建物の維持管理には不具合や劣化を修理する修繕工事が必要です。それだけではなく、最新の技術で性能を向上させたり、時代に合わせた機能を付け加える改良を加る「改修工事」を実施することで、資産価値を維持しつつ長期にわたって役割を果たすことが可能になります。
改修工事とは?
改修工事とは、建物の新築時の性能を維持するだけでなく向上させる工事のことです。最新の技術で性能を向上させたり、時代に合わせた機能を付け加えたりすることが期待されます。
補修工事・修繕工事との違い
改修工事と混同されやすいのが、補修工事と修繕工事です。
突発的な故障や損傷に対応するのが補修工事で、建物の新築時の状態からの経年劣化や損傷を回復してもとの性能に近付けるのが修繕工事とされます。
補修工事はどちらかと言うと対処療法的な工事を指すのに対して、修繕工事は調査をした上で計画的に実施することが一般的です。
建物のもとの性能以上の耐久性や機能を持たせるのが改良工事で、修繕工事と同時に実施されることも多くあります。
修繕工事+改良工事が「改修工事」の基本概念と捉えて間違いないでしょう。
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改良工事とリノベーション
改修工事の中には、時代や周辺環境の変化に合わせた建物の用途変更(リノベーション)工事も含まれます。例えば、少子高齢化にともなって保育所を老人福祉施設に変更するなどの例が挙げられるでしょう。
確認申請が必要な改修工事
改修工事のなかには建築確認申請が必要な改修工事もあります。その場合は設計図書の審査および完了検査が必要となることに注意しましょう。
建築確認申請が必要になると、計画および設計期間が通常の改修工事よりも掛かって費用もアップすることが一般的です。
建築確認申請が必要な工事は次の三つの場合です。
①建物の主要構造部の一種以上について行う「大規模の修繕」と「大規模な模様替え」に該当する場合
※ただし、小規模建築物は確認申請が不要
②建物の10㎡以上の増築
③特殊建築物の用途変更
用語 | 解説 |
---|---|
主要構造部 | 建物の壁・柱・床・梁・屋根・階段のこと |
大規模の修繕 | 主要構造部の過半が工事の対象となる、同じ材料・仕様での修復や更新工事 |
大規模の模様替え | 主要構造部の過半が工事の対象となる、もとの材料・仕様と異なるもので行う更新工事 |
小規模建築物 | ・木造2階建て以下で床面積が500㎡以下の建築物 ・木造以外の構造で平屋建て床面積が200㎡以下の建築物 |
特殊建築物 | 安全上・防災上重要な商業施設・学校・病院・劇場・工場など、多くの人が利用する建物 |
改修工事を実施するメリット
改修工事を実施するメリットを2点紹介します。
資産価値と集客力の向上
一つ目のメリットは、建物の資産価値の維持および向上です。
劣化し汚れた建物は、収益物件としての競争力が弱まり価値を失っていきます。マンションやオフィスビルなどの場合は、入居付けに苦戦し空室が増えてしまうことになりかねません。商業施設の場合でも、古く劣化した建物は近隣の競合店よりも集客力が落ちてしまうでしょう。
自社ビルであっても、定期的な改修工事を実施することによって企業のイメージダウンを避けるとともに、従業員のモチベーションアップにもつながる可能性があります。
利便性と安全性の向上
二つ目のメリットは、建物の利便性と安全性の向上です。
古くなった電気や給排水・空調などの建築設備を最新のものに更新すれば、建物の快適性を高めることになります。工場などは改修工事によって生産性の向上も期待できるでしょう。
また、旧耐震基準の建物は耐震補強を検討することによって大地震時の建物被害を最小限に食い止めて、人命を守ることにつながります。
改修工事の対象と種類
改修工事の例を、建物の部位別に紹介します。
構造躯体
①コンクリートの中性化防止処置
建物の基礎やRC造の柱や外壁などには、鉄筋コンクリート構造が使用されています。
鉄筋はコンクリートのアルカリ性によって保護されており錆びにくくなっていますが、コンクリートのひび割れによって雨水が浸透すると錆びて膨張し、構造強度を著しく損なってしまいます。
また、コンクリートは外気にさらされると長年のうちにアルカリ性が失われて中性化し、鉄筋の錆を食い止める効果が薄れて行きます。
それを防ぐために、ひび割れの修繕だけでなく保護塗装などによって外側の被膜を強化すると鉄筋コンクリートの長寿命化につながります。
②耐震補強
昭和56年(1981年)以前に建築確認申請を受けた建物は「旧耐震基準」とされ、現在の基準と比較して大幅に耐震性能が劣ります。
そのため、外部にブレース(筋交い)を設置したり制振ダンパーを取り付ける耐震補強をすることが望ましいとされています。
