積算業務を適切に行うには、業務の手順について正確に理解する必要があります。この記事では一般的な建築積算業務のフローと、建築積算業務に役立つスキルや資格についてわかりやすく解説していきます。
そもそも積算とは
建築積算とは、建築生産活動の上流の企画段階から下流の維持保全段階まで全てのプロセスにおけるコストに関与し、ものづくりにおいて機能と経済性のバランスを図り、社会にとって価値の大きい建築物の創造に貢献する業務をいいます。
また、狭義の積算としては、設計図書(設計図や仕様書など関係資料の総称)から適正な工事価格を算定することです。
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建築積算は、定められた分類体系(内訳書標準書式)と数量算出ルール(数量積算基準)に則り、工事に必要な細目毎の数量を計測・計算し、単価を乗じて適正な工事価格を推計します。建物の用途や規模は様々であり、建物を構成する部品や材料は膨大で多岐にわたるため、積算を行う人には専門的な知識と技術が不可欠です。
積算の業務フロー
建築積算の業務フローは大きく分けて9つのステップから成り立っています。それぞれについて詳しく見ていきましょう。
ステップ1:設計図書の受領
建築積算業務は、発注者や設計者から設計図書を受領した段階から始まります。設計図書を受領するにあたり、発注者や設計者からプロジェクトおよび設計内容の説明を受けたり、工事範囲や積算業務の範囲あるいは業務スケジュールなどを確認します。
ステップ2:積算準備
積算業務をスタートするにあたって、設計図書の内容確認や積算スケジュールに即して作業分担を行います。業務責任者は各担当者に対し業務内容の説明を行います。
積算業務の分担は、大きくは建築と設備に区分されますが、建築は躯体、外部仕上、内部仕上、建具、外構などに、設備は電気設備、機械設備などに区分されて担当者が決められます。大規模な建物においては、一つの区分を複数人が担当することになります。
建物や工事の特徴と、それに起因する積算上の注意点について事前に確認しておくことは、積算品質を高めるためにとても効果的です。
また、必要に応じて現地調査を行い、施工計画や仮設計画を策定し積算に反映します。
ステップ3:数量算出
設計図書から建物を構成する必要項目の計測・計算を行い、数量を算出します。また、共通仮設、直接仮設、土工事については、施工計画にもとづき必要項目の数量を算出します。現在、大部分の建築プロジェクトにおいて、積算ソフトを活用して数量算出を行っています。
ステップ4:質疑応答
設計図書の内容についての不整合や不明点などについて設計者に質疑を行い、回答内容に応じて積算内容に反映します。
現状では、設計図書に不整合や未記載などが発生することは避けられないことであり、積算精度を高めるために的確な質疑を行うことは、積算業務において重要な過程と位置づけられています。
ステップ5:集計表の作成
数量を算出した計算書を項目別に集計します。内訳明細書を作成する準備段階です。
ステップ6:内訳明細書の作成
集計表から内訳明細書を作成します。工事科目による分類をベースとする「工種別内訳書式」、あるいは建物の構成要素により分類する「部分別内訳書式」により細目と数量が記述されます。現在、大部分の建築プロジェクトにおいて、数量と連動した積算ソフトにより内訳明細書を作成しています。
また、この段階で数量についてのチェックを行います。
単価表にない項目、あるいはメーカーや専門工事会社から下見積を徴集しない項目については、単価を算定するために「代価表」を作成します。代価表は材料や手間(労務費)などの単価構成細目から複合単価をつくりあげるためのもので、主に公共工事で実施されています。労務工数(歩掛)については、国土交通省の基準などいくつかの資料が刊行されていますのでそれらを活用します。
ステップ7:下見積の徴集
一品受注生産品である建物を構成する製品・部品・建材などはプロジェクトごとに大きく異なり、事前に全ての項目に関する単価データを用意することはできません。出現頻度の高い定型的な項目以外は、その都度メーカーあるいは専門工事会社から下見積を徴集します。一般的に、複数の企業から同一項目の見積を徴集して、見積比較表を作成のうえ積算に採用する単価を決定します。
ステップ8:値入作業
細目ごとに単価を設定します。ゼネコンの場合は、自社の下請契約価格の実績値により作成した単価表を用いるケースがあります。公共工事などの場合は、発注機関ごとに単価表が用意されていることが多く、また刊行物単価も準用することが一般的です。
大部分の公共建築工事においては、統一した工事費算定ソフトを活用して値入作業が行われています。また、民間建築工事においては、大手クラスのゼネコンなどが各社独自の工事費算定ソフトを開発・活用し、事前原価算定から提出用見積書作成までを行っています。
STEP5で徴集したメーカーあるいは専門工事会社の下見積については、適切な掛率(値引き率)を乗じて積算単価を設定します。
また、仮設工事や躯体工事に関しては、敷地条件や施工計画が単価に大きく影響するため注意が必要です。
ステップ9:工事価格の算定
直接工事費につづき、共通仮設費、現場管理費あるいは一般管理費等を算定し、全体の工事価格を算定します。
また、全体がまとまった段階で、積算内容(項目・数量・金額)の最終チェックを行います。
