設計施工一括発注方式とは、設計事務所を介さず設計と施工を一括で建設会社に依頼する方法です。本記事では設計施工一括発注方式の導入によるメリットに加え、デメリットや注意すべき点についてもわかりやすく解説していきます。
設計施工一括発注方式とは?
設計施工一括発注方式とは、建築工事や土木工事における発注方式のひとつで、設計事務所を介さずに設計と施工を一括で建設会社に依頼する方法を指します。
公共工事ではDB(デザインビルド:Design Build)方式とも呼ばれ、民間の施工業者の優れた技術を活用し、合理的かつ効率的な設計で経済的な施工の実現を目指す場合に広く採用されています。
以下に、民間企業が設計施工一括発注方式を採用する場合の流れについて説明します。
設計施工一括発注方式の流れ
①企画設計スタート・要項書の作成
まずは自社が必要とする建物の概要を固めます。必要な規模や機能、プロジェクト全体のスケジュールや予算をこの段階で策定し、要項書としてまとめます。
②概算見積の取得
要項書を基に、候補となる建設会社に設計施工一括発注の概算見積を取得します。一社だけでなく、複数の候補先から見積を取得するようにしましょう。
③設計施工一括発注業者の選定
概算見積金額だけでなく、実績や期待できる品質等を総合的に社内で検討し、複数の業者の中から依頼する建設会社を選定します。
過去に取引があり、信頼関係が構築されている建設会社の場合は、概算見積を省いて直接依頼するケースもあります。
④実施設計完了・工事請負契約
候補建設会社を選定したら、まずは基本設計・実施設計の業務委託契約を締結します。この段階では、まだ工事金額は決まらないことに注意してください。
概算見積金額内に収めることを目標として設計は進んでいるはずですが、正式には実施設計完了後に詳細な見積をし、金額に双方が合意したら工事請負契約の締結となります。
設計施工一括発注方式のメリット
設計施工一括発注方式を採用するメリットについて、以下にまとめてみました。
施工ノウハウや専門技術を反映した合理的な設計が期待できる
建設会社(ゼネコン)が持つ施工のノウハウや専門技術を反映した合理的な設計が可能になることが大きな魅力です。
合理的設計により、建設工事費のコストダウンにつながる提案が期待できます。
計画の初期段階からコストコントロールをしやすくなる
設計施工一括発注方式を採用すると、初期の計画段階から工事費や工期を高い精度で確認できるようになります。
施工と一体となった設計提案により、コストコントロールがしやすいことも特徴です。工事開始後の設計変更により追加金額が発生する可能性が低くなり、コスト変動のリスクが小さくなるでしょう。
プロジェクト全体での工期短縮が期待できる
建設会社が実施設計も行うことにより、設計から施工へのスムーズな連携や、資材の先行発注などの手法によって工期の短縮が期待できます。
アフターメンテナンスが発生した場合の責任が明確になる
設計と施工をゼネコンに一括で発注するため、設計責任と施工責任が一体となります。
万が一引き渡し後に不具合が発生した場合には、瑕疵担保責任の所在を1社に集約できるため、明確でスピーディな対応が期待できます。
発注者の業務負担が軽減できる
設計施工一括発注方式では、対応窓口が建設会社に一本化されます。
設計業務を設計事務所に、施工を建設会社にそれぞれ発注する場合と比較して、発注者の業務負担が大きく軽減されるでしょう。
設計施工一括発注方式のデメリット
設計施工一括発注方式にはいくつかのデメリットもあります。
デメリットをよく理解したうえで、設計施工一括発注方式を採用しましょう。
工事費の妥当性が検証しづらくなる
設計施工一括発注方式では、設計と施工を建設会社一括で行うため、発注者側は工事費の妥当性を検証しづらくなる傾向があります。
また、実施設計が完了した後の相見積や競争入札が無いため、競争原理によるコストダウンが狙いにくい側面もあります。
客観的な品質チェックがしづらくなる