外装
①高耐久塗装・遮熱塗装
外壁の塗装はウレタン系やシリコン系のものが多く使用されていますが、通常の塗装よりも耐久性の高いフッ素系のものを使用すると塗り替えサイクルを長期化することができます。
また、中空ビーズを混合したものなどの遮熱・断熱塗装をすると室内環境を良好に保てます。
②防水グレードアップ
修繕で多く採用されるウレタン系屋上防水の保証期間は一般的に10年ですが、シート系防水工法の中には20年保証のものもあります。
工法選定の際には、費用と塗り替えサイクルのトータルで評価することが重要です。
③サッシやドアの断熱・気密化
室内の熱損失の6割を占めるとされる窓などの開口部を断熱・気密化すると、室内の快適性能が各段に増します。
サッシごと交換するのは多くの費用が掛かりますが、内窓を設置したりガラスをLow-e複層ガラスに交換することでも大きな効果が得られます。
内装
①木質化
天井や壁に使用されているビニールクロスを修繕する際に天然木の板張りにグレードアップすると、心理的なリラックス効果が得られます。
店舗やオフィステナントなどでは高級感を演出することにもつながり、集客効果も見込めるでしょう。
また、床材をシート系のものからフローリングなどの板張りに変えると、歩行の際の疲労が軽減できます。浮き床工法での板張りを上層階に採用すると、下層への歩行騒音や振動も軽減する効果も得られるため積極的に検討しましょう。
②大空間化
リノベーションで有効なのが、間仕切り壁の撤去です。これまで細かく部屋で区切っていた間取りを大空間にして、様々な用途に活用できるようにします。
賃貸ビルなどでは対応可能な業種の幅を広げることにもつながり、入居付けが良くなる可能性もあります。
設備
①高効率空調の導入・ヒートポンプ給湯方式への変更、調光式照明の導入
空調や給湯設備の更新に際して、高効率型空調やヒートポンプ給湯器を採用するとその後のランニングコストが大幅に改善します。
センサー式の調光照明の導入も電気使用量を20〜30%削減する効果があります。
イニシャルコストの上昇分は補助金でまかなえる場合もあるため、専門業者に相談してみましょう。
②EV充電設備の設置
自動車のEV化が急速に広まっており、2035年には原則として新車販売は原則としてEVあるいはHVなどに制限されることが政府方針で決まっています。
それを受けて、マンションや商業施設の駐車場にEV充電設備を導入する動きは避けて通れないでしょう。
改修工事のコストを抑えるポイント
改修工事を実行するには、それなりにまとまった費用が必要となります。工事費用を抑えつつ、効果的な改修工事を実施するためのポイントについてご紹介します。
改修工事の中長期計画を立てる
改修工事はスケジュールを組んで計画的に実施するべきものです。
例えば、マンションの場合は12〜15年周期で大規模修繕工事をすることが国土交通省の指針として提示されています。
不具合や故障が発生する前に、保証期間や耐用年数が過ぎたものを更新する修繕工事を実施することが基本的な考え方となりますが、そのタイミングで同時に改良工事も検討するべきでしょう。
工事は一度にまとめて実施する方が仮設費や管理費をまとめられますので、計画的にまとめて工事を実施する方がコストメリットも得られるはずです。
適切なタイミングで事前調査をする
修繕工事および改修工事の計画スケジュールの1〜2年前に事前調査を実施し、工事見積を取得します。
その際には複数の工事業者から見積を取得し、比較検討する時間的余裕を確保することが望ましいでしょう。
工事を実行するタイミングとしては、年度初めや年末などの業者の繁忙期を避けた工期設定をするとコストダウンしやすい傾向があるため、早めの調査および交渉で時間的余裕を持って工事業者に発注することに大きなメリットがあります。
コンストラクションマネジメント会社などの専門家へ委託する
工事費の見積の妥当性を判断するために、コンストラクションマネジメント(CM)方式の導入も検討しましょう。
CM方式は、施主の立場に立つコンストラクションマネージャーが建設業者の見積を検証したり技術的な助言をするものです。
CM費用を支払っても結果的に工事費がコストダウンする事例が多いため、CM方式を検討する価値は十分にあるでしょう。
計画的に改修工事を実施して建物の資産価値を向上させましょう!
ここまで、改修工事の内容と実施するメリット、費用を抑えるためのポイントなどについて解説してきました。
改修工事を実施すると、建物の資産価値を維持するだけでなく、向上させる効果も期待できます。適切なタイミングを逃さないためには、改修工事の専門知識の豊富な建設業者に早期に相談することが重要です。