積算業務に必要なスキル
建築積算業務を効率的に行うためには、以下のような様々なスキルが求められます。
設計図書の理解力
建築積算業務では、設計図や仕様書など設計図書の内容を理解し、建物の全体像を詳細に把握する読解能力が不可欠です。設計図書を正確に理解することで、適正な項目・数量を算出し、適切な値入を行うことができます。
実務において多くの設計図に触れることにより、設計図の構成や記載内容について体系的に習得することができます。特に「公共工事標準仕様書」を理解しておくことは、重要な用語などの建築に関する基礎知識も身につけることになります。
設計に関する基本知識
建築基準法をはじめとした各種法規あるいは構造関係などの基本的知識は、設計図書を理解し、設計者と対話するためにも必要な知識です。また、環境に関する様々な知識は、今後ますます重要となります。
施工に関する知識
工事価格の積算とは、実際に建物をつくりあげるために必要なコストを算定するものです。したがって、どのように建物をつくりあげるのか、どのようなところでコストが発生するのかといった、施工に関する知識は積算に必須のものとなります。
ゼネコンの社員として実際の工事現場を経験することが最も望ましいキャリアパスではありますが、机上で必要な知識を習得することも十分可能です。
特に、共通仮設計画、足場計画、掘削および山留計画などは、積算実務に直結しますので、体系的な知識を身につけることが大切です。また、工程表に関しては、作成は行わないものの、内容を読み解くだけの知識は身につけたいものです。
材料や工法に関する知識
建築材料や施工工法などに関する知識も大切です。材料の特性やコストなどに関する知識を体系的に身につけることは、数量算出や値入業務に限らずVE(バリュー・エンジニアリング)を行ううえでも役に立ちます。
これらの知識は、積算技術者が最も得意とする分野であり、まず最初に身につけるべき積算の基盤となる知識といえるでしょう。
価格相場に関する知識
コストに関する様々な価格相場に関する知識は、業務の幅を広げるためにも重要です。建物の相場は、一般的には床面積当り価格(坪単価)で語られます。坪単価は必ずしも正確な物差しではありませんが、おおまかな相場観としては把握しておくことが望ましいでしょう。また、材料価格や労務単価、あるいはメーカー見積に対する掛率などはおおよそのレベル感でも把握しておきたいものです。
社会経済の動向に関する知識
建築関係のコストは社会経済の動きに大きく影響されます。国際的な設備投資や材料の需要供給状況の変化などにより、国内建設マーケットの需給バランスが変化することも多くみられます。また、法令の改正や行政の動きも建築コストに影響を与えます。
したがって、このようなマクロ的な動向を含めて視野を大きくしておくことが大切です。
ITに関するスキル
建設のDX化にともない、ITに関するスキルはますます重要になっています。現状の積算はコンピュータソフトが必須であり、今後ますますBIMあるいはAIなどとの連携も進んでいくと考えられます。積算技術者は、様々なIT機器やコンピュータソフトを使いこなすスキルを持つ必要があります。
コミュニケーション能力
積算業務は単独で行われるものではなく、設計者、施工者、発注者など様々な関係者とのコミュニケーションを必要とします。明確なコミュニケーションによって、ミスの防止や積算の品質向上が図られます。また、高いコミュニケーション能力は、コストマネジメントにも必須のスキルです。
積算業務に役立つ資格
積算業務に従事する上で役立つ資格を紹介します。これらの資格は、積算の知識と技術を証明すると同時に、業務の効率と質を向上させる優れた手段となるでしょう。
建築積算士
建築積算士は、建築工事の積算に関する幅広い知識と技術を証明する資格です。もともとは国土交通省の大臣認定資格(建築積算資格者)でしたが、現在は公益社団法人日本建築積算協会が実施する民間資格となっています。
試験は一次試験と二次試験で構成されています。一次試験は学科試験です。二次試験は短文記述試験と工事費の算出や工事内訳明細を作成する実技試験です。実践的な技術が求められるため、比較的難関資格といえますが、17歳以上であれば受験できますのでチャレンジしやすい資格です。
関連リンク:公益社団法人 日本建築積算協会
建築コスト管理士
建築コスト管理士は建築積算士の上位資格にあたり、プロジェクトの設計から維持管理にいたるライフサイクル全体におけるコストをマネジメントするための高度な専門知識が求められる資格です。
試験は学科と筆記(短文記述)で構成されます。主な受験資格は以下の通りです(いずれかを満たすこと)。
・建築積算士の称号を取得後、更新登録を1回以上行っている
・建築関連業務を5年以上経験している
・一級建築士に合格し、登録している
建築コスト管理士は、建築積算士を取得した方が次にチャレンジする資格といえるでしょう。
正しい手順で積算業務をスムーズに行いましょう
積算は、建築プロジェクトを進めていく際の重要な作業の一つで、その精度が価値の高い建物の創造など事業の成果に大いに影響を与えます。業務を効率的に遂行するためには、専門的な知識と技術だけでなく、適切な資格取得も視野に入れてみてはいかがでしょうか。積算業務を通じて、建築プロジェクトを成功に導きましょう。