建設業の経営を安定させるためには資金繰りが非常に重要です。工事の利益率を重視し、売掛金を早期に回収する努力が必要なのはもちろんですが、複数の資金調達方法を用意しておいて、いざというときの備えをしておくことも大事です。
建設業の資金繰りの特徴
建設業を安定して経営するために最も重要な要素は「資金繰り」です。
建設工事は1件ごとにかかる金額が高額なうえに、受注してから実際に入金されるまでの期間が長いという特徴があります。
実際に入金されるまでの間は手持ちの資金でやりくりする必要があり、その間でも工事費の立て替えと従業員の労務費や外注費の支払いは毎月発生するため、入金までの間に資金ショートしてしまう会社も多く存在するのです。
以下に、資金繰りを難しくするさまざまな要素について整理してみます。
建設業の資金繰りの特徴①先行出費が多い
建設工事では、人件費や材料費など、発注者から入金される前に先行して支払わなければならない費用が発生します。
先行して支払いが必要な例
- 建築資材などの材料費
- 作業員に支払う人件費
- 一部工事の外注費
- 現場事務所や仮囲いなどの仮設経費
- 重機のリース費用
これらの費用は工事の完工高に応じて何段階かに分けて支払われますが、原則として入金よりも先に出ていくものです。
追加工事や手戻り工事が発生した場合は工期が延長となり、支払いサイトが長くなってしまう点にも注意しましてください。
建設業の資金繰りの特徴②赤字受注の横行
建設業界では、見積時点で利益が出ないことが明らかな工事でも、付き合いや実績作り、見かけ上の業績アップのために赤字覚悟で受注することも少なくありません。
持ち出しになる工事が続けば、事業資金は当然ショートしてしまいます。
赤字受注の先に十分な利益が得られる工事があったとしても、支払われるタイミングが合わなければ融資などで資金をつなぐしかありません。
建設業の資金繰りの特徴③融資審査が厳しい
赤字受注であることが明らかな工事を複数請け負い、利益を出していない会社は銀行融資の審査に通りにくくなります。
工事の規模に対して融資枠が足りずに、受注を諦めざるを得ないケースも出てくるでしょう。
不健全な財務は、公共工事の入札に必要な「経営事項審査(経審)」の点数が下がって入札受注が厳しくなるなど、さらに悪循環となっていきます。
建設業の資金繰りの特徴④手形取引の慣行が残る
建設工事は、完了検査で検収を受け工事の完成をもって最終入金になります。しかし民間取引では手形取引の習慣が残っているケースが多く、すぐに現金が入らないこともめずらしくありません。
一方、自社が手形取引で現金の支払時期を引き延ばそうとする場合は、下請け業者が手形取引に応じてくれなければ、手持ち資金で支払うか、手元の手形を現金化して支払う必要があります。
建設業の資金繰りを改善するポイント
建設業の資金繰りを改善するにはどのようにすればよいでしょうか。
まずはしっかりと利益が出る工事を受注して、いつまでにいくらの現金が必要になるかを正確に把握することが重要です。
資金繰りを改善するポイント①売上額でなく利益重視の受注に切り替える
工事を受注する基準としては、発注金額の大小ではなくその工事で想定される利益率を重視するようにしましょう。
赤字になる工事は決して受注しないという姿勢で、きちんと利益が出る工事を積み上げていけば、自然に資金繰りは改善が可能です。
そのためには、受注段階での見積精度を高めたうえで、工事の着手時から完工まで実行予算を会社全体で管理して利益が確保できるように全社を挙げてサポートできる体制の構築と意識付けが重要になります。
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資金繰りを改善するポイント②工事着手金や中間金を得られるように交渉をする
資金繰りを改善するためには、支払いと入金の期日と金額を正確に把握する必要があります。
通常は資金繰り表を作成して、入出金の時期を管理することになりますが、特に重要なのが「着手金」と「中間金」です。