一般的に設計施工一括発注方式では、まだ建築計画が固まっていない企画設計段階で建設会社を決めて依頼することになります。
ざっくりとした規模や性能の要件での発注になるため、仕様や工法の決定をまるごと建設会社に委ねてしまうケースが多いでしょう。
設計者による客観的なチェック機能が働きにくくなるため、品質を確保するためには発注者側にも経験と知識が必要になります。
コストアップにつながる要望がしづらくなる
全体のコスト調整ありきの設計となりがちで、商業施設やテナントビル、集合住宅など集客面で競合がある建物の場合は、他社との差別化がしづらくなります。
また、発注者側都合による工事途中の設計変更には建設会社がシビアな対応をとることも少なくありません。
設計施工一括発注方式に向いている発注者
以下のようなケースでは、設計施工一括発注方式での発注に取り組むと大きな効果が出る可能性があります。
設計施工一括発注方式の導入を積極的に検討してみましょう。
チェーンストア等大量出店を計画している事業者
既に多数の建築実績があり、作る建物が明確に決まっている場合は設計施工一括発注方式を採用すると大幅に建築コストを削減できる可能性があります。
既に建築されている実例がある場合は設計や見積に掛かる時間が大幅に短縮できますし、先行事例の問題点をフィードバックした経済設計と合理的な施工方法の選択により、設計・施工コストを圧縮することが期待できます。
工期短縮を図りたい事業者
計画が立ち上がってから建築工事の完成までの期間が短い場合は、設計施工一括発注方式により全体工期の短縮が図れます。
設計から工事の完工までワンストップで進行し、手戻りが少ないことも設計施工一括発注方式の利点と言えます。
従業員の負担を極力減らしたい事業者
本業が多忙で、建築プロジェクトに社内のマンパワーを割り当てられない事業者にも、設計施工一括発注方式はおすすめです。
窓口が建設会社の営業担当に一本化できるため、意思の疎通がスムーズです。
設計施工一括発注方式の注意点
設計施工一括発注方式を採用した場合、設計事務所が発注者の代理人として工事に関与することがありません。このため建設会社の都合によって工事の仕様や品質が大きく変えられてしまう危険性があることにも注意が必要です。
自社の希望をまとめた「要項書」を策定する
設計施工一括発注方式を採用するにあたって、基本計画や発注要件を発注者側でまとめた「要項書」を策定しましょう。
これは、主導権があくまで発注者側にあることを明らかにしておくために非常に重要なプロセスです。
要項書には、設計から工事完工までの各段階で要求する成果物と希望納期、希望する建築物の仕様・性能と費用などを盛り込みます。
基本設計を設計事務所やコンサルタントに依頼する方法も検討
要項書をまとめるためのスキルやノウハウが自社に無い場合は、基本設計の部分を設計事務所やコンサルタントに依頼する方式もあります。
ただし、外部委託費用や準備調整期間が余計に掛かることにもなり、設計施工一括発注方式の本来のメリットである工期短縮・コスト削減効果が薄れる可能性もあります。
設計施工一括発注方式の導入で工期短縮とコストダウンを実現しよう
ここまで、設計施工一括発注方式の概要とメリット・デメリットなどについて解説してきました。
設計施工一括発注方式は、作りたい建物が明確に決まっている場合には、工期を短縮しコストダウンを図るための大きな武器となります。
ただし、建設会社の方針と施工手法に多くをゆだねることになりますので、コスト調整のため知らないうちに仕様や性能がランクダウンされていた…などと言うケースが存在するのも事実です。
設計施工一括発注方式の弱点であるコストや品質の客観性を担保するためには、自社でノウハウを保有しているか、ある程度の知識やスキルのある人材を確保する必要があります。
外部の建築コンサルタントを起用したとしても大きなメリットが得られる可能性がありますので、それも視野に入れて設計施工一括発注方式の採用を検討されてはいかがでしょうか。