不足が顕著であるため、この2職種の単価は他と職種と比較して大きく引き上げられた
主要12職種の令和5年度公共工事設計労務単価と前年度比(東京都)
職種 | 公共工事設計労務単価(東京都) | 前年度比 |
---|---|---|
特殊作業員 | 26,700円 | +4.0% |
普通作業員 | 23,900円 | +5.7% |
軽作業員 | 16,800円 | +6.3% |
とび工 | 29,900円 | +4.8% |
鉄筋工 | 29,000円 | +3.6% |
運転手(特殊) | 27,700円 | +5.7% |
運転手(一般) | 22,400円 | +5.8% |
型わく工 | 27,500円 | +3.8% |
大工 | 27,600円 | +4.9% |
左官 | 29,500円 | +4.0% |
交通誘導警備員A | 17,900円 | +7.1% |
交通誘導警備員B | 15,500円 | +6.3% |
※主要12職種とは通常、公共工事において広く一般的に従事されている職種のことを指します
参考:国土交通省「令和5年3月から適用する公共工事設計労務単価について 」
参照:国土交通省・農林水産省「令和5年3月から適用する公共工事設計労務単価表」
公共工事設計労務単価の近年の推移
公共工事設計労務単価の近年の推移について解説します。
令和5年度の単価の伸び率は、全国・全職種で9年ぶりに5%以上となり、単価の平均値は11年連続の上昇となりました。
これには、少子高齢化による建設労働者不足と職人の高齢化が大きく影響しています。
国土交通省の資料によれば、建設業就業者は、55歳以上が約34%、29歳以下が約11%と高齢化が進行しており、次世代への技術承継が大きな課題となっています。
そのため、公共工事においては実態を反映した労務単価を設定し、建設労働者の待遇の改善と適切な賃金が支払われるための指針と設計労務単価を政策として長期に渡り引き上げ続けています。
参考:国土交通省「令和5年3月から適用する公共工事設計労務単価について 」
公共工事設計労務単価を採用する公共工事への参入メリットは?
公共工事は公共工事設計労務単価を採用しているため、民間企業は公共工事に参入することで、労働者へ支払う適正な賃金を確保しやすくなります。
これは建設業界にとって大きなメリットです。なぜなら適正な賃金を確保することで、目の前に迫った建設業の2024年問題に対応しやすくなるからです。
建設業の2024年問題とは
建設業においては、2024年4月から「働き方改革関連法」に基づく、時間外労働の上限規制が適用されます。
これは、特別な事情がない限り時間外労働を月45時間、年360時間以内に収めなければならないという制度で、違反した場合は刑事罰の対象になります。
さらに、年5日の年次有給休暇の確実な取得も義務付けられており、公共工事においては原則として週休二日制を採用し労働者に適切な休日を与えることが求められています。
この背景にあるのは、2025年に最大で93万人もの建設労働者が不足するという予測です。国は公共工事設計労務単価を引き上げることによって建設労働者の人材を確保し、新規就労の促進を目指しています。
最新の市況を反映した設計価格設定
公共工事設計労務単価では、保険料や年金などの法定福利費が確実に賃金に上乗せして支払われます。
さらに、働き方改革関連法で義務化された分の有給休暇取得に要する費用や、時間外労働時間を短縮するために必要な費用も反映されます。
これに対し民間発注工事では法定福利費分の上乗せ等について理解があまり進んでおらず、結果として作業者の負担が大きくなり、実質的な賃金が下がってしまうという問題があります。
公共工事設計労務単価を採用する公共工事は、企業にとって大きな参入メリットがあるといえるでしょう。
建設業の人材確保は適切な労務単価の設定から始めましょう
ここまで、公共工事設計労務単価の内容と最新の動向について解説してきました。
作業者の高齢化の進行と新規就労者の減少が深刻な問題となっている中、公共工事の設計労務単価は適切な賃金の保証となり、人材確保の大きな助けになることでしょう。
そのために、今まで公共工事に取り組んでいなかった企業も、今後の参入を積極的に検討してみてはいかがでしょうか。