これらが得られず完工時の一括払いになると、資金繰りはとたんに厳しさを増します。
前払い分を可能な限り増やすためには受注時の条件交渉が必要になりますので、営業担当に意識付けをさせるようにしましょう。
資金繰りを改善するポイント③支払いサイトを早める
支払いサイトを早めるためには工期を短縮して、請求書の発効時期を早める努力も必要です。
支払いが必要な時期より先に入金があると、その工事単体だけでなく並行して進行する工事の支払いに充てることも可能になりますので、資金繰りが改善していく好循環となっていくでしょう。
建設業の資金調達の方法
手持ちの資金と、発注先からの入金だけでは資金繰りが不可能な場合も多くあります。その場合は以下のような方法を検討してみましょう。
銀行融資
建設業に対する銀行融資は、工事ごとに「工事引当融資」として行われるのが基本です。
自社の所在地にある地方銀行や信用金庫と密接な付き合いがある会社も多いと思いますが、信用保証協会の保証付き融資のパターンが基本で、保証料の支払いが発生するというデメリットがあります。
さらに、保証を受けられる借入額の上限である「保証枠」が決まっていて、その金額を超える資金が必要となる工事の受注が難しくなるというデメリットも考えられるでしょう。
銀行独自のプロパー融資は審査基準が厳しめですが、低金利で融資を受けられ融資枠も柔軟に対応が可能です。
まずは小額からでも融資実績を作り、プロパー融資を受けられるようにすると資金繰りの悩みも改善できることでしょう。
日本政策金融公庫
日本政策金融公庫は、国が用意している融資制度であり、民間銀行と比べると金利が低いうえに担保や保証人なしで借り入れができるという大きなメリットがあります。
審査にあたっての必要書類が多く時間を要することが難点ですが、実績の無い創業期には非常に有効です。
手形取引
設定した期日に金融機関に持ち込んで現金化できる「手形取引」は、世の中全体としては廃止の方向に向かっていますが、依然として建設業では手形取引の習慣が根強く残っています。
「半金半手」など、取引先に対して半額は現金で支払い、残りの半分は数カ月先の約束手形として支払うケースなどです。
約束手形の期日前でも現金化できる「手形割引」もありますが、手数料を引かれてしまうため極力避けるべきでしょう。
オンライン融資
WEBで審査から融資の実行まで全て完結する「オンライン融資」が広がりを見せています。
オンライン会計ソフトと連動して審査申し込みができるサービスもあり、保証人や担保が不要なうえにスピーディな融資の実行が望めます。
ただし、一般的には少額の資金調達を対象とするサービスですので、この方法一本で資金繰りをすることは難しいでしょう。
ファクタリングサービス
工事の受注金額の支払いなど、将来発生する売掛金の債権を買い取って現金化してくれるサービスが「ファクタリング」です。
手数料が高いことが一般的ですが、融資借入に当たらないため会社の信用情報が傷付かないというメリットがあります。
特に公共工事を多く扱う企業にとっては、「経営事項審査(経審)」に記載する財務健全性への影響が少ないことも魅力です。
資金調達を成功に導くには
急な資金調達の必要が生じやすい建設業者は、複数の資金調達の方法を確保しておくことが重要です。
直近では資金調達の必要性がなくても、事業がうまくいっている時にこそあえて借り入れをして金融機関に「信用」を作っておくという考え方も重要でしょう。
また、建設業許可の取得や監理技術者の配置および人数などの許認可や保有資格面も、融資の審査では大きなウエイトを占めますので、普段から社内コンプライアンスを徹底させることも必要です。
資金繰りを改善して攻めの受注を目指しましょう!
ここまで、建設業の資金繰りについてさまざまな角度から解説してきました。
受注する工事の規模が大きくなるほど先行出費も大きくなるため、計画的な資金繰りは非常に重要です。融資などで資金繰りを円滑にする手段を普段から複数用意しておけば、大型受注のチャンスを逃すことも減るでしょう。
ぜひ、自社に合った資金繰りや資金調達方法を検討してみてください。